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ベトナムの国有商業銀行「Big4」を代表し、BIDV(ベトナム投資開発銀行、ベトナム最大の総資産を持つ国有銀行)のレ・ゴック・ラム総裁が、不良債権を帳簿価格(簿価)を下回る市場価格で売却することを政府に認めるよう要請した。銀行セクターに滞留する不良資産を解放し、経済成長の「二桁」達成を支える信用供給力を取り戻す狙いがある。この提言は、ベトナムの銀行セクター改革と不良債権処理の行方を占ううえで極めて重要な転換点となり得る。
会議の背景——「二桁成長」達成に向けた官民対話
2026年3月27日午前、ハノイで「企業の二桁成長への貢献と首相による企業感謝」と題された大規模会議が開催された。ファム・ミン・チン首相が出席し、「伝統的な成長エンジンを刷新すると同時に、科学技術、デジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーン転換、循環型経済、創造経済といった新たな成長エンジンを推進しなければならない」と述べた。さらに首相は「海へ大きく漕ぎ出し、海洋の7層のエネルギーを開発し、宇宙へ飛び、地下空間を深く掘り下げる」と極めてスケールの大きいビジョンを示した。
この会議の場で、国有商業銀行群を代表してBIDVのレ・ゴック・ラム総裁が登壇し、銀行セクターの現状報告と7つの政策提言を行った。
ベトナム国有銀行「Big4」の圧倒的な存在感
レ・ゴック・ラム総裁が明らかにした数字は、Big4(BIDV、VietinBank、Vietcombank、Agribankの4行)がベトナム金融システムにおいていかに巨大な存在であるかを物語る。
- 総資産:2025年末時点で約11兆ドン(11 triệu tỷ đồng=1京1,000兆ドン)に達し、銀行業界全体の46.5%を占める。
- BIDVの総資産:約3.27兆ドン(3,27 triệu tỷ đồng=3,270兆ドン)で、業界全体の13.9%を占め、単独で最大規模である。
- 信用残高(融資残高):4行合計で約8兆ドン(8 triệu tỷ đồng=8,000兆ドン)、経済全体の信用残高の42.3%を占有。BIDVの信用シェアは12.5%。
2026年には、ベトナム国家銀行(中央銀行)が設定した11〜12%の信用伸び率目標に基づき、国有商業銀行群だけで約1兆ドン(1 triệu tỷ đồng=1,000兆ドン)の新規融資を実行する見通しである。融資先の重点分野は、農業、輸出産業、製造加工業、エネルギー、デジタルトランスフォーメーションとされている。
最大の注目点——不良債権の「簿価割れ」売却容認を要請
レ・ゴック・ラム総裁が示した7つの提言の中で、市場関係者の最も大きな注目を集めたのが第2の提言である。その内容は、「不良債権を市場価格で売却すること(元本を下回る価格での売却を含む)を政府が許可してほしい。ただし、公開・透明な手続きを確保する」というものだ。
ベトナムでは従来、国有銀行が不良債権を簿価(帳簿上の元本価格)を下回る価格で売却することに対して、法的・制度的な障壁が存在してきた。国有資産の「損失」とみなされ、責任追及のリスクが伴うためである。この結果、買い手がつかない不良債権がバランスシート上に長期間滞留し、銀行の新規融資余力を圧迫する構造的問題が生じていた。とりわけ2022〜2023年の不動産市場の調整局面で積み上がった不良債権の処理が進まず、銀行セクター全体の足かせとなっている。
今回の提言は、「市場実勢で売れるなら、たとえ損切りになっても売却を認めてほしい」という極めて踏み込んだ要請であり、不良債権処理を加速させる突破口となる可能性がある。
その他の6つの提言——資本増強からデジタル基盤整備まで
レ・ゴック・ラム総裁が行った残りの提言も、いずれも銀行セクターの構造改革に関わる重要なものである。
第1の提言(資本増強):国有商業銀行の財務基盤を持続的・柔軟に強化するため、利益の全額を株式配当(現金ではなく株式で配当)に充当し、自己資本を拡充することを認めてほしいとした。これは国有銀行が長年抱えてきた慢性的な自己資本不足への対応策である。
第3の提言(金融・財政政策の連携):金融政策と財政政策を緊密に連携させ、適切な金利水準を維持しつつ、高成長目標を支える信用枠の配分を求めた。
第4の提言(重点信用プログラム):インフラ整備、エネルギー転換、デジタル転換といった国家的重点分野への信用プログラムを推進するとともに、国家・企業・金融機関の間でリスクを分担する仕組みの構築を提案した。
第5の提言(資本市場の発展):株式市場や社債市場など資本市場を総合的に発展させ、銀行システムに集中する中長期資金の供給圧力を軽減すべきとした。ベトナムでは企業の資金調達が銀行融資に偏重しており、資本市場の未発達が構造的課題として指摘されている。
第6の提言(デジタルインフラ・データ共有):国家データベースの整備を加速し、各省庁と銀行システム間のデータ連携を強化することで、リスク審査や信用評価の精度を高め、国民や企業の資金アクセスを改善するよう求めた。
第7の提言(新経済モデルの法整備):デジタル経済、シェアリングエコノミー、ナイトタイムエコノミー、グリーン経済、循環型経済など、新たな経済モデルに対応する法的基盤の構築を要請した。
投資家・ビジネス視点の考察
【銀行セクターへのインパクト】
不良債権の簿価割れ売却が正式に認められれば、ベトナムの銀行株にとって中長期的にポジティブなカタリストとなる。不良債権の滞留は引当金コストの増大と新規融資余力の制約を招いており、その解消は収益改善に直結する。特にBIDV(ティッカー:BID)、VietinBank(CTG)、Vietcombank(VCB)といった国有銀行株に注目が集まるだろう。ただし、短期的には売却損の計上による一時的な利益圧迫が懸念されるため、市場の反応は玉虫色になる可能性もある。
【不動産セクターとの連動】
不良債権の多くは不動産関連融資に紐づいている。不良債権の流動化が進めば、担保不動産の処分も加速し、不動産市場の価格形成が正常化に向かう可能性がある。一方、担保不動産が市場に大量放出されるシナリオでは、不動産価格に下方圧力がかかるリスクもある。
【2026年のFTSE新興市場指数格上げとの関連】
ベトナムは2025年9月にFTSEラッセルの新興市場指数へのウォッチリスト入りを果たしており、2026年9月の正式格上げ決定が見込まれている。銀行セクターの不良債権処理の進展と資本市場の発展(第5の提言)は、格上げ審査においてポジティブに評価される要素である。外国人投資家にとって、銀行のバランスシートの健全性向上は投資判断の重要な材料となる。
【日本企業・投資家への示唆】
ベトナムに進出している日本企業にとって、銀行の融資余力拡大は資金調達環境の改善を意味する。特に製造業・輸出産業向けの優遇信用プログラムの拡充は、日系製造業にとって追い風となり得る。また、不良債権の市場売却が解禁されれば、日本の不良債権投資ファンドやサービサーにとって新たなビジネスチャンスが生まれる可能性もある。日本は1990年代後半〜2000年代に大規模な不良債権処理を経験しており、そのノウハウはベトナムにとっても参考になるはずである。
ベトナム政府が二桁成長の達成を国家目標として掲げる中、銀行セクターの構造改革はその成否を左右する鍵である。今回のBIDV総裁による7つの提言が、どこまで政策として具体化されるかを注視していく必要がある。
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出典: 元記事












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