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米国のドナルド・トランプ大統領が、一部の輸入医薬品に対して100%の関税を課すと発表した。同時に、鉄鋼・アルミニウム・銅を含む製品については関税を半減させる措置も打ち出している。米国の通商政策が再び大きく動いた形であり、ベトナムを含むアジア諸国の製薬・素材産業に波紋が広がっている。
トランプ関税の概要——医薬品100%、鉄鋼・アルミ・銅含有製品は半減
トランプ大統領が今回発動したのは、大きく分けて二つの措置である。第一に、米国に輸入される一部の医薬品(dược phẩm)に対して100%という極めて高率の関税を賦課すること。第二に、鉄鋼(thép)、アルミニウム(nhôm)、銅(đồng)を含有する製品に対しては、既存の関税率を50%引き下げるという措置である。
医薬品への100%関税は、トランプ政権が掲げる「米国内での医薬品製造回帰」を推進する狙いがあるとみられる。米国の医薬品市場は世界最大であり、原薬(API)やジェネリック医薬品の多くをインド、中国、そして近年はベトナムなど東南アジア諸国からの輸入に頼っている。トランプ大統領は以前から「米国民の健康に関わる医薬品を外国に依存するのは安全保障上のリスクだ」と繰り返し主張しており、今回の措置はその延長線上にある。
一方、鉄鋼・アルミ・銅を含む製品の関税半減は、米国内の製造業、とりわけ自動車・建設・電子機器産業のコスト負担軽減を意図したものと考えられる。トランプ政権は過去にも鉄鋼・アルミに追加関税を課してきたが、米国内のサプライチェーンへの悪影響が指摘されており、今回は部分的な緩和に踏み切った格好である。
ベトナム製薬産業への直接的影響
ベトナムの医薬品産業は近年、急速に成長してきた分野の一つである。国内市場向けのジェネリック医薬品製造が中心ではあるものの、一部企業は米国向けの原薬・完成品の輸出にも取り組んでいる。ベトナム証券市場に上場する主要な製薬企業としては、ハウザン製薬(DHG Pharma、銘柄コード:DHG)、ドムスコ(Domesco、銘柄コード:DMC)、トラファコ(Traphaco、銘柄コード:TRA)、インファーメディクス(Imexpharm、銘柄コード:IMP)などが挙げられる。
ただし、現時点でベトナムから米国への医薬品輸出額は、ベトナムの対米輸出全体から見れば限定的である。ベトナムの対米輸出の主力は依然として電子機器、繊維・アパレル、水産物、木製家具などであり、医薬品が占める比率は小さい。したがって、今回の100%関税がベトナム製薬業界全体に壊滅的な打撃を与えるとは考えにくい。
しかし、中長期的な視点では注意が必要である。ベトナム政府は製薬産業を「戦略的産業」と位置づけ、輸出拡大を目指す政策を推進してきた。WHO-GMP(世界保健機関の医薬品製造管理基準)やEU-GMP認証を取得するベトナム企業が増加しており、米国FDA(食品医薬品局)の承認取得を目指す動きもあった。今回の関税措置は、こうした米国市場への進出戦略に冷水を浴びせる可能性がある。
鉄鋼・アルミ・銅関連——ベトナム企業にとっての追い風
一方、鉄鋼・アルミ・銅を含む製品の関税半減は、ベトナムの鉄鋼・金属加工企業にとってはポジティブな材料となり得る。ベトナムはホアファット・グループ(Hoa Phat Group、銘柄コード:HPG、ベトナム最大の鉄鋼メーカー)をはじめ、鉄鋼製品の対米輸出を拡大してきた実績がある。また、アルミニウム関連ではベトナム・アルミニウム・コーポレーションなどが生産を行っている。
米国での関税負担が軽減されれば、ベトナム産の鉄鋼・アルミ含有製品の価格競争力が相対的に高まり、輸出量の増加が期待できる。ただし、トランプ政権の通商政策は朝令暮改の面もあり、今後再び方針が変わるリスクは常に念頭に置く必要がある。
背景にある米中対立とサプライチェーン再編
今回の措置は、より大きな文脈で見れば、米中間の戦略的競争の一環でもある。中国は世界の原薬生産の大部分を担っており、米国の医薬品サプライチェーンにおける中国依存は長年の課題とされてきた。トランプ政権が医薬品に高関税を課す背景には、中国からの医薬品・原薬輸入を抑制し、国内生産またはインド・ベトナムなど「友好国」への調達先シフトを促す意図があると分析される。
しかし、今回の関税は国別ではなく品目別に一律100%が適用されるとみられ、ベトナムを含む中国以外の国も同様に影響を受ける形となっている。この点は、ベトナムが「チャイナ+1」戦略の受け皿として期待されてきた文脈と矛盾する部分であり、ベトナム政府としても対応を検討する必要があるだろう。
投資家・ビジネス視点の考察
【ベトナム株式市場への影響】
短期的には、製薬セクター(DHG、IMP、DMC、TRAなど)に対するセンチメントがやや悪化する可能性があるが、前述の通り対米輸出比率が低いため、実質的な業績インパクトは限定的と考えられる。むしろ注目すべきは鉄鋼セクターであり、HPG(ホアファット)やNKG(南キムグループ)など対米輸出比率の高い銘柄には追い風となる可能性がある。
【日本企業・ベトナム進出企業への影響】
ベトナムに製造拠点を持つ日本の製薬企業やジェネリックメーカーにとって、米国向け輸出戦略の見直しが必要となる局面が出てくる可能性がある。一方、鉄鋼・金属加工分野でベトナムに進出している日本企業(例:JFEスチールはベトナムで合弁事業を展開)にとっては、米国市場へのアクセスが改善する好材料と言える。
【FTSE新興市場指数への格上げとの関連】
2026年9月に決定が見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げは、外国人投資家の資金流入を大幅に増加させると期待されている。今回のトランプ関税措置は、ベトナム経済全体のファンダメンタルズを毀損するほどのインパクトではないものの、米国の通商政策リスクが「カントリーリスク」として意識されることで、格上げ後の資金流入ペースに影響を与える可能性はゼロではない。投資家としては、個別セクターの影響を精査しつつ、ベトナム市場全体の構造的な成長ストーリーが損なわれていないかを冷静に見極める必要がある。
【ベトナム経済全体における位置づけ】
ベトナムは対米輸出依存度が高い経済構造を持つ。2025年にはベトナムの対米貿易黒字が拡大し続けており、トランプ政権からの圧力が断続的に強まっている。今回は医薬品という特定品目への措置だが、今後さらなる品目拡大や、ベトナムを名指しした関税強化の可能性も否定できない。ベトナム政府は米国との貿易交渉を継続しており、LNG(液化天然ガス)や航空機など米国製品の調達拡大を通じて関係改善を図っているが、トランプ政権の出方次第では予断を許さない状況が続くだろう。
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出典: 元記事












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