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ハノイ市人民委員会が保有していた物流・サービス企業インターセルコ(Interserco、銘柄コード:ILS、UPCoM上場)の株式45%を競売にかけ、約2,950億ドンでの売却に成功した。ベトナム政府が長年推進してきた国有資本撤退(ベトナム語で「thoái vốn」)の一環であり、2026年に入りハノイ市が実行した大型ディールとして市場関係者の注目を集めている。
競売の概要──1,620万株を国内投資家23名が争奪
ハノイ証券取引所(HNX)が公表した情報によると、ハノイ市人民委員会は保有するILS株1,620万株(定款資本の45%に相当)を場外取引方式で全量売却する方針を発表。売出期間は2026年3月10日〜3月26日に設定され、1株あたりの開始価格は1万8,180ドンとされた。
3月20日午前に実施された競売の結果、参加した投資家は計23名で、そのすべてが国内投資家であった。内訳は機関投資家1社、個人投資家22名。登録された購入希望株数は合計1,746万株と、売出数量の1,620万株を上回る「応札超過」の状態となった。
機関投資家は100万株の購入を登録し、残る1,646万株は個人投資家による申し込みであった。入札価格の最高値は1株2万910ドン、最低値は開始価格と同じ1万8,180ドンであった。
落札の加重平均価格は1株あたり1万8,197ドンとなり、開始価格からわずか17ドンの上昇にとどまった。この結果、売却総額はおよそ2,950億ドンとなっている。購入代金の納入期限は3月20日〜26日に設定された。
インターセルコ(ILS)とはどんな企業か
インターセルコ(正式名称:CTCP Đầu tư Thương mại và Dịch vụ Quốc tế=国際投資商業サービス株式会社)は、もともとハノイ市人民委員会直轄の国営企業であった。事業領域はロジスティクス、労働者派遣、ICD(内陸コンテナデポ)ミーディン(Mỹ Đình)の運営、複合一貫輸送など、物流を中核とした多角的な事業ポートフォリオを持つ。
2015年12月にハノイ市人民委員会が企業価値の査定と株式会社化(コーポラタイゼーション)の方針を承認し、国営の有限責任会社から株式会社へと転換された。本社はハノイ市カウザイ(Cầu Giấy)区ファムフン(Phạm Hùng)通り17番地に置かれ、定款資本は3,600億ドンである。
今回の売却前の時点で、ハノイ市人民委員会(45%)に加え、航空ロジスティクス株式会社(CTCP Logistics Hàng không、銘柄コード:ALS)が27%の株式を保有する大株主として名を連ねていた。インターセルコ側は、今回の資本撤退は新たな資金調達を目的としたものではなく、株主構成の変更にすぎないと説明している。定款資本自体に変更はない。
株価の動き──情報公開後に急騰、その後急落
市場における株価の動きは注目に値する。競売情報が公開された後、ILS株は一時3万6,300ドン(3月12日時点)まで急騰した。しかし、3月23日午後の時点では前日比12.27%安の1万9,300ドンまで下落しており、競売の落札平均価格1万8,197ドンに近い水準まで調整が進んでいる。競売前の投機的な買いが一巡し、実態に見合った価格に収斂しつつある状況と読み取れる。
業績の推移と2026年の見通し
2025年のインターセルコの業績は好調であった。連結純売上高はおよそ2,230億ドンで前年比20%増。純利益はおよそ160億ドンで前年比14%増となった。利益の押し上げ要因としては、事業協力契約の精算、土地賃借費用の削減、引当金計上済みの売掛金の回収などが挙げられている。年間利益計画(435万9,000ドン)に対しては200%超の達成率となった。
一方、2026年の暫定目標として、連結売上高はおよそ4,080億ドンと大幅な増収を見込んでいるものの、純利益は120億ドン超へと減少を予想している。売上拡大にもかかわらず利益が縮小する見通しである点は、コスト構造の変化や一時的な利益要因の剥落を示唆しており、投資判断においては留意が必要である。
投資家・ビジネス視点の考察
1. ベトナム国有資本撤退の加速
ベトナム政府は2025年から2026年にかけて、国有企業の株式売却・資本撤退を加速させる方針を打ち出している。今回のハノイ市によるILS株の全量売却は、その具体的な実行事例の一つである。国有資本撤退は市場への株式供給を増やし、流動性の向上やコーポレートガバナンスの改善につながるとして、外国人投資家からも歓迎されることが多い。ただし、ILSの競売に参加したのは全員が国内投資家であった点は、外国人投資家にとっての同社の認知度や魅力にはまだ課題があることを示している。
2. 物流セクターの成長性
ILSの中核事業であるロジスティクス分野は、ベトナム経済の成長に伴い需要拡大が続いている。特にICD(内陸コンテナデポ)の運営は、ハノイ都市圏の物流インフラの要として戦略的な価値が高い。大株主であるALS(航空ロジスティクス)との協業関係が今後どう発展するかも注目ポイントである。日本の物流企業にとっても、ベトナムの物流網への投資や提携の観点から関連動向をフォローする意義がある。
3. FTSE新興市場指数への格上げとの関連
ベトナムは2026年9月にFTSE新興市場指数への格上げが決定される見込みである。格上げに向けた要件の一つとして、市場の流動性向上や透明性の確保が求められている。国有資本撤退による民間株主の増加は、フリーフロート比率の改善にもつながるため、FTSE格上げに向けた追い風と位置づけられる。ILSのような中小型銘柄が直接的にFTSE指数に組み込まれる可能性は限定的だが、市場全体のガバナンス改善という文脈では意味のある動きである。
4. 競売価格の低調さが示す市場の冷静さ
落札平均価格が開始価格をわずか17ドンしか上回らなかったことは、投資家がILSの企業価値を慎重に評価した結果と解釈できる。2026年の減益見通しも影響した可能性がある。株価が一時3万6,300ドンまで急騰した後に1万9,300ドンまで急落した動きは、ベトナムのUPCoM市場(未上場公開市場)における中小型株特有のボラティリティの高さを如実に表しており、個人投資家にとってはリスク管理の重要性を改めて認識させる事例といえる。
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出典: 元記事












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