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ベトナム政府が暗号資産(仮想通貨)の譲渡取引に対し、譲渡価格の0.1%を課税する新制度を正式に施行した。国内外を問わず、個人投資家であれば一律にこの税率が適用される。東南アジアにおける暗号資産の主要市場であるベトナムが、ついに本格的な課税の枠組みを整えたことは、同国のデジタル経済政策における大きな転換点となる。
新税制の概要—誰が、いくら納めるのか
今回導入された税制では、暗号資産(ベトナム語で「tài sản mã hóa」=コード化資産)を譲渡した際に、その譲渡価格(売却額)に対して0.1%の税が課せられる。注目すべきは、この税が「利益」ではなく「譲渡価格」に対して課税される点である。つまり、仮に損失が出た取引であっても、売却額に対して税が発生する仕組みだ。対象は個人投資家であり、ベトナム国籍を持つ居住者だけでなく、外国籍の投資家も等しく課税対象となる。
この0.1%という税率は、ベトナムの既存の証券譲渡税と同一の水準である。ベトナムの株式市場では、上場株式の売却時に譲渡価格の0.1%が個人所得税として源泉徴収される制度がすでに定着しており、今回の暗号資産課税はこの既存制度を暗号資産にも拡張適用した形と理解できる。
背景—世界有数の暗号資産大国ベトナム
ベトナムは、暗号資産の普及率において世界でもトップクラスに位置する国である。チェイナリシス(Chainalysis)が毎年発表する「暗号資産普及指数(Global Crypto Adoption Index)」では、ベトナムは過去数年にわたり上位にランクインし続けている。その背景には、若年層人口の多さ(人口約1億人の中央年齢は約30歳)、スマートフォン普及率の高さ、そして銀行口座を持たない層が依然として一定数存在するという金融包摂の課題がある。
一方で、ベトナム政府はこれまで暗号資産の法的地位について明確な定義を避けてきた経緯がある。ベトナム国家銀行(中央銀行)は暗号資産を「合法的な支払手段ではない」と繰り返し声明を出してきたが、保有や取引そのものを明確に禁止する法律は存在しなかった。この法的グレーゾーンの中で、多くのベトナム人投資家が海外の取引所を通じてビットコインやイーサリアムなどの暗号資産を活発に売買してきた。
こうした状況に対し、ベトナム政府は近年、暗号資産を「禁止」するのではなく「規制・課税」する方向へと舵を切りつつあった。今回の0.1%課税の導入は、その具体的な第一歩と位置づけられる。
課税の実務的な課題
制度としては明快だが、実際の徴税には多くの課題が予想される。最大の論点は、分散型の取引所(DEX)やピアツーピア(P2P)取引をどのように捕捉するかという点である。中央集権型の取引所(CEX)であれば、取引所側が源泉徴収を行う仕組みを構築できる可能性があるが、海外の取引所やDeFi(分散型金融)プロトコルを利用した取引については、現時点で実効的な徴税手段が整っていない。
また、ベトナム国内にはまだ正式にライセンスを取得した暗号資産取引所が存在しないという根本的な問題もある。今後、取引所のライセンス制度の整備と併せて、課税インフラの構築が進められるものと見られる。
東南アジア各国との比較
東南アジアにおける暗号資産課税の動向を見ると、タイが2022年に暗号資産の譲渡益に対して15%のキャピタルゲイン税を導入(ただしその後、取引所を通じた取引についてはVAT免除措置も実施)、フィリピンも課税の検討を進めている。シンガポールはキャピタルゲイン税が存在しないため、暗号資産の譲渡益にも原則非課税という立場を取っている。
ベトナムの0.1%という税率は、国際的に見ても極めて低い水準である。これは、まず制度の枠組みを確立し、投資家に過度な負担を与えずに課税の仕組みを定着させるという、段階的なアプローチの表れと解釈できる。ただし、将来的に税率が引き上げられる可能性は排除できない。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の暗号資産課税の導入は、ベトナムの金融市場全体にとって複数の示唆を持つ。
1. ベトナム株式市場への影響
暗号資産に対する規制の明確化は、短期的には暗号資産市場から株式市場への資金シフトを促す可能性がある。ベトナムの個人投資家は暗号資産と株式の両方に投資している層が厚く、暗号資産取引のコストが「見える化」されることで、相対的に株式投資の魅力が増す可能性がある。特に、ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場するテクノロジー関連銘柄やフィンテック企業への注目が高まるかもしれない。
2. FTSE新興市場指数への格上げとの関連
2026年9月に予定されるFTSEラッセルによるベトナムのフロンティア市場から新興市場への格上げ判定は、ベトナムの資本市場制度の成熟度が重要な評価ポイントとなる。暗号資産という新たな資産クラスに対して課税制度を整備したことは、ベトナム政府が金融規制全般の透明性・制度化を推進しているという国際的なシグナルとなりうる。直接的にFTSE格上げの判定基準に影響するわけではないが、「制度整備に取り組む姿勢」の一環として、間接的にポジティブに評価される可能性がある。
3. 日本企業・ベトナム進出企業への影響
ブロックチェーン技術やWeb3関連でベトナム市場への進出を検討している日本企業にとっては、暗号資産に関する税制の明確化は事業計画の策定をしやすくする要因となる。これまでの法的グレーゾーンでは、コンプライアンス上のリスクが障壁となっていたが、課税制度の整備により「ルールの中で活動できる」環境が徐々に形成されつつある。SBIグループやソフトバンクグループなど、すでにベトナムのフィンテック・デジタル金融分野に投資実績のある日本企業にとっても、今後の事業展開を見通す上で重要な制度変更である。
4. ベトナム経済全体のトレンドにおける位置づけ
ベトナムは現在、デジタル経済の推進を国家戦略の柱の一つに据えている。暗号資産の課税制度導入は、より広い文脈では「デジタル経済の制度化」の一環であり、電子決済、デジタルバンキング、フィンテック産業全体の法整備と連動した動きである。ベトナム政府が「禁止」ではなく「規制と共存」の道を選んだことは、同国のデジタル経済戦略が現実的かつ成長志向であることを示している。
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