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アジアの富裕層旅行者の間で、従来の「贅沢な休息」とは一線を画す新たな旅行スタイルが急速に広がっている。「高機能バケーション(High-Functioning Holidays)」と呼ばれるこのトレンドは、休暇中も健康習慣やパフォーマンス最適化のルーティンを維持・強化することを目的としたもので、ラグジュアリー旅行市場の構造そのものを変えつつある。ベトナムを含むアジア太平洋地域の観光・ホスピタリティ産業にとって、この潮流は見逃せない成長機会となる可能性がある。
「休暇中も自分をアップグレード」——90%が健康体験を重視
マリオット・インターナショナル(Marriott International)傘下のラグジュアリー・グループ(Luxury Group)が2025年に発表した調査レポート「The Intentional Traveler」によると、アジア太平洋地域7市場(オーストラリア、シンガポール、インド、インドネシア、韓国、日本、タイ)の高資産旅行者1,750人を対象にした調査で、実に90%が「ウェルネス体験が予約の決定要因である」と回答した。この数字は前年の80%から大幅に上昇しており、健康志向が加速度的に高まっていることを示している。
かつてのラグジュアリー旅行といえば、日常から切り離された「享楽」や「非日常の贅沢」が主流であった。しかし、現在の成功した旅行者層、とりわけアジアの富裕層にとって、休暇は日常の生活習慣を中断するものではなく、むしろそれを「より良い環境で強化する」ための機会へと変容している。休暇から戻った時に、より健康で、精神的にクリアで、エネルギーに満ちた状態であること——これが新しいラグジュアリーの定義になりつつあるのである。
パリ発の高級ヴィラレンタル企業が語る「高機能バケーション」の実態
この新潮流を象徴する企業の一つが、2014年にパリで設立されたル・コレクショニスト(Le Collectionist)である。同社はフレンチ・リヴィエラやサン・バルテルミー島(カリブ海のフランス領)など世界各地で厳選されたラグジュアリーヴィラのレンタルサービスを展開しており、プライベートな宿泊空間にホテル水準のバトラー(執事)サービスを組み合わせることで、旅行者が日常のルーティンを旅先でも維持できる環境を提供している。
同社の最高執行責任者(COO)であるエティエンヌ・ナジョット(Etienne Nageotte)氏は、「ル・コレクショニストにとって、高機能バケーションとは、ラグジュアリーの概念が『日常からの離脱』から『ライフスタイルとの調和』へと転換した瞬間を意味する」と語る。「旅行者は自分の習慣を捨てるために旅に出るのではなく、それをよりインスピレーションに満ちた環境に置くために旅に出るのだ」。
具体的には、顧客はあらかじめ設計されたプログラムを携えて到着する。栄養計画、トレーニングサイクル、リカバリー(回復)プログラム、そして睡眠目標に至るまで、すべてが事前に共有される。ル・コレクショニストのバトラーチームは、必要な機器の設置から、顧客の栄養プランを正確に実行できるシェフの選定まで、到着前にすべての準備を整えるという。
アジア富裕層に特に響く理由——「規律」としてのウェルネス
「高機能バケーション」のトレンドはグローバルに広がっているが、特にアジアの富裕層旅行者との親和性が高い。その背景には、アジア文化圏における健康管理が「一時的な享楽」ではなく、「規律ある長期的プロセス」として捉えられているという文化的特性がある。
アジアの高級旅行市場では、旅行がますます「規則正しさ」「バランス」「自己研鑽」といった文化的価値観を反映するようになっている。多くのアジア人旅行者にとって、休暇の目的は「オフにする」ことではなく、新しい環境の中でバランスの取れた状態を維持することにある。
ナジョット氏によれば、アジアの顧客は日々の「儀式(リチュアル)」を中心に設計されたヴィラや、機能別に明確にゾーニングされた空間を特に求める傾向があるという。「朝のエクササイズスペース、リカバリーエリア、そして栄養管理された食事を取りつつもコミュニケーションが生まれるダイニングエリア——こうした機能分離が可能なヴィラへの関心が非常に高い」と同氏は述べている。
