ベトナム経済は過去40年間、年平均6.38%という目覚ましい成長を遂げてきた。豊富で勤勉な労働力と競争力のある賃金水準が外国投資を呼び込み、数多くの自由貿易協定(FTA)の締結にもつながった。しかし今、資本集約型・安価な労働力依存型の成長モデルは限界に近づきつつあり、「中所得国の罠」という現実的なリスクに直面している。
「人口ボーナス」の折り返し地点
ベトナムは現在、生産年齢人口が非生産年齢人口の2倍を超える「人口ボーナス(黄金の人口構成期)」の恩恵を受けている。この有利な人口構成はあと15〜20年続くと見込まれているが、裏を返せばベトナムはすでにこの貴重な期間の半分以上を消化したことになる。人口構成が最も有利な状態を過ぎれば、財政・医療・社会保障への負担が増大し、高成長シナリオの実現が困難になる。待ち受けるのは「中所得国の罠」か、あるいは「長期停滞」だ。
低下する投資効率——ICOR指標が示す警告
世界銀行の2020年報告書によれば、投資効率を測る指標であるICOR(限界資本係数)は、1990年代初頭の2から2009年には5.9まで上昇した。その後やや改善したものの、依然として1990年代に比べて高水準(=投資効率が低い)のままである。日本の政策研究大学院大学(GRIPS)の大野健一教授も著書『Learning to Industrialize(学び、工業化する)』(2013年、ベトナム語版近刊)で、ベトナムが投資主導の成長モデルに依存しながらも資本効率が低い実態を指摘している。
「狭い回廊」への道——2024年ノーベル経済学賞受賞者の理論
2025年4月、国民経済大学で開催された国際学術会議において、フルブライト大学ベトナムのブー・タイン・トゥ・アイン博士は、ベトナムが中所得国の罠を脱するシナリオを議論した。同博士は、2024年ノーベル経済学賞を受賞したダロン・アセモグル(MIT)とジェームズ・ロビンソン(シカゴ大学)の著書『The Narrow Corridor(狭い回廊)』を引用し、「国家の能力」と「市民の参加・主体性」の両指標が高い国ほど、経済的にも社会的にも繁栄する「狭い回廊」に入れると強調した。この回廊に位置する国の多くは、一人当たり所得が年間2万ドル以上に達している。
興味深いのは、韓国と台湾(東北アジア)が1990年代以降の工業化成功を経て「狭い回廊」へ移動したのに対し、タイやマレーシア(東南アジア)は長年停滞を続けている点だ。地理的にこの両地域の交差点に位置するベトナムにとって、どちらの道を選ぶかは極めて重要な分岐点となる。
労働生産性こそが成長持続の鍵
世界銀行は、ベトナムが長期的な成長を維持するには労働生産性の向上が不可欠だと指摘する。全要素生産性(TFP)の伸びは鈍化しており、2014年時点でベトナムのTFPは米国のわずか5分の1、東アジアの他の中所得国にも大きく後れを取っている。逆に言えば、それだけ伸びしろがあるということだ。
世界銀行の『世界開発報告2024』は、低所得国から高所得国への移行を「投資」「吸収(技術の導入)」「イノベーション」の3段階に整理している。初期段階では資本蓄積で高成長を達成できるが、資本の限界効率は逓減するため、中所得段階に達したら生産性向上に軸足を移す必要がある。技術フロンティアから遠い国にとっては、先進国から既存技術を吸収・応用することが生産性改善の最も効率的な道筋となる。
日本企業・投資家への示唆
ベトナムは依然として魅力的な投資先であるが、安価な労働力だけを前提とした戦略は中長期的にリスクを伴う。今後は現地人材の育成、技術移転、イノベーション支援といった「生産性向上」に資する投資が、ベトナム進出企業の競争優位を左右するだろう。日本企業が持つ製造ノウハウや品質管理のノウハウは、ベトナムの「吸収」段階において大きな貢献が期待できる分野でもある。
出典: Vn Economy
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