ベトナム投資法の「構造的欠陥」を専門家が指摘──シンガポール・中国との比較で浮き彫りになる「形式主義」の限界

Bất cập trong pháp luật đầu tư xuyên biên giới: So sánh với Singapore và Trung Quốc

多国籍企業による複雑な多層構造投資が世界的に主流となる中、ベトナムの投資関連法制が「形式的な所有権」に基づく管理にとどまり、「実質的な支配関係」を捉えきれていないという重大な課題が、法律専門家から指摘されている。シンガポールや中国がすでに法整備を進める中、ベトナムは従来型の規制アプローチから脱却できておらず、外国投資の誘致・管理の両面でリスクを抱えている状況だ。

目次

ドイモイから約40年──変容する国際投資構造への対応遅れ

1986年のドイモイ(刷新)政策導入以来、ベトナムは東南アジア有数の外国直接投資(FDI)受入国へと成長した。2020年投資法では、投資の自由、平等な取扱い、政策の安定性といった原則が明記されている。しかし問題は、この法的枠組みが設計された当時と現在では、国際投資の構造が根本的に異なっている点にある。

かつての一般的な投資形態は、外国投資家が投資先国に直接法人を設立するものだった。資本所有権がそのまま経営支配権を反映するシンプルな構造である。ところがグローバル化の深化に伴い、多国籍企業は複数の中間法人を介した多層的な投資構造を採用するようになった。地域統括会社(リージョナル・ホールディング)、グループ内金融会社、知的財産保有会社、経営管理サービス会社、そして投資先国のプロジェクト法人といった具合に、経済機能が複数の法人に分散配置される。

こうした構造では、実質的な支配権は必ずしも出資比率に依存しない。経営契約、技術依存関係、グループ内融資、グループ保証、戦略的意思決定権限など、資本関係以外のルートで支配関係が形成されうる。にもかかわらず、2020年投資法は法人の国籍や出資比率といった「形式的基準」で投資家を分類する仕組みを維持しており、越境投資構造の実態を十分に捕捉できていない。

国際仲裁判断が示す「形式」と「実質」のせめぎ合い

国際投資法の領域では、「経済的実質(economic reality)」の原則が確立されつつある。投資関係の本質を、戦略的意思決定能力、キャッシュフロー支配、経済リスクの負担といった観点から評価するアプローチである。

この点で示唆に富むのが、二つの著名な国際仲裁判断だ。一つはICSID(投資紛争解決国際センター)のTokios Tokelės対ウクライナ事件(2004年)で、仲裁廷は法人の設立地を基準とする形式的アプローチを採用し、実質的にはウクライナ国民が支配する会社であっても「外国投資家」としての地位を認めた。

もう一つはフィリップ・モリス対オーストラリア事件(2015年、UNCITRAL規則)である。こちらでは、紛争発生後に投資保護協定の適用を受けるために行われた企業再編が「権利の濫用」と判断され、仲裁廷は保護を拒否した。

これら二つの判断は一見対照的だが、共通する教訓がある。すなわち、正当な事業目的に基づく投資構造の選択は尊重されるべきだが、法的義務の回避や保護制度の操作を目的とした構造には対抗措置が必要だということだ。この均衡こそが、現代の投資法制が目指すべき方向性といえる。

2020年投資法第23条の構造的限界

ベトナム2020年投資法第23条は、外国資本を有する経済組織に対する投資条件・手続きの適用を「出資比率51%超」という数値基準で線引きしている。この規定には三つの構造的欠陥がある。

第一に、所有と支配を同一視している点だ。前述のとおり、現代の投資構造では支配関係は出資比率以外からも発生しうる。第二に、支配的持分未満での実質支配を捕捉できない点である。拒否権や財務支配、技術依存、株主間契約などを通じて、50%未満の出資でも実質支配は可能だ。第三に、51%未満に出資比率を調整することで望ましい法的扱いを得ようとするインセンティブを生み出している点である。

専門家は、第23条の改正にあたり四つの原則を提唱している。(1)実質支配原則:経済活動への支配能力に基づく投資家分類、(2)最終受益者原則:最終的な受益者・支配者の追跡、(3)濫用防止原則:法的義務回避を主目的とする構造の不認定、(4)法的安定性原則:正当な事業目的があれば構造選択の自由を保障──である。

シンガポール・中国との比較──鮮明になる制度格差

シンガポールでは、会社法およびACRA(企業会計規制庁)規則により、企業は「支配者登録簿(Register of Controllers)」を維持し、最終受益者を開示する義務を負う。投資優遇措置の適用も単なる資本規模ではなく、経済的付加価値、実質的事業活動、技術貢献度などを基準に判断される。多層的な所有構造の追跡も制度的に可能となっている。

中国は2019年外商投資法において、包括的な投資情報報告制度を導入した。当局は支配構造を追跡可能であり、国家安全審査制度も実質支配に基づいて運用される。優遇措置は戦略産業、技術力、バリューチェーンへの影響度に紐づけられ、資本規模のみに依存しない。

対照的に、ベトナムの2020年投資法および施行細則(2021年政令第31号)は、中間法人の評価基準を定めていない。実質的経済プレゼンスの要件も明確化されておらず、法人格の独立性を定める民法第74条・企業法第4条も、グループ構造の実態を前提としていない。

三つの技術的欠陥が投資環境に与える影響

専門家は、ベトナム投資法には三つの技術的欠陥が存在し、越境投資構造に重大な影響を及ぼしていると指摘する。

第一に、投資形態の規定が不十分である。第21条は直接取引を前提とした投資形態を列挙しているが、多層的な間接支配や株主間契約による支配など、現代的な投資構造をカバーしきれていない。ベトナム国内で直接取引が行われなくても、海外の持株会社レベルで支配権移転が生じるケースを捕捉できない。

第二に、51%基準の形骸化である。形式的に51%以上の外国出資があっても経営実権がない場合や、逆に50%未満でも実質支配が存在する場合があり、同基準は実態を反映していない。名目上の所有比率に基づく手続き負担が生じる一方、実質支配のある少数株主案件は規制対象から漏れる。

第三に、税制優遇の判定基準の問題がある。投資総額に基づく優遇適用は、グループ内融資、多法人経由の資金供給、無形資産の内部評価、グループ内資金循環といった越境投資特有の構造を考慮していない。

日本企業への示唆と今後の展望

本件が示す課題は、ベトナムに進出する日本企業にとっても無関係ではない。多くの日系企業はシンガポールや香港の地域統括会社を経由してベトナムに投資しており、まさに多層構造投資の当事者である。ベトナム当局による「実質支配者」の認定基準が曖昧なまま推移すれば、投資許認可手続きや優遇措置適用において予測困難な事態が生じるリスクがある。

一方で、ベトナムが法制度の近代化に踏み切れば、グレーゾーンの解消によってむしろ事業環境の透明性が向上する可能性もある。シンガポールや中国の制度を参照しつつ、実質支配原則、最終受益者の追跡、実質的経済プレゼンスの評価という三本柱への移行が進むか否かが、今後のベトナム投資環境を左右する重要な論点となるだろう。

出典: VnEconomy

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