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ベトナム中部クアンチ省(Quảng Trị)で進められている総投資額2,731億ドン超の沿岸道路プロジェクトが、用地取得の難航と建設資材の確保問題により深刻な工期遅延に直面している。2026年3月24日、同省人民委員会のレー・ホン・ヴィン(Lê Hồng Vinh)主席が現地視察を行い、関係各機関に対し抜本的な対策を指示した。インフラ投資が加速するベトナムにおいて、用地補償・住民移転という「構造的ボトルネック」がいかに大型プロジェクトの足かせとなっているかを如実に示す事例である。
プロジェクトの概要——東西経済回廊と沿岸部を結ぶ戦略路線
正式名称は「東西経済回廊接続沿岸道路(第1期)」(Đường ven biển kết nối hành lang kinh tế Đông – Tây, giai đoạn 1)。全長約48kmにわたり、クアンチ省の海岸線に沿って建設される幹線道路である。総投資額は2,731億ドンを超える。
東西経済回廊とは、ベトナム中部からラオス、タイ、ミャンマーに至る国際物流ルートであり、ベトナム側の起点はクアンチ省のラオバオ(Lao Bảo)国境ゲートである。この沿岸道路が完成すれば、国際物流の起点であるラオバオ方面と、南シナ海に面する沿岸部の漁港・工業地帯・観光拠点が効率的に接続され、地域経済の活性化が期待されている。クアンチ省はかつてのベトナム戦争における非武装地帯(DMZ)が置かれた歴史的な地域であり、現在は経済発展の途上にある。インフラ整備はまさに同省の発展を左右する最重要課題だ。
進捗状況——用地90%引き渡し済みも、残り10%に深刻なボトルネック
現時点で、用地取得(giải phóng mặt bằng)は路線全長の約90%にあたる区間の引き渡しが完了している。残りの区間は2026年第2四半期(4〜6月)中の完了を目指すとされる。住民の移転先となる再定住地区(khu tái định cư)については、複数の自治体で整備が進められており、一部は基本的に完成し、2026年4月および6月に引き渡し予定である。ただし、一部の再定住地区で遅延が発生しており、住民への宅地配分に支障をきたしている状況だ。
建設工事そのものに関しては、契約金額ベースで約44.5%の出来高を達成している。橋梁、暗渠(カルバート)、路盤といった主要項目は同時並行で施工が進んでおり、一部の重要構造物では主要構造部分がほぼ完成している。しかし、用地が引き渡されていない区間では当然ながら工事に着手できず、全体の進捗を引き下げている格好である。
各区間の詳細——クアトゥン・クアヴィエット区間は進捗わずか13.3%
同日、クアンチ省人民委員会のホアン・ナム(Hoàng Nam)常任副主席も、沿岸道路の構成プロジェクトである複数の区間を視察した。具体的には、クアトゥン橋(Cửa Tùng)およびクアヴィエット橋(Cửa Việt)周辺区間、クアヴィエット橋および橋の両端取り付け道路、さらにズオンケー通り(đường Dương Khê)からフエ市(thành phố Huế)境界までの区間である。
とりわけ深刻なのが、クアトゥン橋・クアヴィエット橋周辺の区間だ。全長約5.76kmのうち、用地の引き渡しが完了しているのはわずか1.75km。施工出来高は約13.3%にとどまる。遅延の主な原因は以下の通りである。
- 土地の権利関係の複雑さ:土地の出自(nguồn gốc đất)に関する紛争や確認作業の停滞
- 補償単価をめぐる住民との合意形成の難航:補償金額に対する住民側の不満
- 墓地の移転問題:ベトナムでは祖先の墓を極めて重視する文化があり、墓の移設(di dời mồ mả)は住民感情に直結するセンシティブな課題
- 移転先の共同墓地(nghĩa trang)の建設遅延:新しい墓地が整備されなければ、移転の同意を得ることが困難
ホアン・ナム副主席は現場で、墓地移転の統計・リスト作成を急ぐこと、再定住地区の計画策定と共同墓地の都市計画上の位置づけを明確にすること、住民への丁寧な説明と要望の把握を強化することなどを各機関に指示した。再定住地区の配分では公開抽選(bốc thăm vị trí)を実施し、透明性を確保するよう求めている。
なお、ズオンケー通りからフエ市境界までの区間については、現在投資準備段階にあり、2026年末の着工を予定している。
省トップの指示——「政治システム総動員」で突破を図る
レー・ホン・ヴィン主席は視察を通じ、関係する省庁・地方自治体・事業主体・施工業者に対して以下の包括的な指示を出した。
- 責任意識を高め、困難の解消とプロジェクト加速のために断固たる指導を行うこと
- 施工の管理・監督体制を強化し、科学的かつ具体的な実施計画を策定し、進捗・品質・安全を確保すること
- 情報報告体制を厳格に運用し、要求水準を満たさないケースには速やかに対処すること
- 用地取得については「政治システム全体」(cả hệ thống chính trị)を動員し、住民への広報・説得活動を強化して合意形成を図ること
- 補償・支援・再定住のプロセスは公開・透明に実施し、住民の正当な権利を保障し、長期的な生活安定を確保すること
- 建設資材の確保に関する障害を洗い出し、制度・政策面での問題解決を主導すること
「政治システム総動員」という表現は、共産党組織・行政機関・大衆団体(祖国戦線、青年団、婦人会など)をフル活用して住民の協力を得るという、ベトナム特有のアプローチである。大型インフラプロジェクトで用地問題が深刻化した際に、中央・地方の指導者がしばしば用いる強い表現であり、それだけ事態が切迫していることの表れでもある。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のニュースは、ベトナムのインフラ投資における「用地取得リスク」の根深さを改めて浮き彫りにした。ベトナム全土で高速道路・沿岸道路・都市鉄道など大型プロジェクトが同時進行しているが、いずれも用地補償と住民移転が最大のボトルネックとなるケースが後を絶たない。2024年に施行された改正土地法(Luật Đất đai 2024)は補償基準の明確化を図ったものの、現場レベルでの運用にはなお課題が残っている。
株式市場への影響としては、クアンチ省に直接関連する上場企業は限定的であるが、ベトナムの建設・インフラセクター全体のセンチメントに影響しうる。沿岸道路プロジェクトの施工を担う建設会社や建材メーカーにとって、工期遅延は売上計上の後ずれを意味する。一方、用地問題が解消に向かえば、2026年後半以降の工事加速による恩恵も期待できる。ベトナムの建設セクター(CTD、HBC、VCGなど)やセメント・鉄鋼銘柄への投資を検討している場合、各プロジェクトの用地取得進捗を注視する必要がある。
日本企業との関連では、東西経済回廊はJICA(国際協力機構)が長年支援してきたメコン地域の広域交通ネットワークの一部であり、日本のODA案件とも関連が深い。沿岸道路の完成は同回廊の経済効果を沿岸部に波及させるものであり、クアンチ省への進出を検討する日系製造業・物流企業にとっても注目すべきインフラ整備といえる。
2026年9月のFTSE新興市場指数への格上げ判断との関連では、直接的なリンクは薄いものの、ベトナム政府がインフラ投資を通じて地方経済の底上げを図り、GDP成長率の維持・向上を目指している点は、マクロ経済指標の改善を通じて間接的にポジティブな材料となりうる。公共投資の「執行率」はベトナム政府が最も重視するKPIの一つであり、用地問題の解消スピードがその数字を大きく左右する。投資家としては、ベトナムの公共投資執行率の月次データを定期的にチェックし、インフラセクターの実態を把握することが肝要である。
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