ベトナムが、世界のハイテク産業地図において確固たる地位を築きつつある。2025年は同国にとって記録的な年となり、半導体・AI(人工知能)・データインフラといったコア技術分野に数十億ドル規模の投資が殺到。政府主導の政策転換と国内企業の技術自立への挑戦が重なり、ベトナムは「組み立て工場」から「技術を支配する国」へと変貌を遂げようとしている。
史上最大の投資ラッシュ ─ 半導体だけで116億ドル
ベトナム統計総局によると、2025年12月31日時点で、製造・加工業への海外直接投資(FDI)は新規登録と増資を合わせて185億9,000万ドルに達し、FDI総額の59.2%を占めた。特筆すべきは、2025年1〜10月の10カ月間だけで半導体産業に約116億ドルのFDIが流入したことだ。これは世界的なサプライチェーン再編の波に乗り、大手テクノロジー企業が「チャイナ・プラスワン」戦略の最有力候補としてベトナムを選んだ結果である。
投資の質も大きく向上した。かつての労働集約型工場への投資から、研究開発(R&D)拠点や最先端製造施設への大型プロジェクトへとシフトしている。
Amkor・Hana Micronが拠点拡大 ─ 北部に半導体クラスター形成
象徴的な事例が、米国の半導体パッケージング大手Amkor Technology(アムコー・テクノロジー)のベトナム法人だ。バクニン省(ハノイ近郊の工業地帯)に2023年10月、5億2,000万ドルで工場を稼働させると、わずか10カ月後の2024年7月には10億7,000万ドルを追加投資。総投資額は16億ドルに達し、当初計画より11年も前倒しで拡張を完了した。2025年第1四半期末時点で実際に投下された資金は8億5,000万ドルを超え、同工場はAmkorにとって世界最大のチップパッケージング拠点となった。
韓国系のHana Micron(ハナ・マイクロン)もバクザン省(北部山岳地帯に近い新興工業エリア)で攻勢をかける。当初6億ドルだった投資額を2027年までに10億ドル超へ引き上げ、次世代モバイル機器向け基板の一貫生産体制を構築する計画だ。
Nvidiaがベトナムを「第二の故郷」に ─ VinBrain買収で本格参入
世界的なAIブームの恩恵を最も受けたのがベトナムである。GPU大手のNvidia(エヌビディア)は、スーパーコンピュータインフラから人材育成まで包括的なAIエコシステムの構築を約束し、ベトナムを「予備拠点」ではなく「戦略的本拠地」と位置づけた。
2024年12月、NvidiaはベトナムのコングロマリットVingroup(ビングループ)傘下のAI医療スタートアップVinBrain(ビンブレイン)を6,270億ドン超で買収。さらに2025年8月には、Nvidia Vietnam社の定款資本を110万ドルに増資し、本格的な事業拡大の準備を整えた。
また、米国の半導体設計企業Marvell(マーベル)とSynopsys(シノプシス)は、ダナン市とホーチミン市に数十億ドル規模のR&Dセンターを設立。次世代チップの設計を現地で手がけ始めている。
「衛星エコシステム」の誕生 ─ 台湾・韓国・米国の部品メーカーが集結
大手企業の進出は、数百社に及ぶサプライヤーの追随を生んだ。台湾、韓国、米国の部品・素材メーカーがバクニン省、タイグエン省、ダナン市、ホーチミン市といった重点地域に集結し、本格的な半導体産業クラスターが形成されつつある。これは多国籍企業がベトナムの政治的安定性と成長ポテンシャルに対して強い信頼を寄せている証左といえる。
国内勢も覚醒 ─ Viettelが5Gチップを自社設計
外資の波に刺激され、ベトナム国内企業も「Make in Vietnam(メイド・イン・ベトナム)」の精神で技術自立に挑んでいる。
軍系通信大手のViettel(ベトテル)は2025年、ベトナム初となる5G SoCチップ「DEF」の設計に成功した。通信用チップの設計には極めて高度な技術が求められるが、これを国内で実現したことは画期的である。さらに2025年2月から12月にかけて2万3,500基以上の基地局(BTS)を展開し、うち2,000基以上が自社開発の「Make in Vietnam」製品だ。これによりベトナムは、次世代通信インフラを自前で構築できる世界でも数少ない国のひとつとなった。
2026年1月には、ホアラック・ハイテクパーク(ハノイ西郊の国家級ハイテク工業団地)でベトナム初のハイテクチップ製造工場の建設に着工。2027年の完成を目指し、設計から製造までの一貫体制を国内で完結させる計画だ。
