ベトナムの工業団地(産業パーク)システムが、いま大きな転換期を迎えている。1991年に計画経済の色彩が濃い中でスタートした工業団地政策は、当初5カ年計画(1991〜1995年)でFDI(海外直接投資)誘致目標をわずか20億ドルと設定していた。しかし2025年には、FDI認可額が約390億ドルに達し、そのうち工業団地向けだけで300億ドルを超える見通しだ。約30年で実に15倍以上という驚異的な成長を遂げたことになる。
478カ所に拡大した工業団地ネットワーク
ベトナム投資計画省の統計によると、2025年9月末時点で全国に478カ所の工業団地が設立されている。内訳は、経済特区外に位置する工業団地が421カ所、沿岸経済特区内が49カ所、国境経済特区内が8カ所となっている。これらすべてに設立決定とインフラ建設事業者が確定しており、二次投資家(テナント企業)の誘致が進められている。
経済特区外の421カ所だけでも、総自然土地面積は約14万5,970ヘクタール、工業用地としては約10万1,600ヘクタールを確保している。このうち324カ所がすでに稼働中で、自然土地面積約9万5,700ヘクタール、工業用地約6万8,000ヘクタールを擁する。さらに153カ所が建設中であり、完成すれば約3万2,600ヘクタールの工業用地が追加される見込みだ。
地域分布を見ると、南部の東南部地域(ホーチミン市、ビンズオン省、ドンナイ省など)と北部の紅河デルタ地域(ハノイ市、バクニン省、ハイフォン市など)の2大産業集積地に工業団地が集中している。これらの地域は、それぞれサムスン、キャノン、パナソニック、トヨタなど日韓欧米の大手製造業が生産拠点を構えるエリアとして知られる。
30年間の発展史──黄金期は2001〜2010年
外国投資局と財務省の分析によれば、1991年から2020年までの30年間で最も工業団地が急増したのは2001〜2010年の10年間だった。この期間だけで195カ所、総面積5万9,470ヘクタールの工業団地が設立され、これは30年間全体の設立数の52.8%、面積の52.1%を占める。WTO加盟(2007年)前後のベトナム経済開放期と重なり、外資誘致が本格化した時期である。
直近の2021〜2025年期、とりわけ2021〜2024年においては、工業団地のインフラ建設投資と域内製造プロジェクトへの投資が、社会全体の総投資額の約27.7%を占めるまでになった。工業団地からの輸出額は年平均でベトナム全体の輸出総額の約55%に達し、約383万人の直接雇用を創出している。これは全国労働力の約7%に相当する規模だ。
環境対応と「エコ工業団地」への転換
持続可能な発展の要請を受け、工業団地における環境保護も強化されている。現在、稼働中の工業団地の約92%が環境基準を満たす集中排水処理システムを整備しており、1日あたり最大130万立方メートル以上の廃水処理能力を持つ。
新設される工業団地では「エコ工業団地(Khu công nghiệp sinh thái)」モデルの導入が顕著なトレンドとなっている。これは環境負荷の低減、労働者の生活の質向上、グリーン・持続可能な発展の促進を目的とした次世代型産業パークの概念である。日本でいう「環境配慮型工業団地」に近い考え方で、循環型経済の実現を見据えた設計がなされている。
「製造拠点」から「バリューチェーンの結節点」へ
ベトナム経済の国際統合が深化する中、工業団地のビジネスモデルも変容しつつある。従来の「インフラ提供型」から、FDI資金・先端技術・市場を結びつける「バリューチェーン(価値連鎖)のハブ」への進化が求められている。外資系企業とベトナム国内企業の間で技術移転や市場共有を促進し、ベトナム企業がグローバルサプライチェーンにより深く参画できる環境を整備することが狙いだ。
残された課題──土地、人材、国際競争
一方で、工業団地システムは複数の構造的課題にも直面している。
第一に、地域間での工業用地の需給ミスマッチがある。南部や紅河デルタなど需要の高い地域では拡張余地が限られる一方、地方部では開発が進んでいない。
第二に、高度人材と技術労働者の不足が深刻だ。特に半導体、AI、先端製造など技術集約型産業での人材確保が大きなボトルネックとなっている。
第三に、ASEAN域内でのFDI獲得競争が激化している。インドネシア、タイ、マレーシアなど近隣諸国も積極的な投資誘致策を展開しており、ベトナムの投資環境の競争力向上が急務となっている。
これらの課題に対応するため、法制度の一貫性確保、行政手続きの透明化・迅速化、公務員のサービス意識向上と業務監督の強化が求められている。
2030年に向けた具体的計画
ベトナム政府は2030年までに、新規221カ所の工業団地の開発、既存76カ所の拡張、22カ所の計画調整を予定している。単なる量的拡大にとどまらず、バリューチェーン型成長、スマートインフラ(IoT、自動化、スマート物流)、再生可能エネルギー統合、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を通じて、競争力の質的向上を図る方針だ。
また、既存の「従来型工業団地」をエコ工業団地へ段階的にアップグレードし、ESG(環境・社会・ガバナンス)基準への適合を進める。これは世界的な脱炭素化トレンドや、サプライチェーン上のESG要求強化に対応するものでもある。
2045年の長期ビジョン──「先進工業国」入りへ
長期的には、2022年11月の共産党中央委員会決議第29号に基づき、2045年までにベトナムを「高所得の先進工業国」とし、アジアの先進工業国グループ入りを目指す。工業団地システムはこの国家目標の中核的な柱と位置づけられ、投資誘致、輸出拡大、内需産業の育成、ハイテク産業・クリーン生産・裾野産業・近代物流への産業構造転換の基盤となる。
今後1〜2年の重点施策
2030年・2045年の目標実現に向け、以下の戦略的施策が今後1〜2年で集中的に実施される予定だ。
1. 政策・制度の整備:投資誘致メカニズム、税制・土地優遇政策を見直し、近隣諸国に対する競争力を高める。
2. スマート・持続可能なインフラ開発:IoT、自動化、スマート物流への投資を強化し、エコ工業団地モデルを推進する。
3. 人材の質向上:職業教育機関と工業団地内企業の連携を強化し、労働者の生活・労働環境を改善して高度人材を呼び込む。
4. サプライチェーン連携の促進:裾野産業の発展、部品・パーツの国産化率向上、外資系企業と国内企業の緊密なネットワーク構築を進める。
5. 戦略的投資誘致:経済外交を強化し、ベトナム工業団地の魅力を国際的に発信。環境配慮型で輸出貢献度の高い先端技術プロジェクトを優先的に誘致する。
日本企業への示唆
ベトナムの工業団地は、中国+1戦略やサプライチェーン再編を進める日本企業にとって、引き続き重要な選択肢となる。特に、エコ工業団地への転換やESG対応の強化は、日本の製造業が重視するサステナビリティ要件と親和性が高い。一方で、高度人材の不足や行政手続きの煩雑さは依然として投資判断上のリスク要因であり、進出検討時には十分なデューデリジェンスが求められる。
ベトナム政府が掲げる「2045年アジア先進工業国入り」という野心的な目標は、同国の工業団地システムの今後20年の発展方向を示すものだ。インフラのデジタル化、グリーン化、バリューチェーン高度化という三つの軸で進む変革は、ベトナム製造業の競争力を左右する重要な転換点となるだろう。
出典: Vn Economy
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