ベトナムが原子力発電の国家戦略を正式決定――2035年にニントゥアン原発2基稼働、2050年に電力の6〜8%を原子力で賄う計画

Việt Nam đặt mục tiêu điện hạt nhân chiếm 6-8% sản lượng điện quốc gia vào năm 2050

ベトナム政府は2026年3月16日付の首相決定第438号により、「2035年までの平和目的の原子力エネルギー開発・応用戦略(2050年ビジョン)」を正式に承認した。グエン・チー・ズン(Nguyễn Chí Dũng)副首相が署名したこの戦略は、原子力を国家の重要な経済・技術分野に位置付け、2050年までに温室効果ガスの実質排出ゼロ(ネットゼロ)を実現するという国際公約の達成にも寄与する包括的な青写真である。

目次

一度は白紙撤回された原発計画の「復活」

ベトナムの原子力発電計画は、実は長い紆余曲折を経ている。同国は2009年、南中部沿岸のニントゥアン省(Ninh Thuận)に2カ所の原子力発電所を建設する計画を国会で承認した。ニントゥアン第1原発はロシアの技術協力、第2原発は日本の技術協力のもとで建設が進む予定だった。しかし2016年11月、原油価格の低迷や経済成長の鈍化、建設コストの増大などを理由に、国会は計画の白紙撤回を決議。日本にとっても、福島第一原発事故後の原発輸出戦略における大きな挫折となった経緯がある。

ところが、その後のベトナムの急速な経済成長と電力需要の爆発的な増加、さらに2021年のCOP26で表明した2050年ネットゼロ目標の達成という課題が、原発計画の再検討を促した。2024年頃から政府内で原発再開の議論が本格化し、今回の戦略承認に至ったのである。

2035年目標:ニントゥアン原発2基の稼働とSMR導入

戦略の中核を成すのは、2035年までの具体的な目標である。主なポイントは以下の通りだ。

①ニントゥアン第1・第2原子力発電所の完成と稼働開始
かつて凍結された2カ所の原発を建設・完成させ、安全に運転を開始する。立地はいずれもニントゥアン省で、ベトナム南中部の乾燥した海岸地帯に位置する。地震リスクが比較的低く、冷却水の確保が容易な沿岸部という立地条件が選定理由とされている。

②国内企業の参画率30%
原発建設における付帯設備の建設・据付工事について、国内企業の参画率を総投資額の30%まで引き上げることを目指す。これは単なるエネルギー政策にとどまらず、国内産業の育成と技術移転を同時に推進する狙いがある。

③小型モジュール炉(SMR)の導入
少なくとも1基の小型モジュール炉(SMR:Small Modular Reactor)プロジェクトの展開を目指す。SMRは従来の大型原発に比べて建設期間が短く、初期投資も小さいため、近年世界的に注目を集めている次世代技術である。

④原子力インフラの整備完了
安全規制体制、廃棄物管理、緊急時対応計画など、原子力発電に必要なインフラ全般の整備を完了させる方針だ。

放射線・放射性同位体の応用拡大と医療分野の近代化

戦略は発電分野だけにとどまらない。放射線技術や放射性同位体の産業・医療応用についても、年平均10〜15%の成長を目標に掲げている。

特に医療分野では、ASEAN域内で先進的な水準を達成することを目指し、具体的な数値目標が設定された。人口100万人あたりCTスキャナー20台、MRI装置10台、核医学画像診断装置(シンチグラフィー)1台、放射線治療用リニアック(線形加速器)1〜2台を整備し、X線検査のデジタル化率100%を達成するとしている。現在のベトナムでは地方部を中心に医療機器の不足が深刻であり、この目標が実現すれば国民の医療アクセスは大幅に改善されることになる。

さらに、工業分野では品質管理や材料改質への放射線技術の活用、放射線計測機器の国産化による輸入代替も推進する方針だ。

研究基盤と人材育成の強化

原子力技術を支える研究・教育体制の整備も重点課題として位置付けられている。2035年までの具体的な計画は以下の通りである。

・原子力発電技術、レアアース・ウラン・チタン技術に関する国家重点実験室2カ所の設置
・先端実験室3〜5カ所の整備
・原子力発電所や研究用原子炉の技術を習得できる研究グループ4〜5チームの育成
・国際水準の原子力関連大学教育機関3〜5校への投資

ベトナムにはダラット(Đà Lạt)に旧ソ連時代に建設された研究用原子炉が1基あるが、老朽化が進んでおり、新たな研究炉の建設も長年の課題となっている。今回の戦略はこうした研究基盤の刷新にも本格的に取り組む姿勢を示したものだ。

2050年ビジョン:原子力で電力の6〜8%を賄い、地域の拠点国へ

長期的な2050年ビジョンでは、原子力エネルギーを国家の重要な経済・技術部門に成長させ、エネルギー安全保障とグリーン経済の実現に実質的に貢献する産業とすることを目標としている。

具体的には、原子力発電が国家総発電量の6〜8%を占める水準を目指す。そのために、大型原子炉をさらに4基、小型モジュール炉を10〜15基追加する計画だ。ただし、経済・技術的な条件に応じて規模や構成は柔軟に調整するとしている。

また、原子力技術の基本的な自主化を達成し、設計・製造・建設・機器生産の能力を持つ国内企業・グループを育成する方針も明記された。大型加速器センターの運用開始も計画に含まれており、ベトナムを東南アジアにおける原子力の教育・研究・応用の地域拠点に成長させるという壮大な目標が掲げられている。

日本企業・日本のエネルギー政策への影響

今回の戦略決定は、日本にとっても無関係ではない。2016年の計画白紙撤回時、日本はニントゥアン第2原発への技術協力を予定しており、日本原子力発電や三菱重工業などが関与していた。計画が復活した今、日本企業が再び参画の機会を得る可能性がある。

特に注目すべきは、SMR(小型モジュール炉)の導入計画である。日本でも日立製作所やIHIなどがSMR関連技術の開発を進めており、ベトナム市場は有力な輸出先候補となり得る。また、ベトナム政府が掲げる「国内企業参画率30%」という目標は、合弁事業や技術移転を通じた進出形態を日本企業に求めることを意味しており、戦略的なパートナーシップの構築が鍵となるだろう。

一方で、ベトナムにおける原子力安全規制体制の成熟度や、住民の合意形成プロセス、使用済み核燃料の管理計画など、未解決の課題も少なくない。2035年という運転開始目標が現実的かどうかは、今後の建設スケジュールや国際協力の進展次第であり、予断を許さない状況だ。

いずれにせよ、東南アジア最大級の原子力開発プログラムが本格始動したことは、地域のエネルギー地図を大きく塗り替える可能性を秘めている。ベトナムの電力需要は年率8〜10%で増加を続けており、再生可能エネルギーだけでは対応しきれない現実がある。原子力という選択肢がどのように具体化されるか、今後の動向を注視する必要がある。

出典: Vn Economy

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