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ベトナム内務省は2025年4月3日、2025年の労働災害に関する報告書を公表した。労働災害による総費用と財産損失は不完全な統計でも1兆4,068億ドンを超え、前年の4兆2,565億ドン超から大幅に減少した。一方で、非正規雇用労働者の死亡事故は増加しており、労働安全衛生の課題は依然として深刻である。
2025年の労働災害統計—件数・死亡者数ともに減少
2025年、ベトナム全国で発生した労働災害は7,004件で、前年比1,282件減(15.47%減)となった。被災者数は7,156人で、前年比1,316人減(15.53%減)である。
死亡事故は621件で前年比63件減(9.33%減)。このうち労働契約関係のある事業所での死亡事故は475件で、前年比60件減(11.21%減)であった。労働災害による死亡者数は658人で、前年比69人減(9.49%減)となっている。
一方で注目すべきは、労働契約を結ばずに働く非正規労働者の死亡事故が146件と前年比4.29%増加し、150人が死亡した点である。ベトナムでは建設現場の日雇い労働者や零細事業者で働く非正規労働者が依然として多く、安全管理が行き届かない構造的問題が浮き彫りとなった。
経済的損失と企業活動への影響
2025年の労働災害に関する総費用・財産損失は1兆4,068億ドン超であった。2024年の4兆2,565億ドン超と比較すると約67%の大幅減少となるが、依然として巨額の損失である。このほか、労働災害による財産被害は推定250億ドン以上に上る。
2025年の労働災害による総休業日数は12万6,220日超に達した。これは企業の生産ラインの中断、労働生産性の低下、さらに間接コストの増大を意味する。直接的な経済損失に加え、企業の生産・経営活動や労働者の生活にも重大な影響を及ぼしている。
業種別・地域別の特徴
死亡事故が多い業種は、建設、繊維・縫製、皮革・靴製造、電力、鉱業である。建設業は従来からベトナムにおける労働災害の最大リスク業種であり、急速な都市開発・インフラ整備に伴う人手不足と安全管理の不備が背景にある。繊維・縫製や皮革・靴製造は、日系企業を含む外資系企業も多く進出する分野であり、サプライチェーン全体の安全管理が問われる。
労働災害が多い地域は、ホーチミン市、ハノイ、クアンニン省(北部の石炭産出地域)、ハイフォン市(北部最大の港湾都市)、ラオカイ省(中国国境に接する北部山岳地域)であった。これらはいずれも工業団地や大規模建設プロジェクトが集中する地域である。
健康診断・職業病の状況
2025年には約300万人の労働者が定期健康診断を受診し、前年比70%増となった。有害要因に曝露された労働者の職業病検診は86万5,143件(前年比約51%増)実施され、51件の新規職業病が診断された。
労働災害保険では、新たに7,118件の労働災害・職業病・交通事故に対する給付が行われた(2024年は7,391件)。このうち月額給付が2,099件、一時金給付が5,019件、労働災害給付が6,655件、職業病給付が463件であった。
内務省が指摘する課題と今後の対策
内務省は、多くの使用者が労働安全衛生に関する法令遵守に十分な関心を払っておらず、職場の安全管理が形式的にとどまっていると指摘している。また、多くの労働者が安全衛生に関する訓練を受けておらず、安全な作業に関する知識・技能が不足し、産業規律の意識も限定的であるとした。一部の地方政府も労働安全衛生に十分な資源を配分していない。
今後の対策として、内務省は以下を挙げている。労働災害・職業病の予防に関する政策メカニズムの研究・提案、労働安全衛生分野の行政手続きの簡素化、職場およびサプライチェーンにおける安全衛生管理の強化、そして使用者に対する労働条件の改善とリスク管理の徹底要請である。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の統計は、ベトナムの産業構造の成熟度と労働環境のリスクを測るうえで重要な指標である。以下の視点から考察したい。
日系企業・外資系企業への影響:繊維・縫製、皮革・靴製造は日系企業のサプライチェーンに深く関わる分野である。内務省が「サプライチェーンにおける安全衛生管理の強化」を明言したことは、今後の調達コストやコンプライアンスコストの上昇要因となりうる。ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点からも、ベトナム拠点のサプライチェーン管理体制が一層問われることになる。
建設・不動産セクターへの影響:建設業が死亡事故最多業種であることは、ベトナムの大規模インフラ投資(南北高速鉄道構想、新空港建設等)が進む中でリスク要因となる。安全規制の強化は工期の延長やコスト増につながる可能性があり、建設・不動産関連銘柄への影響を注視すべきである。
FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに向け、ベトナムは制度面の整備を急いでいる。労働安全衛生の改善は直接的な格上げ要件ではないが、社会的ガバナンスの向上はESG重視の海外機関投資家の評価に影響する。労災コストの大幅減少(前年比67%減)は一定の改善シグナルとして評価できるが、非正規労働者の死亡事故増加は課題として残る。
マクロ経済への示唆:労働災害による12万6,220日超の休業日数と1兆4,068億ドン超の損失は、国全体の労働生産性に対する隠れたコストである。ベトナムが中所得国の罠を回避し、持続的な経済成長を実現するためには、量的な労働力投入だけでなく、安全で生産性の高い労働環境の構築が不可欠であり、この分野への投資は中長期的な競争力強化に直結する。
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出典: 元記事












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