ベトナムの中堅民間銀行VIB(Vietnam International Bank/ベトナム国際商業銀行)は2026年の経営目標として、税引前利益1兆1,550億ドンを達成する計画を公表した。これは2025年実績比で27%増という高い成長率を見込んだ野心的な目標であり、資産ポートフォリオの最適化、利ざや(NIM:Net Interest Margin)の改善、そして営業コストの厳格な管理という三本柱によって実現を目指すとしている。
VIBとはどのような銀行か――設立の背景と成長軌跡
VIBは1996年に設立されたベトナムの民間商業銀行である。本店はハノイに置き、ホーチミン市をはじめ全国主要都市に幅広い店舗網を展開している。設立当初は中小規模の金融機関に過ぎなかったが、2010年代以降、個人向けリテールバンキングに経営資源を集中させる戦略転換を図り、急成長を遂げた。
特筆すべきは、オーストラリアの大手金融機関であるコモンウェルス銀行(Commonwealth Bank of Australia)との資本提携関係だ。同行はVIBの株式を長期にわたり保有し、リスク管理体制やIT基盤の整備に関して技術面での支援を行ってきた経緯がある。この国際的な金融ノウハウの移転がVIBの競争力向上に寄与したとされ、現在ではVCB(ベトコムバンク)、BIDV、テクコムバンク、VPバンクといった上位行に次ぐポジションを占める存在として認知されている。
VIBはホーチミン証券取引所(HOSE)に上場しており、株式コードは「VIB」。機関投資家・個人投資家の双方から注目を集めるベトナム金融セクターの代表銘柄の一つでもある。
2026年目標の具体的な数値と前年比較
今回発表された2026年の主要経営目標は以下のとおりだ。
- 税引前利益目標:1兆1,550億ドン
- 前年(2025年)比成長率:27%増
逆算すれば、2025年の税引前利益はおよそ9,094億ドン前後であったと推計されるが、VIBは今回の目標発表において、2025年の確定実績と比較して27%の増益を目指すと明示している。ベトナムの銀行セクター全体が近年、与信コストの上昇や不良債権問題への対応に苦慮している中で、20%台後半という高い成長率目標は市場関係者の注目を集めた。
目標達成に向けた三つの戦略的柱
VIBが掲げる目標達成のための戦略は大きく三点に集約される。
①資産ポートフォリオの最適化
VIBはこれまでも個人向けの住宅ローンや自動車ローンといった消費者金融分野に強みを持つことで知られている。2026年に向けては、収益性の高い資産クラスへの傾斜配分をさらに進め、相対的に利ざやの薄い低収益資産の比率を引き下げる方針を取る。具体的には、担保価値が明確で回収確実性の高い住宅担保ローンを中心に据えつつ、中小企業(SME)向け融資においても優良先を選別する姿勢を強化するとみられる。
ベトナムでは2023年から2024年にかけて不動産市場の低迷が続き、住宅ローンを主力とする銀行の資産品質悪化が懸念されてきた。しかし2025年後半以降、ハノイやホーチミン市の不動産市況は政府の景気刺激策や金利低下を背景に回復基調をたどっており、VIBにとって住宅ローン事業の再拡大に向けた追い風が吹きつつある環境だ。
②利ざや(NIM)の改善
ベトナムの銀行業界全体では、ベトナム国家銀行(SBV:State Bank of Vietnam)による政策金利の調整が各行の収益構造に直接影響を与える。VIBは預金コストの抑制と貸出金利の適正維持を通じて、NIMの拡大を図る計画だ。
近年、ベトナム国家銀行は景気支援を目的として低金利政策を維持してきたが、その影響で貸出金利も低下傾向にある。この環境下でNIMを改善するためには、より高い金利を設定できる優良個人顧客や中小企業顧客の獲得が不可欠となる。VIBはデジタルバンキングの機能強化による顧客基盤の拡大と、クロスセル(複数商品の組み合わせ販売)の推進を通じてこの課題に対応する方針とみられる。
③営業コストの厳格な管理
収益拡大と並行して、VIBはコスト効率の向上にも注力する。CIR(Cost-to-Income Ratio:経費率)の改善を通じて、収益成長を上回るペースで費用を抑制することが目標だ。デジタルチャネルへのシフトによる店舗運営コストの削減、AIや自動化技術の活用による業務効率化が具体的な手段として想定される。