興味深いのは、この「高機能バケーション」の背後にある哲学が、欧米とアジアで微妙に異なる点である。欧州や北米では、体力の向上や寿命延長(ロンジェビティ)の科学研究に基づくアプローチが主流である一方、アジアでは「安定性とバランスの維持」が動機となることが多い。ナジョット氏は「習慣は、パフォーマンスの向上ではなく、バランスとエネルギーレベルの保全のために維持される。構造は同じでも、背後にある哲学が異なるのだ」と指摘する。
スパからロンジェビティ・リトリートへ——業界の大転換
「高機能バケーション」の台頭は、世界のウェルネス産業全体における大きな構造転換の一部でもある。特に注目すべきは、「ロンジェビティ・リトリート(longevity retreat=長寿型休暇)」と呼ばれる新しい滞在型プログラムの急成長である。これは医学的診断、個別化されたリカバリー療法、そして身体と認知の両面を最適化するための構造化されたライフスタイル介入を組み合わせたもので、従来のスパリゾートとは一線を画す。
特にミレニアル世代やZ世代の若い富裕層にとって、こうしたアプローチは自然な延長線上にある。ウェアラブルデバイスによる身体データの常時モニタリング、代謝測定、パーソナライズされた栄養プランなどは、すでに彼らの日常生活に深く組み込まれているからである。
実際に、こうしたトレンドに対応するラグジュアリー施設も増えている。ソンツァム・グループ(Songtsam Group)は、チベット出身の映画監督バイマ・ドゥオジ(Baima Duoji)氏が2000年に設立した企業で、中国・雲南省からチベット自治区にかけてブティック型リゾートを展開している。同グループは、タイガーリーピング渓谷(虎跳峡)を巡るガイド付きトレッキングや、リカバリースパ、瞑想プログラムなど、文化体験とウェルネスを融合させたサービスを提供している。
また、インターコンチネンタル上海ワンダーランド(InterContinental Shanghai Wonderland)は、上海市松江区にある深さ88メートルの採石場跡に建設されたユニークなホテルで、ラグジュアリーな宿泊体験にロッククライミングやバンジージャンプといったアドベンチャー要素を加え、さらにスパやリカバリースペースも完備するという、まさに「高機能バケーション」を体現した施設である。
こうした事例が示すのは、ウェルネス・ツーリズムが「リラクゼーション」から「パフォーマンス最適化」へと明確にシフトしているという事実である。「高機能バケーション」とは、日常から「逃避」するための休暇ではなく、今ある生活そのものをアップグレードするための休暇なのである。
投資家・ビジネス視点の考察——ベトナム観光・ホスピタリティ産業への示唆
今回のトレンドは、ベトナムの観光・ホスピタリティ産業に複数の示唆を与えるものである。
第一に、ベトナムはすでにダナン、フーコック島、ニャチャンなどに世界的ブランドのリゾートが集積しており、ウェルネスツーリズムの受け皿となるインフラが整いつつある。ビングループ(Vingroup)傘下のヴィンパール(Vinpearl)やサングループ(Sun Group)といった大手デベロッパーが展開する高級リゾートは、こうした「高機能バケーション」への対応を進めることで、より高単価な顧客層を取り込める可能性がある。
第二に、ベトナム株式市場においては、観光・ホスピタリティ関連銘柄——例えばヴィンパール(VinWonders運営)、サンワールド(Sun World)関連、さらには航空会社のベトジェット(VJC)やバンブー・エアウェイズ(BAV)——が、アジア富裕層のインバウンド需要の構造変化から恩恵を受ける局面が来る可能性がある。特に、2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナムの格上げが実現すれば、海外からの投資資金流入と合わせて観光関連セクターへの注目度が一段と高まることが予想される。
第三に、日本企業にとっても示唆は大きい。日本はマリオットの調査対象7市場の一つであり、日本の高資産旅行者もこのトレンドの主要な担い手である。日系ホテルチェーンやウェルネス関連企業がベトナム市場で「高機能バケーション」対応の施設やサービスを展開することは、有望な事業機会となり得る。
ベトナム政府が掲げる観光収入の高付加価値化戦略とも合致するこのトレンドは、単なる流行ではなく、アジアの富裕層消費の構造変化を反映した中長期的な潮流として注視すべきである。
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出典: 元記事












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