ベトナム政府はこのほど、国家レベルから地方レベルに至るまでの各種計画(クイホアック=quy hoạch)の策定・審査・承認・公表に関する手続きを包括的に整備する「政令第70/2026/NĐ-CP号」を公布した。同政令は計画法(Luật Quy hoạch)の詳細規定を定めるもので、各省庁・地方政府の責任分担を明確化するとともに、策定期限や意見聴取の具体的なフローを規定し、従来問題視されてきた計画策定の遅延や各レベル間の不整合の解消を目指す内容となっている。
政令公布の背景──なぜ今、計画策定プロセスの刷新が必要なのか
ベトナムでは2017年に計画法が成立し、それまで各省庁・地方がバラバラに策定していた開発計画を、国家総合計画を頂点とする一元的な体系へ再編する方針が打ち出された。しかし実際の運用段階では、省庁間の調整不足や承認手続きの煩雑さから、全国の省レベル計画を含む多くの計画が大幅に遅延。投資家にとっては「どの地域でどのような開発が許可されるのか」が不透明な状態が続き、外資を含む企業の投資判断にも影響を与えてきた。今回の政令第70号は、こうした課題に正面から応えるべく、プロセスの簡素化と期限の厳格化を柱に据えたものである。
各レベルの計画策定プロセス──誰が、どのように進めるのか
政令は、ベトナムの計画体系を構成する各レベルの計画について、それぞれ策定の主管機関・意見聴取の手順・承認権限を明確に規定している。以下、レベルごとに整理する。
(1)国家総合計画
国家総合計画(Quy hoạch tổng thể quốc gia)については、財政省(Bộ Tài chính)が策定の主管機関となる。財政省は計画の大綱(デクオン=đề cương)を作成したうえで、各省庁および関連地方に意見を照会する。照会を受けた機関は、書類受領から10営業日以内に回答する義務を負う。財政省は寄せられた意見を集約・反映したうえで大綱を完成させ、政府に提出して審議・決定を仰ぐ流れとなる。
(2)国家海洋空間計画・国家土地利用計画
国家海洋空間計画(Quy hoạch không gian biển quốc gia)および国家土地利用計画(Quy hoạch sử dụng đất quốc gia)については、農業・環境省(Bộ Nông nghiệp và Môi trường)が主管を担う。プロセスは国家総合計画と同様で、各省庁・地方への意見聴取を経て政府に大綱を提出する。ベトナムは南北約1,600キロメートルにわたる長大な海岸線を有し、海洋経済の振興が国家戦略の柱の一つとなっているだけに、海洋空間計画の迅速な策定は経済的にも安全保障的にも重要性が高い。
(3)セクター(業種別)計画
交通、エネルギー、工業など各セクターの国家計画については、計画策定機関が大綱を作成し、計画組織機関を通じて各省庁・地方の意見を聴取する。意見聴取の回答期限は同じく10営業日。セクター計画の種類に応じて、首相または所管大臣が大綱を承認する。
(4)広域圏(ブン=vùng)計画
ベトナムでは北部、中部、南部など複数の広域圏が設定されており、広域圏計画は地域全体の均衡ある発展を図るうえで不可欠な位置づけにある。この広域圏計画については、計画策定機関が大綱を作成し、財政省を通じて関係省庁および圏内の各地方に意見を照会する。回答期限は10営業日で、財政省が意見を集約・反映したうえで首相に大綱の承認を求める。
(5)省レベル計画
省(ティン=tỉnh)レベルの計画については、省の計画策定機関が大綱を作成し、省人民委員会傘下の専門機関やコミューン(サー=xã)レベルの人民委員会に意見を求める。意見を反映・説明したうえで、省人民委員会主席が大綱を承認する権限を持つ。地方分権の進展に伴い、省レベルの計画承認が地方の裁量に委ねられている点は、地方政府の主体性を尊重する姿勢の表れといえる。
策定期限の厳格化──計画遅延に歯止め
政令のもう一つの大きな柱は、各レベルの計画策定に明確な期限を設定した点である。具体的には以下のとおり規定されている。
国家総合計画:策定期間は最長24カ月。計画期の初年に開催される国会の最初の会期に提出しなければならない。
国家海洋空間計画・国家土地利用計画:同じく最長24カ月。計画期の初年中に国会に提出する必要がある。
セクター計画・広域圏計画:策定期間は最長18カ月。国家総合計画が決定・承認されてから遅くとも3カ月以内に承認申請を行わなければならない。
これまで計画策定が数年単位で遅延するケースが珍しくなかったベトナムにおいて、こうした具体的な期限設定は画期的といえる。期限の厳格化により、国家計画から地方計画までが「上位計画の決定→下位計画の速やかな策定」というカスケード型で連動し、投資環境の予見可能性が大幅に向上することが期待される。
計画の公表と情報公開──透明性の確保
政令は計画の公表・公開についても具体的な期限を定めている。国家レベル、広域圏レベル、省レベルのいずれの計画も、権限ある機関による決定・承認から10営業日以内に公表しなければならない。公表先は「国家計画情報システム」および計画策定機関のウェブサイトとされており、国家機密に該当する内容を除き原則として全面公開される。
さらに、計画データベースについても、承認・決定から15営業日以内に国家計画情報システムへのアップロードが義務付けられた。これにより、企業や市民が最新の計画情報をオンラインで迅速に確認できる環境が整備されることになる。
日本企業・投資家への影響と今後の展望
ベトナムは日本にとって最大級の直接投資先の一つであり、製造業を中心に多くの日系企業が進出している。工場用地の取得や工業団地の開発、インフラ整備といった事業はすべて各レベルの計画と密接に関連しており、計画策定の遅延は事業スケジュールの見通しを困難にする大きなリスク要因であった。
今回の政令第70号により、計画策定プロセスの透明化・迅速化が進めば、日系企業にとっても投資判断のスピードアップや用地確保の円滑化といった実務的なメリットが期待できる。特に、計画情報がオンラインで速やかに公開される仕組みは、遠隔地からベトナム市場を調査・分析する日本の投資家にとって朗報といえよう。
一方で、制度が整備されても運用面での課題が残る可能性は否定できない。意見聴取の10営業日ルールが実質的に機能するか、地方レベルで人材やITインフラが十分に整っているかなど、実効性の検証は今後の焦点となる。政令の理念が現場レベルまで浸透するかどうか、引き続き注視が必要である。
出典: Vn Economy
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