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ベトナムの国民食ともいえる即席麺市場で長年親しまれてきたブランド「ハイコントム(Hai Con Tôm=二匹のエビ)」を展開する企業の2024年(2025年度)利益が、260億ドンにまで落ち込んだ。これは新型コロナウイルス感染拡大以降の4年間で最低水準であり、売上が伸び続けるなかでの大幅減益という「増収減益」の構図が鮮明になった。主因は土地賃料の発生による費用増である。
「ハイコントム」とは何か——ベトナム即席麺市場における老舗ブランド
「ハイコントム」は、ベトナム人であれば誰もが知る即席麺ブランドの一つである。パッケージに描かれた2匹のエビのロゴが特徴的で、ベトナム語で「Mỳ Hai Con Tôm」と呼ばれる。ベトナムの即席麺市場は世界有数の消費量を誇り、世界ラーメン協会(WINA)の統計によれば、ベトナムは年間消費量で世界第3位に位置している。この巨大市場では、エースコック・ベトナム(日本のエースコックが出資)の「ハオハオ」ブランドや、マサングループ傘下の「Omachi」「Kokomi」などが激しいシェア争いを繰り広げている。「ハイコントム」ブランドはこうした競合の中で、特に低価格帯セグメントにおいて根強い支持を集めてきた存在である。
増収にもかかわらず利益が急落——その背景
今回明らかになった決算の要点は明快である。売上高は引き続き増加基調にあったものの、最終利益は260億ドンにとどまり、直近4年間(コロナ禍以降)で最低の水準に沈んだ。増収にもかかわらず利益が大きく減少した最大の要因は、新たに発生した土地賃料(tiền thuê đất)のコスト負担である。
ベトナムでは2024年に改正土地法が施行され、土地使用料や賃料の算定基準が見直される動きが進んでいる。多くの製造企業が工業団地や生産拠点で使用する土地の賃料改定に直面しており、「ハイコントム」もその影響を受けた形だ。ベトナムの土地制度は社会主義体制に基づき、すべての土地は国家が所有し、企業や個人は「使用権」を取得・賃借する仕組みとなっている。このため、政府の政策変更や賃料単価の改定がダイレクトに企業のコスト構造を変えてしまうリスクが常に存在する。
ベトナム即席麺市場の競争環境と構造的課題
ベトナムの即席麺市場は成熟化が進む一方で、消費者の嗜好が多様化している。従来の低価格帯中心の市場構造から、プレミアム即席麺や健康志向の製品へとトレンドがシフトしており、各メーカーは付加価値の高い商品開発を急いでいる。「ハイコントム」のように低価格帯に強みを持つブランドは、原材料費の上昇や今回のような固定費増加に対して価格転嫁が難しく、利益率が圧迫されやすい構造にある。
加えて、小麦粉やパーム油といった主要原材料の国際価格は依然として変動が大きく、製造原価の管理が経営上の大きな課題となっている。ベトナム国内のインフレ率は比較的安定しているものの、為替(ベトナムドン安)が進行した場合には輸入原材料コストがさらに膨らむリスクもある。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のニュースは、ベトナム株式市場に上場する食品セクター銘柄を保有する投資家にとって、いくつかの重要な示唆を含んでいる。
1. 土地賃料リスクの顕在化:改正土地法の影響は、即席麺メーカーに限らず、工場用地を広く使用する製造業全般に波及する可能性がある。ベトナム株に投資する際には、各企業の土地使用権の契約形態や賃料改定スケジュールを確認することが重要だ。特にホーチミン市やハノイ近郊の工業団地に拠点を持つ企業は、賃料上昇の影響を受けやすい。
2. 食品セクターの増収減益トレンド:売上は堅調でも利益が伴わないという構図は、ベトナムの食品・消費財セクター全体で散見される傾向である。コスト管理能力や価格決定力(プライシングパワー)の強い企業を見極めることが、銘柄選定のポイントとなる。
3. 日系企業への示唆:エースコック・ベトナムをはじめ、日本の食品メーカーもベトナム市場で大きなプレゼンスを持っている。土地賃料の上昇は日系メーカーにとっても他人事ではなく、現地法人のコスト構造に影響を与えうる。ベトナムに製造拠点を持つ日本企業の投資家は、同様のリスクを念頭に置くべきである。
4. FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げが実現すれば、海外機関投資家の資金流入が加速し、特に消費財・食品セクターのような内需関連銘柄にも注目が集まる可能性がある。しかし、今回のように制度変更に伴うコスト増リスクが企業業績を直撃するケースは、格上げによるポジティブな資金流入効果を部分的に相殺する要因ともなりうる。投資家はマクロの追い風だけでなく、個別企業のファンダメンタルズを精査する姿勢が求められる。
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ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
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出典: 元記事












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