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2026年3月25日、ハノイで開催されたインド・ベトナム医薬品ビジネスマッチング会議において、インド商工会議所(Incham)とベトナム製薬企業協会がMOU(覚書)を締結した。「世界の薬局」と称されるインドの製薬力とベトナムの急成長するヘルスケア市場を結ぶ戦略的連携が、いよいよ具体的なビジネスの段階に入ろうとしている。
両国の包括的戦略パートナーシップ10周年を前に、医薬品を最初のテーマに選定
今回の会議は、在ベトナム・インド大使館とIncham(在ベトナム・インド企業協会)が共催したもので、インド側から40社以上、ベトナム側から100社以上の医療・ヘルスケア関連企業の代表者が参加した。出席者には、ツェリン・W・シェルパ駐ベトナム・インド大使、ベトナム保健省医薬品管理局のタ・マイン・フン副局長、Inchamハノイのナヴェンドゥ・クマール会長らが名を連ねた。
会議が開かれたタイミングには象徴的な意味がある。2026年はベトナムとインドの「包括的戦略パートナーシップ(CSP)」締結10周年にあたり、シェルパ大使は開会挨拶で「医薬品を記念行事の最初のテーマとして意図的に選んだ」と強調した。「医薬品はすべての人に関わる。生活のあらゆる側面に関係し、私たちの暮らしをより良くする力を持っている」と同大使は述べた。
両国間にはすでに「保健分野に関する合同作業部会」などの制度的枠組みが存在するが、今回の会議は「外交上の善意を、より具体的なビジネス成果に転換したい」という双方の強い意志を反映したものである。
「世界の薬局」インドの圧倒的な製薬力
インドは「世界の薬局(Pharmacy of the World)」として広く知られている。その実力を示す数字は圧巻だ。世界のジェネリック医薬品(後発医薬品)の約20%をインドが供給しており、ワクチンに至っては世界供給量の60%を占める最大の供給国である。
2025年のインドの医薬品輸出額は約304億ドルに達し、米国や欧州など規制の厳しい市場にも強い浸透力を持つ。米国外で最多のUSFDA(米国食品医薬品局)準拠の製造施設を有し、WHO認定のGMP基準を満たす工場は2,000カ所を超える。競争力のある価格、豊富で高度な医療人材と相まって、インドはベトナムにとって極めて魅力的なパートナーとして位置づけられている。
特にベトナムは現在、手頃な価格での医薬品アクセスの拡大、安定した医薬品供給の確保、そして国内製造能力の向上という三つの課題に直面しており、インドの製薬力はこれらすべてに対する解決策となりうる。
ベトナム側は「Make in Việt Nam」戦略で国内製薬産業の育成を推進
会議ではベトナム保健省医薬品管理局の代表が、国内製薬産業の強化に向けた新政策を紹介した。ハイテク投資や国内生産への優遇措置を柱とする「Make in Việt Nam」戦略がその中核であり、これはベトナム政府が掲げる「2030年までの国家医薬品産業発展戦略」の一環である。輸入依存度を引き下げつつ、質の高い医薬品への国民のアクセスを改善することが最終目標だ。
この戦略は、インド企業にとっては単なる輸出先としてではなく、ベトナム国内で生産拠点を構え、技術移転を行うことで長期的な事業基盤を築く好機を意味する。実際に会議の場でも、このテーマをめぐる活発な議論が交わされた。
両国企業が示した具体的な関心分野
2つのセッションを経て、両国の企業は幅広い分野での協力拡大に強い関心を示した。具体的には、安価なジェネリック医薬品、ハイテク医療機器、病院管理システム、医薬品のR&D(研究開発)などが挙がった。
ベトナム側からは多彩な声が上がった。ベトナム地域保健協会副会長でリンチー(霊芝)関連企業の創業者でもあるグエン・ティ・チン准教授は、ナノテクノロジーやAIを活用した医薬品研究、クローズドチェーンでの製造技術移転、循環型経済への対応といった最先端分野での協力に関心を寄せた。
