ベトナムで「在地輸出入(xuất nhập khẩu tại chỗ)」と呼ばれる特殊な貿易形態をめぐり、企業から手続きの遅延やコスト増への懸念が噴出している。2025年に施行された通達121号(Thông tư số 121/2025/TT-BTC)と政令167号(Nghị định 167/2025/NĐ-CP)の間に規定の矛盾があり、現場では「どちらの規定に従うべきか」という混乱が広がっている。トヨタ・ベトナムなど大手製造業も問題提起に加わり、当局の対応が注目される。
「在地輸出入」とは何か──ベトナム特有の貿易スキーム
在地輸出入とは、外国企業の指示により、ベトナム国内の企業間で物品の受け渡しが行われるものの、通関上は「輸出」「輸入」として処理される取引形態である。典型的には、日本の親会社がベトナムのA社に部品を委託加工させ、完成品をベトナム国内のB社(別の取引先)に納品させるようなケースが該当する。書類上は国境を越えた貿易として扱われるため、関税や付加価値税の取り扱いが複雑化しやすい。
通達121号が定めた「15日ルール」と実務の乖離
問題の核心は、通達121号第1条第53項第4点にある。同規定は、在地輸入者が輸出側の通関完了または貨物リリースから15日以内に輸入通関手続きを行わなければならないと定めている。
しかし企業側によれば、輸出申告が「レッドチャネル(実物検査対象)」に分類された場合、検査完了とシステム上の通関確認を待たなければ輸入申告を登録できない。その間、貨物はトラックやコンテナ上で待機を余儀なくされ、倉庫保管料や車両留置費用が発生し、納品スケジュールにも影響が出ているという。
優先企業との取引に関する「事前通知」義務も課題に
通達121号は、優先企業(ưu tiên、AEO認定企業に相当)との初回取引時に事前通知を求めている。しかし、同通達の施行時点で既に進行中だった契約や出荷分について、どのような経過措置が適用されるのか明確な指針がなく、企業は対応に苦慮している。
再輸出・非関税区域向け輸出の取り扱いにも疑問
さらに複雑なのは、外国パートナーの指示で国内企業から委託加工用原材料を輸入し、その後同じ国内企業に再輸出するケースだ。「このような取引が現行法規に適合するのか」と多くの企業が疑問を呈している。契約の通知形式、契約変更時の処理方法、数量不足時の対応など、実務上の細則も不明確なままである。
トヨタ・ベトナムも「先に受け渡し、後で通関」の解釈を問う
トヨタ・ベトナム(Toyota Việt Nam)は、旧通達38号第86条が認めていた「先に貨物を受け渡し、後で通関手続きを行う」方式について、通達121号施行後も同様の運用が可能かどうかを税関当局に質問した。これは「通関前に貨物を使用開始してよいのか」という本質的な問いでもある。
政令167号と通達121号の「矛盾」──企業は板挟み状態
最も深刻な問題は、上位法令である政令167号と下位法令の通達121号の間に生じた規定の食い違いである。政令167号は「貨物の受け渡しを先に行い、通関手続きは後で」という順序を認めている。一方、通達121号は「輸入者が輸入申告を登録した後でなければ貨物を引き渡せない」と定めている。企業にとっては、どちらの規定を優先適用すべきか判断がつかない状況だ。
税関当局の回答──経過措置と手続きの明確化
税関総局はこれらの問い合わせに対し、以下の見解を示した。
まず、2026年2月1日以前に開始された契約・発注については、旧通達38号(2018年改正の通達39号を含む)を2026年度の決算報告期まで引き続き適用できるとした。これにより、進行中の取引の継続性は一定程度担保される。
契約通知の形式については、基本契約、詳細契約、契約付属書、または企業管理システム上の個別発注単位での通知が可能であり、電子システム、書面、電子メールのいずれでも税関に提出できると説明した。
通知義務の主体については、「輸出と輸入が同一の税関で行われる場合は出荷者が通知し、異なる税関で行われる場合は出荷者・受取者の双方がそれぞれの管轄税関に通知する」と明確化した。
「先に受け渡し、後で通関」の運用については、通達121号第1条第53項により「貨物の受け渡し完了後に使用可能」と規定されていること、また政令167号第35条第2項に基づく「先に受け渡し、後で通関」の方式は現時点で優先企業およびその取引先(委託加工・売買・貸借・受け渡しを行う相手方)にのみ適用されると回答した。
考察──日系製造業への影響と今後の焦点
ベトナムには多くの日系製造業が進出しており、サプライチェーン上で在地輸出入スキームを活用するケースは珍しくない。今回の規定の矛盾と手続き遅延は、部品調達や生産計画に直接的な影響を及ぼしうる。トヨタが公式に問題提起したことは、日系企業全体の懸念を代弁するものといえる。
今後は、政令と通達の整合性を図る追加ガイドラインの発出、あるいは通達の改正が焦点となる。当局が迅速に対応できるか、また企業側がどこまで柔軟に運用変更に適応できるかが、ベトナム製造業の競争力維持を左右するだろう。
出典: Vn Economy
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