ハノイ在住13年の現地投資家による、より深い企業分析・投資戦略は👉 メンバーシップで公開中
ベトナム政府が「文化遺産都市(đô thị di sản văn hóa)」という新たな都市モデルの試験導入に向け、土地賃料を最大50%優遇する仕組みを盛り込んだ政令案を公表した。文化産業と観光開発を一体的に推進する大型の制度設計であり、フエやホイアンなど世界遺産を擁する地方都市の開発に大きな影響を与える可能性がある。
政令案の概要—国会決議28号の具体化
2025年6月8日、ベトナム司法省は、国会決議第28/2026/QH16号(ベトナム文化発展に関する決議)の施行細則を定める政令案の審査資料を公開した。政令案は全35条で構成され、文化スポーツ観光省が起草を担当している。主な規定対象は以下の通りである。
- 文化創造産業クラスター・工業団地
- 文化創造複合施設(コンプレックス)
- 文化遺産都市モデルの試験導入基準
- 土地・手数料に関する優遇メカニズム
最大50%の土地賃料優遇—その仕組み
政令案の中で最も注目すべきは、文化遺産都市における土地賃料の優遇制度である。省級人民評議会(地方議会に相当)が、特定の空間ごとに土地賃料の優遇単価を決定できるとされ、その優遇幅は現行規定の単価と比較して最大50%を超えない範囲と定められている。
この優遇メカニズムの対象となるのは、文化遺産分野における観光・サービス事業への投資プロジェクト、公共投資・民間管理型プロジェクト、そしてPPP(官民パートナーシップ)方式による投資プロジェクトである。地方政府には、国の土地利用計画で配分された指標とは別に、文化遺産・文化産業分野の投資プロジェクト向けに独自の土地利用指標を設定する権限も付与される。
「文化遺産都市」の試験導入—8つの基準
政令案によると、文化遺産都市モデルの試験導入にあたっては8つの具体的基準が設けられる。主な基準として、当該地域にユネスコまたは国家レベルで認定・登録された有形文化遺産、無形文化遺産、あるいは記録遺産が多数存在することが挙げられている。
ベトナムには現在、フエ(Huế)の建造物群、ホイアン(Hội An)の古い町並み、ハロン湾(Vịnh Hạ Long)など8件の世界遺産(文化遺産・自然遺産)に加え、15件以上の無形文化遺産がユネスコに登録されている。こうした遺産が集中する都市が、今回の制度の主要な適用候補となる見込みである。
建設省の指摘—法的位置づけの明確化が課題
一方で、建設省は意見書の中で重要な懸念を表明している。「文化遺産都市」という概念について、既存の「遺産を有する都市」「史跡保護区域」「保存地区」「古い街並み」「古い村落」「特殊類型都市」などとの区別を明確にすべきだと指摘した。
建設省は、試験モデルの規定が都市体系・都市分類・都市農村計画・建築管理規則と連動している必要があるとし、法的地位、境界範囲、認定権限、管理メカニズム、関係機関の責任が不明確なまま新たな都市類型を生み出すことへの懸念を示している。さらに、文化遺産都市内での投資・サービス・観光・文化産業プロジェクトは、計画に適合し、景観・建築空間の保護および都市インフラの許容能力を満たす場合にのみ実施可能とすべきだと求めた。
文化創造産業クラスターの規模要件
政令案では、文化創造産業の拠点となる施設の規模基準も定められている。
- 文化創造工業団地:最低面積5ヘクタール以上
- 文化創造産業クラスター:面積2ヘクタール以上5ヘクタール未満
- 文化創造複合施設:改修・再生・用途変更する建物の場合、最低床面積2,000㎡〜5,000㎡
また、体験・文化観光ゾーンを統合するモデルの場合、公共活動・展示・文化交流のために床面積の最低10%を確保することが義務付けられる。
投資家・ビジネス視点の考察
本政令案は、ベトナムの文化・観光セクターに複数の重要なインプリケーションを持つ。
不動産・観光関連銘柄への影響:土地賃料最大50%優遇は、フエやホイアン周辺で観光開発を手がけるデベロッパーにとって直接的なコスト低減要因となる。ベトナム株式市場に上場する観光・ホスピタリティ関連企業、例えばビンパール(VinPearl)を傘下に持つビングループ(VIC、ベトナム最大手コングロマリット)や、中部地域でリゾート開発を進める各社にとって、中長期的な追い風となり得る。
日本企業への示唆:日本はベトナムの文化遺産保存分野で長年の協力実績を持つ。フエの王宮修復やホイアンの保存事業にはJICA(国際協力機構)が深く関与してきた。今回の制度整備により、文化遺産周辺での観光インフラ・サービス分野への日系企業の参入機会が広がる可能性がある。PPP方式の対象にも含まれているため、官民連携型のプロジェクトへの日本企業の参画余地も注目される。
FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに向けて、ベトナムは制度の透明性・予見可能性を高める改革を加速している。文化産業という「ソフト面」の法整備も、ベトナムが単なる製造業拠点から多層的な経済構造へと進化していることを示す一つのシグナルとして、海外機関投資家の評価に寄与する可能性がある。
リスク要因:建設省が指摘したように、「文化遺産都市」の法的定義があいまいなまま制度が走り出せば、既存の都市計画・土地管理制度との矛盾が生じるリスクがある。また、優遇措置を目的とした安易な「文化遺産都市」認定の乱発が起これば、制度の信頼性が損なわれかねない。政令の最終版でこうした論点がどう整理されるかが鍵となる。
いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
✅ 個別銘柄の詳細分析 ✅ FTSE格上げ関連速報 ✅ 現地だからわかるリアルタイム情報
👉 月額980円でメンバーシップに参加する
出典: 元記事












コメント