インド企業エルギ・エクイップメンツ社のグエン・ソン・トゥン営業部長は、輸入関税政策や医療機器・部品市場への参入について質問。一方、ベトナム民間病院協会のグエン・ヴァン・デ会長は、インドの病院との連携を通じてベトナムにおける高品質な民間病院チェーンの構築ノウハウを学びたいと表明し、「専門家、医師、エンジニアをインドに派遣して、機器の運用技術向上や患者サービスの効率化について研修を受けさせたい」と語った。
インド側からは、ザイダス・ライフサイエンス社のディーマン・ダス地域マネージャーが「ベトナムには安価なワクチン製造のポテンシャルがあるが、ワクチン産業の発展にはインフラと高度人材の確保が不可欠だ。政府レベルで民間セクターを支援するインフラ整備を推進する必要がある」と指摘した。
インド企業に求められる「長期思考」への転換
興味深いのは、インド企業自身に対する提言も会議の中で出された点である。インド大手製薬企業ドクター・レディーズ社のアルン・アフジャ氏は、「インド企業はビジネス戦略を短期志向から長期投資型へ転換すべきだ」と述べた。ベトナム政府が国内生産を優先する政策を推進している以上、ジェネリック医薬品の輸出(グループ2やグループ5に分類される製品)だけに注力するのは長期戦略にならないとの見解だ。
Inchamハノイのクマール会長は、今後の協力は①貿易と技術の融合、②医薬品原材料の開発、③ワクチン・バイオ医薬品の製造推進——の3つの柱に集中すべきだと提言した。シェルパ大使は「両国の協力の成功は売上だけでなく、地域の公衆衛生への貢献によっても測られるべきだ」とし、「インドを誇らしく、ベトナムを誇らしくする」ことを目標に掲げた。
MOU締結と次のステップ——2026年6月の合同作業部会
今回の会議の最大の成果は、InchamとVPMA(ベトナム製薬企業協会)の間でMOU(覚書)が正式に締結されたことである。これにより、両国間の医薬品分野のビジネス協力が制度化される道筋がつけられた。さらに、2026年6月にはハノイで「保健分野合同作業部会」の開催が予定されており、投資と長期的な戦略的協力を促進するための具体的な議論が進められる見通しだ。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のインド・ベトナム医薬品連携の動きは、ベトナム株式市場における製薬・ヘルスケアセクターの中長期的な注目度を高める材料となる。ベトナムの上場製薬企業としては、DHG(ハウザン製薬)、IMP(イムエクスファーム)、DMC(ドメスコ)などが挙げられるが、インドからの技術移転や合弁事業の進展次第では、これらの企業の事業拡大やバリュエーション見直しにつながる可能性がある。
また、ベトナム政府の「Make in Việt Nam」戦略は、単なる製薬分野にとどまらず、ハイテク製造業全般への外資誘致政策と軌を一にしている。2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げが実現すれば、ヘルスケアを含むベトナム市場全体への海外資金流入が加速する。インドの大手製薬企業がベトナムに生産拠点を構えるとなれば、それ自体がベトナムの製造業基盤の高度化を示すシグナルとして、格上げ判断にもポジティブに作用しうる。
日本企業にとっても、この動きは無視できない。日本の製薬・医療機器メーカーは従来、ベトナム市場への進出を独自に進めてきたが、今後はインド企業との競合・協業の両面を視野に入れる必要がある。特にジェネリック医薬品の価格競争力ではインドが圧倒的に優位であり、日本企業としては高付加価値製品や先端医療分野での差別化戦略がより一層重要になるだろう。一方で、インド・ベトナム間のサプライチェーンに日本企業が技術や品質管理のノウハウで参画する余地も十分に残されている。
ベトナムの高齢化の進行と中間層の拡大により、ヘルスケア市場は今後も構造的な成長が見込まれる。インドという「世界の薬局」との本格的な連携開始は、その成長を加速させる触媒となる可能性が高い。
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出典: 元記事












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