ベトナム国会は2025年12月11日、「ベトナム国際金融センター(IFC)専門裁判所法」を可決した。同法は2026年1月1日から施行され、ベトナムが国際金融センター構想を推進する上での法的基盤として大きな注目を集めている。従来のベトナム司法制度とは一線を画し、英米法(コモンロー)の原則を大幅に取り入れた画期的な内容となっている。
検察の関与排除──「当事者自治」を最大限尊重
同法の最大の特徴は、ベトナムの伝統的な司法制度において訴訟手続きを監督してきた検察(Viện Kiểm sát)の役割を専門裁判所の審理から完全に排除した点にある。これにより「当事者自治(Party Autonomy)」の原則が最大限に尊重され、国際的な慣行に沿った柔軟かつ特殊な訴訟手続きが実現する。ベトナム政府がIFC誘致に向けて強いコミットメントを示したものと評価されている。
外国法・国際商慣習の適用が可能に
専門裁判所法は、ベトナムの公序良俗に反しない限り、当事者間の合意に基づき外国法や国際商慣習を適用することを認めている。これにより、投資家は米国法や英国法といった長い歴史と高い安定性を持つコモンロー法体系を選択でき、国際的な金融機関や多国籍企業にとって馴染みのある法的環境で紛争解決を行うことが可能となる。
外国人裁判官の登用と電子訴訟手続き
同法は外国人が裁判官として審理に参加することを認めており、国際投資紛争に精通した専門家の知見を活用できる体制を整える。また、電子訴訟手続きや即時判決(phán quyết tức thời)といった迅速な紛争解決を可能にする規定も盛り込まれている。
コモンロー型「対審制」の採用
証拠収集においても大きな転換がある。専門裁判所は自ら証拠を収集せず、当事者が提出した証拠のみに基づいて判断を下す。これはコモンローにおける「ディスカバリー(discovery)」制度に相当し、ベトナムの伝統的な職権探知主義(Inquisitorial System)とは対照的な対審制(Adversarial System)を採用したことを意味する。弁護士の役割が中心に据えられ、公開・透明・公正な弁論が重視される。
控訴審判決が「最終・確定」──法的安定性を担保
投資家にとって特に重要なのは、控訴審の判決・決定が最終的なものとなり、監督審査(giám đốc thẩm)や再審(tái thẩm)による覆しがない点である。通常のベトナム訴訟手続きでは判決後も再審理のリスクが残り、紛争の長期化や投資家の不安要因となっていた。専門裁判所法はこの問題を解消し、金融市場が求める「既判力(res judicata)」による法的確実性を提供する。
判決の国際的執行──課題も残る
一方、ベトナムは現時点でハーグ裁判所選択合意条約(The Hague Convention on Choice of Court Agreements)に加盟していないため、専門裁判所の判決が自動的に外国で承認・執行されるわけではない。判決の国際的執行は、相互主義または二国間司法共助協定に依拠することになる。法律専門家は、ベトナムがハーグ判決条約への加盟や二国間協定の締結を進め、外国判決の承認・執行に関する国内法を整備する必要性を指摘している。
執行手続きの迅速化──裁判官に執行権限
専門裁判所法第38条・第39条は、通常の執行機関を介さず、裁判官自身に強制執行の権限を付与している。これにより書類移管などの手続きが省略され、執行の迅速化が期待される。ただし、現行の執行関連法規との整合性確保や、関係機関との連携体制の構築が課題として残っている。
シンガポールやドバイの先例を参考に
最高人民裁判所は現在、専門裁判所の訴訟規則を策定中である。法律専門家はシンガポール国際商事裁判所(SICC)、ドバイ国際金融センター裁判所(DIFC Courts)、ロンドン商事裁判所(LCC)などの訴訟規則を参考にし、国際性・透明性・迅速性を備えた規則を整備すべきだと提言している。
日本企業への影響と今後の展望
ベトナムは製造業を中心に日本企業の進出が活発であり、今後はIFCを通じた金融・投資分野での関与拡大も予想される。専門裁判所の設立により、国際標準に近い紛争解決環境が整うことは、日本企業にとってもベトナムでの事業リスク低減につながる可能性がある。ただし、判決の国際執行体制や実務運用が軌道に乗るまでには一定の時間を要するとみられ、今後の法整備と運用実績を注視する必要がある。
出典:VnEconomy
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