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ホーチミン市公安局(刑事警察部門)は、債権売買会社を装い違法な取り立て行為を行っていたグループの捜査を拡大し、新たに9人を「財産恐喝罪」で起訴・逮捕した。被害額は約70億ドンに上り、組織的かつ悪質な手口が明らかになっている。ベトナムで横行する違法債権回収ビジネスの実態を浮き彫りにする事件である。
事件の全容——「債権売買契約」を偽装した組織的恐喝
今回起訴されたのは、「ニャットティン債権売買有限責任会社」(Công ty TNHH Mua bán nợ Nhất Tín)に所属するグループである。同社の社長ホー・ミン・ダット(Hồ Minh Đạt、1972年生まれ)とその妻グエン・ティ・ザン(Nguyễn Thị Giang)を中心に、複数の社員が関与していた。
捜査によると、同グループはグエン・チュン・ドゥック(Nguyễn Trung Đức、1978年生まれ)を通じ、債権者であるN.T.B.T氏から債務者T.T.B.B氏に対する約70億ドンの債権回収を請け負った。表向きは「債権売買契約」を締結していたが、実態は回収額の30%〜50%を報酬として受け取る違法な取り立て代行業であった。
暴力と威圧による組織的な取り立て手口
2025年7月末から同年10月初旬にかけて、グループは以下のような手口で被害者を追い詰めた。
- 会社の制服を着用し、入れ墨をあえて露出させた複数人が自動車で被害者の自宅や店舗前に集結
- 大声で罵倒・脅迫し、精神的圧力をかけ続けた
- 被害者の営業活動を妨害し、顧客が近寄れない状態を作り出した
- 一部のメンバーは暴行や器物損壊にも及び、被害者の親族や従業員にも威圧行為を行った
- 複数の班に分かれ、交代制で現場に張り付き、長期間にわたり圧力を継続した
活動場所はホーチミン市のタムロン地区(phường Tam Long)およびバーリア市場(chợ Bà Rịa)周辺とされている。
逮捕者と押収物
ホーチミン市公安局刑事警察部門は、まずグエン・チュン・ドゥックを刑法第170条第4項(財産恐喝罪・加重規定)で起訴・逮捕。さらに以下の8人を同容疑で起訴・逮捕した。
- ホー・ミン・ダット(社長)
- グエン・ティ・ザン(社長の妻)
- ダン・ヴィエット・ズン(Đặng Viết Dũng)
- グエン・カック・チュン(Nguyễn Khắc Trung)
- ホアン・ヴァン・クオン(Hoàng Văn Cường)
- ダン・タイン・ヴオン(Đặng Thanh Vương)
- ホー・クアン・ヴィン(Hồ Quang Vinh)
- チャン・ヴァン・ホア(Trần Văn Hòa)
押収された証拠品には、複数の債権売買契約書、会社印、取り立て時に着用していた制服、犯行に使用された車両などが含まれる。なお、一部の関係者は現在も逃走中であり、捜査は継続中である。
先行事件——同様の手口で20人が既に起訴済み
実は今回の事件は、2025年末に摘発された大規模恐喝事件の捜査拡大によるものである。先行事件では、ホー・タイン・ドゥオック(Hồ Thành Được、1991年生まれ、ホーチミン市トイアン地区在住)を主犯格とする20人が起訴されていた。
このグループは「バックナム債権売買有限責任会社」(Công ty TNHH Mua bán nợ Bắc Nam)、「620警備・ボディガード・債権売買サービス有限責任会社」(Công ty TNHH dịch vụ Bảo vệ – Vệ sĩ – Mua bán nợ 620)、「ダットバック債権売買有限責任会社」(Công ty TNHH Mua bán nợ Đất Bắc)の3つの法人を使い、同様に偽装契約で違法取り立てを行っていた。制服着用、会社ロゴ入り車両の使用といった手口は今回のグループと共通している。
特筆すべきは、先行事件のグループが取り立ての一部始終を動画撮影し、編集した短尺動画を主犯のSNSアカウントに投稿していた点である。これらの動画は数十万回の再生数を記録し、いわば「見せしめ」と「宣伝」を兼ねた手法として社会的な問題となった。
背景——ベトナムにおける違法債権回収の構造的問題
ベトナムでは2021年1月に「債権回収代行業の禁止」が施行されている(投資法2020年版の改正による)。しかし、禁止後も「債権売買会社」という形態に衣替えし、実質的な取り立て代行を続ける業者が後を絶たない。今回の事件はまさにその典型例である。
債権売買自体は合法であるが、売買契約を偽装して回収額の一定割合を成功報酬として受け取る行為は、実質的に禁止された取り立て代行に該当する。当局は近年、こうした偽装型業者の摘発を強化しており、ホーチミン市を中心に大規模な検挙が相次いでいる。
この問題の根底には、ベトナムの裁判制度を通じた債権回収の非効率性がある。裁判所を通じた回収には長い時間とコストがかかるため、債権者が違法業者に頼る誘因が依然として強い。金融機関の不良債権処理においても、法的手続きの迅速化は長年の課題であり続けている。
投資家・ビジネス視点での考察
今回の事件そのものは上場企業に直接関連するものではないが、ベトナムの投資環境を考える上でいくつかの重要な示唆を含んでいる。
1. 法的環境の整備とその実効性:ベトナムは2026年9月にFTSE新興市場指数への格上げ判定を控えており、市場の透明性・法治主義の実効性が国際投資家から注視されている。こうした違法ビジネスの摘発強化は、法の支配を示すシグナルとしてポジティブに捉えられる一方で、そもそも違法業者が横行している実態は制度的課題の存在を示す。
2. 不良債権市場と金融セクターへの影響:債権回収の困難さは、銀行セクターの不良債権比率にも影響を与える構造的要因である。ベトナムの銀行株(VCB、BID、TCBなど)に投資する際は、不良債権処理の法的インフラの進展度合いにも注目すべきである。ベトナム資産管理会社(VAMC)を中心とした公的な不良債権処理スキームの充実が、中長期的な金融セクターの健全性を左右する。
3. 日本企業のベトナム事業におけるリスク管理:ベトナムに進出している日系企業にとって、取引先の債務不履行時に合法的な回収手段が限られる点は実務上のリスクである。契約設計段階から担保設定や仲裁条項の整備を徹底することが重要であり、現地の法務パートナーとの連携が不可欠である。
ベトナム当局が違法債権回収の撲滅に本腰を入れている姿勢は明確であるが、根本的な解決には裁判・執行制度の抜本的な改革が必要である。投資家としては、こうした制度インフラの進捗を中長期的なベトナム投資の判断材料の一つとして注視していくべきである。
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出典: 元記事












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