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2025年3月24日、ハノイで開催された「EU–ベトナム ビジネス・投資フォーラム」において、ホー・ドゥック・フォック副首相がEU(欧州連合)企業に対しベトナムへの投資拡大を強く呼びかけた。再生可能エネルギー、半導体、デジタル経済など戦略分野での協力深化を提唱するとともに、EU加盟国に対してはEVIPA(ベトナム・EU投資保護協定)の早期批准を要請した。米中対立や世界的なサプライチェーン再編が加速するなか、ベトナムとEUの経済関係がいま新たな局面に入ろうとしている。
30年超の関係を土台に「包括的戦略パートナーシップ」を実質化
フォーラムのテーマは「グローバル・ゲートウェイ戦略:持続可能な未来に向けた投資協力」。これはEUが2021年に打ち出した「グローバル・ゲートウェイ」構想——途上国・新興国のインフラやデジタル化を支援する大規模投資イニシアチブ——を念頭に置いたものである。ベトナム側から見れば、中国依存リスクの分散先としてEU資本・技術を取り込む好機であり、EU側にとってもインド太平洋地域における「信頼できるパートナー」の確保という戦略的意味合いがある。
フォック副首相は冒頭の基調演説で、ベトナムとEUの関係が30年以上にわたり着実に発展してきた経緯を振り返りつつ、「ベトナムはEUを信頼できる長期的パートナーと位置づけている」と明言した。特に2020年8月に発効したEVFTA(EU・ベトナム自由貿易協定)が二国間貿易・投資の拡大に果たした役割を高く評価し、EUがベトナムにとって「最も重要な経済パートナーの一つ」であることを強調した。
EVFTA発効後、ベトナムからEU向け輸出は繊維・衣料品、水産物、電子機器などを中心に安定した伸びを見せている。EU企業によるベトナム直接投資も増加傾向にあり、欧州商工会議所(EuroCham)の会員企業数は年々拡大している。フォック副首相はこうした実績を踏まえ、「今日のフォーラムこそ、投資・貿易・技術の流れを加速させ、ベトナムとEUの企業が大きなシナジーを生み出すための重要な架け橋だ」と述べた。
グリーンファイナンス・半導体・再エネ——具体的な5分野で協力を提案
副首相の演説でとりわけ注目すべきは、EUに対して具体的な協力分野を明示した点である。提案の骨子は以下の通りだ。
- グリーンファイナンス(緑色金融)へのアクセス支援:ベトナムは2050年カーボンニュートラルを国際公約しており、そのためには巨額の資金が必要となる。EUが持つグリーンボンド市場やサステナブルファイナンスの知見・資金を活用したいとの意向だ。
- 技術移転の促進:特に脱炭素関連技術、デジタル技術について、EU企業からの技術移転を求めている。
- 再生可能エネルギー分野への質の高い投資:ベトナムは東南アジア有数の風力・太陽光ポテンシャルを持つ。第8次電力開発計画(PDP8)に基づく洋上風力プロジェクトなど、EU企業の参入余地は大きい。
- 半導体産業:ベトナム政府は半導体サプライチェーンへの参入を国家戦略として掲げており、EU企業の設計・製造拠点の誘致を狙う。
- 戦略的インフラ整備:高速道路、港湾、鉄道などの大型インフラプロジェクトへの欧州企業の参画を呼びかけた。
EVIPA早期批准を強く要請——投資の法的基盤整備が急務
もう一つの重要な論点が、EVIPA(EU・ベトナム投資保護協定)の早期批准である。EVIPAはEVFTAとセットで交渉・署名されたが、投資保護に関する権限がEU全体ではなく各加盟国にも帰属するため、全27カ国の個別批准が必要とされている。2025年3月時点で批准を完了した加盟国はまだ限定的であり、協定の発効には至っていない。
フォック副首相は、EVIPAの発効によって法的枠組みが整備され、双方の企業にとって投資環境の予見可能性が飛躍的に高まると指摘。EU加盟国に対し、批准手続きの加速を強く要請した。これは単なる外交的リップサービスではなく、ベトナムが外資誘致において「制度の透明性・安定性」を重視する姿勢を国際社会にアピールする狙いもある。
「新時代」に入るベトナム——デジタル・グリーン転換の交差点
副首相はまた、現在の世界がデジタルトランスフォーメーション(DX)とグリーントランスフォーメーション(GX)という二つの大きな転換期にあることに言及し、「ベトナムはまさに新時代に突入しつつある」との認識を示した。ベトナム共産党が2025年を「新時代(Kỷ nguyên mới)」の起点と位置づけている政治的文脈を踏まえた発言であり、同国が従来の低コスト製造拠点からより付加価値の高い経済構造への転換を本格化させていることを示唆するものだ。
ベトナムのGDP成長率は2024年に約7%前後を記録しており、東南アジア主要国の中でも高水準を維持している。人口約1億人、中間層の拡大、若年労働力の豊富さに加え、EVFTAによるEU市場へのアクセス優位が、チャイナ・プラスワン戦略を推進する外国企業にとって強力な吸引力となっている。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のフォーラムは、ベトナム政府がEU資本をこれまで以上に戦略的に取り込もうとしている意思を明確に示すものである。投資家やベトナム関連ビジネスに携わる日本企業にとって、以下のポイントが注目される。
1. ベトナム株式市場への間接的追い風
EU企業の投資拡大は、インフラ関連銘柄(建設、鉄鋼、セメント)、再エネ関連銘柄、そして半導体関連の部品・素材企業にとって中長期的なポジティブ材料となる。EVIPAが正式発効すれば、外国機関投資家のベトナム株式市場への資金流入にも好影響を与え得る。
2. FTSE新興市場指数の格上げとの関連
ベトナムは2026年9月にもFTSE新興市場指数への格上げが決定される見通しである。格上げが実現すれば、グローバルなパッシブ資金が大量に流入することが期待される。今回のように国際的な投資保護協定の整備や、EU・ベトナム間の制度的連携強化は、格上げ審査における「市場のオープン性・透明性」の評価項目にプラスに作用する可能性がある。
3. 日本企業への示唆
EU企業のベトナム進出が加速すれば、現地での競争環境は変化する。一方、EUの厳格なESG基準や環境規制がベトナム市場に持ち込まれることで、サプライチェーン全体のグリーン化が進み、日本企業にとっても対応が求められる場面が増えるだろう。逆に、グリーン技術やDXソリューションを持つ日本企業にとっては新たな協業機会が生まれる可能性もある。
4. 半導体分野の注目度
ベトナム政府が半導体を明確に投資誘致の重点分野に据えている点は見逃せない。すでに米インテルやサムスン電子がベトナムに大規模拠点を持つなか、EU企業(特にオランダのASML関連サプライヤーやドイツの素材メーカーなど)の参入が進めば、ベトナムの半導体エコシステムは一段と厚みを増すことになる。
米トランプ政権による関税政策の不確実性が高まるなか、ベトナムがEUとの経済連携を強化する動きは、リスク分散の観点からも合理的だ。ベトナム市場に投資する立場からは、同国が特定の大国に依存せず、多角的な通商・投資関係を構築しようとしている姿勢を前向きに評価したい。
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