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2025年4月9日、ベトナム第16期国会第1回会期において、戸籍法(改正)および公証法の一部改正法案が上程された。いずれも「権限の大幅な地方委譲」「データのデジタル化」「行政手続きの簡素化」を柱とし、不動産取引における公証義務の縮小も盛り込まれた。ベトナムで事業を展開する日系企業や不動産投資家にとっても見逃せない制度改革である。
戸籍法改正:コミューン級人民委員会に全権限を委譲
首相の委任を受けたホアン・タイン・トゥン(Hoàng Thanh Tùng)司法大臣が戸籍法改正案の趣旨説明を行った。新たな法案は全4章30条で構成され、2014年の現行法(7章77条)から大幅にスリム化されている。最大の特徴は、すべての戸籍登録権限をコミューン級(社・坊・鎮)の人民委員会に一元化する点である。従来は居住地や行政区域の制約があったが、改正案ではこれを撤廃し、住民はどのコミューン級人民委員会でも出生届・死亡届などを届け出られるようになる。
データ管理面では、戸籍情報を原則として電子データで管理する方針が打ち出された。ただし婚姻届については電子台帳と紙の台帳を併用する。戸籍データベースは「国家データベース」と位置づけられ、司法省が一元管理し、各機関との情報共有・更新を保証する。電子戸籍データは紙の戸籍書類と同等の法的効力を持ち、行政手続きや各種取引に利用できる。
従来、県級(ディストリクト級)人民委員会が担っていた権限や手続きの多くが廃止され、中間層の行政手続きが大幅に削減される。ベトナムが現在進めている「地方行政の2層化」(省級と社級)改革と軌を一にする動きである。
審査報告:データ整合性とサイバーセキュリティが課題
国会法律・司法委員会のファン・チー・ヒエウ(Phan Chí Hiếu)委員長は審査報告を提出し、法案の方向性に基本的に賛成する立場を示した。特に出生情報を「原本的戸籍情報」と位置づける点を支持し、各データベース間で情報の齟齬が生じた場合の調整規定を整備するよう求めた。また、出生届・死亡届の「能動的登録」(行政側が主体的に登録する仕組み)のさらなる制度化、データの矛盾処理、サイバーセキュリティの確保、ITインフラへの十分な資源配分を要請した。
公証法改正:公証義務の縮小と不動産取引への影響
同日上程された公証法改正案では、公証に関する国家管理権限を地方2層制に合わせて再編するとともに、公証データベースの構築、書類の代わりにデータを活用する仕組みの導入、手続き簡素化が柱となっている。
とりわけ注目すべきは、公証が義務づけられる取引の範囲を大幅に縮小する方針が明記された点である。改正案では、公証を義務づける対象を以下に限定する方向だ。
- 個人間、または個人と不動産事業を行わない組織との間の不動産取引
- 身体的制約がある者または識字能力のない者の遺言
- その他の重要な取引
専門法(不動産事業法など)が公証を求めていない場合は、専門法の規定に従う。つまり、不動産デベロッパーなど事業者が当事者となる取引では公証が不要となるケースが広がる可能性がある。
審査報告では、不動産取引の公証を行政区域に関係なく実施できるよう範囲を拡大することに賛成し、政府にロードマップの策定を求めた。また、公証義務の対象を定める基準をより概括的・体系的に整理し、法律間の重複を回避すべきだと提言。「義務的公証を縮小し、任意公証を拡大することで、組織・個人のコンプライアンスコストを削減する」という方針が明確に打ち出された。
投資家・ビジネス視点の考察
不動産セクターへの影響:公証義務の縮小は、不動産取引コストの低減と取引スピードの向上に直結する。ベトナムの不動産デベロッパー(ビングループ傘下のビンホームズ=VHM、ノヴァランド=NVL、フーミーフン等)にとっては、買い手側の手続き負担が軽減されることで販売促進効果が期待できる。一方、公証事務所の収益モデルには逆風となる。
デジタルガバナンスとFTSE格上げ:ベトナムは2026年9月にFTSE新興市場指数への格上げ判定を控えている。格上げの条件のひとつに「市場インフラの整備」があるが、広義には行政手続きのデジタル化・効率化も外国投資家の信頼を高める要素となる。戸籍・公証のデジタル化は、企業設立や土地使用権の確認といった実務面で海外投資家の利便性向上に寄与する可能性がある。
日系企業への影響:ベトナムに進出する日系企業にとって、工場用地の取得や従業員の各種届出手続きが簡素化されることはプラス材料である。特に公証義務の縮小は、合弁契約や不動産リース契約における手続きコスト削減につながり得る。ただし、制度移行期にはデータベースの不整合や運用の地域差といった実務上の混乱も予想されるため、法改正の施行時期と経過措置には注視が必要である。
地方行政改革との一体性:今回の法改正は、ベトナムが進める地方行政の2層化(省級・社級)という大きな構造改革の一環である。県級人民委員会の権限縮小は、将来的な県級行政の統廃合を見据えた布石とも読める。行政コスト削減と効率化が実現すれば、中長期的にはベトナムの財政健全性にも寄与するだろう。
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ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
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