FPTはAI工場を稼働 ─ 数百億ドル規模の受注獲得
ベトナム最大のIT企業FPTも、半導体・AI分野へ急速に軸足を移している。子会社のFPT Semiconductorは2025年、日本、台湾、韓国のパートナーから数億ドル規模の受注を獲得。また、Nvidiaとの提携で「AIファクトリー」を運営し、国内企業に超高性能の計算インフラを提供している。これにより、ベトナム企業がAIを導入する際のデータ主権の確保とコスト最適化が可能となった。
政府の「行動」─ 税優遇から直接支援への転換
2025年の成果は、政府の管理思想が「約束」から「実行」へ、「文書」から「実戦」へと転換した結果でもある。
グローバル・ミニマム税(GMT)の導入で従来の税優遇措置が競争力を失う中、ベトナムは「投資支援基金」を通じた新たな戦術を採用した。減税の代わりに、R&D活動、人材育成、ハイテクインフラへの直接支援を行い、大型投資家の引き留めと新規プロジェクトの誘致に成功している。
法整備面では、2025年に「ハイテク法(改正)」と「人工知能法」が成立し、透明で安全な法的枠組みが整備された。ダナン市とホーチミン市では「サンドボックス(規制の砂場)」制度を試験導入し、自動運転車、物流用ドローン、ブロックチェーン型デジタル金融といった前例のない技術の実証実験を可能にした。これにより、研究室から市場投入までの時間が大幅に短縮されている。
5万人の半導体エンジニア育成計画が始動
「5万人の半導体エンジニア育成」というスローガンも、もはや掛け声だけではない。教育訓練省と計画投資省(現・財務省)が連携し、工学系学生向けの短期転換プログラムを展開。政府予算とFDI企業からの資金援助で、専門的なチップ設計教育を受けられる体制が整った。ハノイ、ダナン、ホーチミン市には「共用型半導体トレーニングセンター」が設立され、企業と大学が高額な設備を共同利用できる仕組みが構築されている。
エネルギー問題も解決 ─ グリーン電力の直接購入が可能に
半導体産業にとって生命線ともいえる安定電力の確保についても、政府は断固たる措置を講じた。ハイテク工業団地への優先的なグリーン電力・安定電力の供給を決定。直接電力購入契約(DPPA)の規制緩和により、ハイテク工場は再生可能エネルギー源から直接電力を調達できるようになり、国際的なESG(環境・社会・ガバナンス)基準を満たすことが可能となった。
2026年以降の展望 ─ デジタル経済GDP比25%超へ
2026年に入り、ベトナムは半導体・AI等のコア技術分野でさらなる加速が期待されている。政府目標では、今後数年でデジタル経済がGDPの25%以上を占めることを目指す。
2025年11月末、グエン・チー・ズン副首相は国家イノベーションセンター(NIC)でベトナム・イノベーション・ネットワークおよび戦略技術分野の専門家との会合で次のように強調した。
「FDI企業、国内企業、そして『行動する政府』が一体となれば、ベトナムのコア技術産業は千載一遇のチャンスを迎えている。将来の技術大国となる夢を実現する好機だ」
日本企業への示唆
ベトナムの急速な技術自立化は、日本企業にとっても大きな意味を持つ。これまで「低コストの生産拠点」として捉えられがちだったベトナムは、今やR&Dパートナー、半導体サプライチェーンの重要なノード、そしてAI応用の実験場としての価値を高めている。FPT Semiconductorが日本企業から大型受注を獲得している事実は、すでに日越間の技術協力が新たなステージに入ったことを示している。
一方で、人材獲得競争の激化、電力需給の逼迫リスク、急速な法改正への対応といった課題も残る。日本企業がベトナム市場で成功するためには、単なる製造委託ではなく、共同研究開発や人材育成への投資を通じた「共創型」のアプローチが求められるだろう。
出典:Vn Economy
いかがでしたでしょうか。今回のベトナム・コア技術産業の転換点について、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
【noteメンバーシップのご案内】
より詳細なベトナムの経済ニュース解説や企業の投資分析、現地からのリアルタイム情報をお求めの方は、ぜひメンバーシップへのご参加をご検討ください。
https://note.com/gonviet/membership












コメント