ベトナムの若い人口構造(中央値年齢は約30歳)とスマートフォン普及率の高さは、デジタルバンキングへの移行を加速させる強力な追い風となっている。VIBはすでにモバイルバンキングアプリ「MyVIB」を通じた顧客サービスの充実を図っており、このデジタル基盤をさらに強化することで運営効率と顧客満足度の同時向上を狙う。
ベトナム銀行セクターを取り巻くマクロ環境
VIBの2026年目標を理解するうえで、ベトナムのマクロ経済環境を俯瞰することが重要だ。ベトナム経済は2024年に約7%超のGDP成長率を記録し、東南アジア域内でも屈指の高成長国としての地位を維持している。外資直接投資(FDI)の流入は半導体・電子部品製造分野を中心に旺盛であり、サムスン電子やインテル、LGといった大手グローバル企業の製造拠点としての存在感が増している。
こうした実体経済の成長は、企業の設備投資資金需要や個人の住宅・消費ローン需要を押し上げ、銀行セクター全体の貸出残高拡大につながっている。一方で、高成長の反面として不良債権(NPL)問題も慢性的な課題として残っており、各行は与信管理の高度化に迫られている状況だ。
政府・ベトナム国家銀行は2025年以降も信用成長率の目標を14〜15%程度に設定しており、銀行業界全体としては引き続き拡大局面が続くと予想される。VIBの27%増益目標は、この業界全体の追い風を最大限に活用しつつ、同行固有の強みをさらに発揮しようとする意欲的な計画と位置付けられる。
日本企業・投資家への示唆
VIBの積極的な成長戦略は、ベトナム金融セクターへの関心を高めている日本の金融機関や機関投資家にとっても注目すべき動向だ。日本の大手銀行グループはすでにベトナムの銀行への出資・業務提携を積極化させており、三菱UFJフィナンシャル・グループによるVietinBank(ベトナム工商銀行)への出資、三井住友フィナンシャルグループによるEximbank出資などがその代表例として知られている。
VIBのような成長性の高い中堅民間銀行は、今後の資本調達や戦略的パートナーシップの観点から日本の金融機関にとって潜在的な提携先候補となりうる。また、VIBの株式はHOSEに上場されており、外国人投資家の保有上限(外資持ち株比率上限)の範囲内であれば株式市場を通じた投資も可能だ。ベトナム株式市場が新興国市場(エマージング)への格上げ審査を受けている局面でもあり、外国人投資家の市場参入が今後拡大すれば、VIBのような優良民間銀行株への資金流入が加速する可能性もある。
さらに、ベトナムに進出している日系製造業・サービス業企業にとっても、VIBのような現地銀行との取引関係の構築は、現地での資金調達コスト低減や各種金融サービスの利便性向上という観点から実務的な意義を持つ。特にVIBが強化を進めるSME向け金融サービスは、現地子会社を持つ中堅・中小の日系企業にとって利用価値の高いソリューションとなりうる。
まとめ――高成長路線を堅持するVIBの今後
VIBが2026年に向けて掲げた税引前利益1兆1,550億ドン・前年比27%増という目標は、ベトナム経済の力強い成長基調と、同行が積み上げてきたリテールバンキングにおける競争優位性を背景とした、野心的かつ現実的な計画だ。資産ポートフォリオの最適化、NIMの改善、そしてコスト管理の三本柱による収益力強化が順調に進めば、目標達成は十分に射程内に入る。
課題としては、不動産市場の回復ペースの不透明感、ベトナム国家銀行の金融政策の方向性、そして国内外の経済環境の変動リスクが挙げられる。しかし、デジタルバンキングへの積極投資と国際的な知見を活かしたリスク管理体制を武器に、VIBは中長期的な成長軌道を描き続けていると言えるだろう。
ベトナム金融セクターの動向は、同国への投資・進出を検討する日本の企業・投資家にとって引き続き重要な注目ポイントだ。VIBの2026年の実績が、今回掲げた高い目標にどこまで迫れるか――その行方を注視していきたい。
出典: VnExpress(元URL)
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