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ベトナムの大手商業銀行であるサコムバンク(Sacombank、ホーチミン証券取引所上場・証券コード:STB)が、外国人幹部のロイック・フォシエ(Loic Faussier)氏を副総裁(Phó Tổng giám đốc)に任命した。リスク管理・法務・コンプライアンスを統括する要職への外国人起用は、同行が進める経営陣の大幅な刷新の一環であり、ガバナンス強化に向けた強いメッセージと受け取れる。一方で、2025年度の監査済み純利益は前年比で大幅に減少しており、投資家にとっては人事と業績の両面から注視すべき局面にある。
フランス人幹部ロイック・フォシエ氏の副総裁就任
サコムバンクは2026年3月27日付で、ロイック・フォシエ氏(1972年生まれ)を副総裁に任命したと発表した。同氏の担当領域はリスク管理(quản trị rủi ro)、法務(pháp chế)、コンプライアンス(tuân thủ)の3分野である。ベトナムの銀行業界において、リスク管理とコンプライアンスは近年きわめて重要度が増している領域だ。ベトナム国家銀行(中央銀行)がバーゼルII・III基準の導入を推進する中、国際的な金融規制の実務経験を持つ外国人幹部の登用は、サコムバンクがグローバルスタンダードに沿った内部統制体制の構築を本格化させていることを示唆する。
この任命により、サコムバンクの経営委員会(Ban Tổng giám đốc)は合計12名体制となった。総裁(Tổng giám đốc)はグエン・ドゥック・トゥイ(Nguyễn Đức Thụy)氏が務めている。
相次ぐ幹部人事——経営陣の全面的な再編
フォシエ氏の就任は単独の出来事ではなく、サコムバンクが短期間に集中的に実施している経営陣再編の一部である。直近で公表された主な人事異動は以下の通りだ。
- グエン・ティ・キエウ・アイン(Nguyễn Thị Kiều Anh)氏:副総裁に任命。コーポレートガバナンス担当者および情報公開担当者を兼務する。
- ズオン・タン・トゥアン(Dương Thanh Tuấn)氏:取締役会事務局長(Chánh Văn phòng HĐQT)およびコーポレートガバナンス担当者を務めていたが、引き続き管理・総務部門の副部門長を兼任する。
- ズオン・チュン・ロイ(Dương Trung Lợi)氏:取締役会議長補佐から、2026年1月1日付で取締役会事務局長・コーポレートガバナンス担当者に就任。
- ハー・ヴァン・チュン(Hà Văn Trung)氏:副総裁から常務副総裁(Phó tổng giám đốc thường trực)に昇格。
- ヴー・ミン・クアン(Vũ Minh Quân)氏:債務処理センター長兼取締役会議長補佐から、2025年12月25日付で副総裁に就任。
これらの人事を総合すると、サコムバンクはガバナンス体制・リスク管理体制の強化に加え、不良債権処理の加速(クアン氏の副総裁昇格)という経営課題に正面から取り組んでいることが読み取れる。同行はかつて2015年の旧ベトナム南方銀行(Southern Bank)との合併に伴い、大量の不良債権を抱えた経緯があり、その処理は長年の課題であった。
2025年度業績——純利益は前年比で大幅減少
人事刷新と並んで注目すべきは、サコムバンクが公表した2025年度の監査済み連結財務諸表の数字である。2025年度の税引後利益は5兆9,391億ドンとなり、前年(2024年度)と比較して4兆1,484億ドン減少した。
この大幅減益の背景を詳細に見ていこう。
収益面:利ざや収入は増加
純金利収入(thu nhập lãi thuần)は前年同期比で2兆1,489億ドン増加した。内訳は以下の通りである。
- 金利収入および類似収入が7兆4,921億ドン増加
- 貸出残高が80兆9,690億ドン増加し、貸出金利収入が5兆6,433億ドン増加
- 他の信用機関への預金が90兆3,780億ドン増加し、預金利息収入が1兆7,454億ドン増加
- 債券投資残高が4兆2,840億ドン増加し、債券投資利息収入が4,067億ドン増加
- その他の金利収入は3,033億ドン減少
一方、預金・借入に対する利払いコストは5兆3,432億ドン増加した。
- 顧客預金および有価証券発行残高が144兆6,930億ドン増加し、利払い費用が5兆4,057億ドン増加
- 中央銀行・他の信用機関からの借入が1兆6,892億ドン増加し、借入利息が1,799億ドン増加
- その他費用は2,424億ドン減少
非金利収入:その他の営業収益は堅調
その他の営業活動からの収入は前年同期比で1兆2,306億ドン増加した。具体的には以下の通りである。
- 手数料等の純収入:1,001億ドン増加
- その他の営業純収入:1兆2,624億ドン増加
- 外国為替取引の純収入:833億ドン減少
- 証券投資の純収入:642億ドン減少
- 出資・株式取得からの収入:156億ドン増加
費用面:信用リスク引当金の急増が最大要因
大幅減益の最大の要因は、費用面にある。その他の支出は前年同期比で7兆5,279億ドン増加した。とりわけ顕著なのが信用リスク引当金(chi phí dự phòng rủi ro tín dụng)の9兆4,094億ドンもの増加である。これは同行が不良債権の処理を大幅に加速させたことを意味しており、前述の経営陣刷新とも整合する動きである。なお、営業費用は9,375億ドン減少し、法人税費用も9,440億ドン減少しており、コスト管理と税効果の面では一定の改善が見られる。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のサコムバンクの一連の動きは、複数の観点から分析する必要がある。
1. 不良債権処理の「膿出し」フェーズ:2025年度に信用リスク引当金を9兆ドン以上積み増したことは、短期的には利益を大きく圧迫する。しかし、これは過去から引きずってきた不良債権問題を本格的にクリーンアップする「前向きな痛み」と解釈できる。旧南方銀行との合併以来の懸案が解消に向かえば、2026年以降の業績回復余地は大きい。
2. 外国人幹部の起用とFTSE格上げへの含意:ベトナムは2026年9月にFTSE新興市場指数への格上げが正式決定される見込みであり、海外投資家からのベトナム市場への資金流入が本格化すると予想されている。サコムバンクがリスク管理・コンプライアンス領域に国際経験豊富な外国人幹部を据えたことは、こうした海外資金を受け入れるための体制整備とも読める。FTSE格上げに伴い、銀行セクターは海外機関投資家の主要な投資対象となるため、ガバナンス体制の国際水準への引き上げは銘柄としての魅力向上に直結する。
3. STB株への短期・中期的影響:短期的には、2025年度の大幅減益がネガティブ材料として意識される可能性がある。しかし中期的には、引当金の積み増しによるバランスシートの健全化、経営陣刷新によるガバナンス強化が再評価材料となりうる。特に、不良債権比率の改善トレンドが確認されれば、株価のリレーティング(再評価)が期待できる局面である。
4. 日本企業・投資家への示唆:ベトナムの銀行セクターは、同国の高い経済成長率(2025年もGDP成長率6〜7%台を維持)の恩恵を最も直接的に受けるセクターの一つである。日本の機関投資家やベトナムに進出している日系企業にとって、サコムバンクのようなベトナム大手行のガバナンス改善動向は、取引先銀行の信頼性評価や投資判断に直接影響する。外国人幹部の登用が進む銀行は、国際的な取引慣行への対応力も向上するため、日系企業との取引円滑化も期待される。
総じて、サコムバンクは「短期の痛みを受け入れて中長期の成長基盤を固める」フェーズにあると評価できる。今後の四半期業績における不良債権比率の推移と、新経営陣のもとでの戦略発表に注目したい。
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