ベトナム国家証券委員会は2026年2月4日、「ベトナム企業統治原則2026(VNCG Code 2026)」を正式に発表した。G20/OECDの最新基準に準拠したこの新原則は、ベトナム証券市場がFTSE Russellなど国際的な指数算出機関から「フロンティア市場」から「新興国市場」への格上げ審査を受ける上で、決定的な役割を果たすと期待されている。
30年の歴史を経て「量から質」への転換点
ベトナム証券市場は1990年代後半の設立から約30年を経て、国内経済における中長期資金調達の重要なチャネルとしての地位を確立してきた。ホーチミン証券取引所(HOSE)とハノイ証券取引所(HNX)を合わせた時価総額は近年急成長を遂げ、東南アジア域内でも存在感を増している。しかし、ASEAN企業統治スコアカード(ACGS)の評価結果によれば、取締役会の責任体制や少数株主保護の面で依然として改善が必要な状況にある。
発表式典で登壇したグエン・ホアン・ズオン国家証券委員会副委員長は、「良好な企業統治は企業の経営効率向上や透明性・説明責任の強化にとどまらず、投資家の信頼を固め、長期資金を呼び込み、持続可能な発展を促進する重要な要素である」と強調した。
新原則の核心——「遵守か説明か」方式の導入
起草チームを代表して説明に立ったヴー・チー・ズン法制・対外局長によると、2019年版の10原則から今回は9原則に整理されたものの、現代的な企業統治の課題をより深く、幅広くカバーする内容となった。新原則の最大の特徴は、英国やシンガポールなど先進市場で広く採用されている「Comply or Explain(遵守か説明か)」方式の本格導入である。上場企業は法定要件を上回る高い基準の適用を推奨されるが、それが困難な場合は年次報告書において合理的な説明を行えばよいという柔軟な仕組みだ。
5つの戦略的重点分野
VNCG Code 2026は、グローバルトレンドに対応するため5つの重点領域を設定している。
第一に、取締役会の役割拡大である。経営戦略の策定にとどまらず、環境・社会・ガバナンス(ESG)要素、とりわけ気候変動リスクの監督責任を担うことが求められる。専門のESG委員会設置や担当取締役の任命も推奨されている。
第二に、リスク管理の範囲拡大だ。財務リスクに加え、デジタルトランスフォーメーション、人工知能(AI)、気候変動といった「新興リスク」への対応が明記された。
第三に、情報開示の高度化である。サステナビリティ情報は第三者機関による検証を経て公表することが求められ、経営陣の報酬方針も業績や企業の長期価値と連動させた上で詳細に開示する必要がある。
第四に、株主権利の拡充とデジタル化の推進だ。オンライン株主総会や電子投票(E-voting)の導入が奨励され、取締役報酬、重要なM&A案件、ESG関連事項についても株主の議決権や対話権が拡大された。
第五に、ステークホルダー重視への思想転換である。株主利益の最大化(Shareholder)から、従業員・顧客・地域社会を含むすべての利害関係者への価値創造(Stakeholder)へとパラダイムシフトが明確に打ち出された。
市場格上げで30億ドルの資金流入も——業界関係者の見解
発表式典のパネルディスカッションでは、実務家から様々な意見が寄せられた。ACGS評価でASEANトップ5に入るVPBank(ベトナム繁栄商業銀行)のルー・ティ・タオ常務副社長は、「国際基準の適用をコンプライアンスの負担ではなく、発展の羅針盤と捉えるべきだ」と述べた。
ベトナム最大手証券会社SSI(サイゴン証券)のグエン・カック・ハイ法務・コンプライアンス部門長は、市場格上げが実現すれば約300億ドル(約4兆5,000億円)の海外資金がベトナム株式市場に流入すると試算した上で、「この資金は均等に流れ込むわけではなく、優れた企業統治基盤を持つ企業に集中する」と指摘。SSIとしても自社での先行実施に加え、他企業への統治強化支援を通じてこの機会を最大限活用する意向を示した。
一方、国有資本が支配的なビエッテル・コンストラクション(軍系通信大手ビエッテルグループ傘下の建設会社)のグエン・タット・チュオン取締役は、「親会社のグループ本部から現場まで、理解と合意形成が最大の課題だ。原則を紙の上の理念にとどめず実行に移すためには、統治担当者の役割を明確に位置づける必要がある」と率直に課題を指摘した。
今後の展開——指数採用基準への組み込みも視野
グエン・ホアン・ズオン副委員長は、「公布後の実行フェーズこそが最も重要だ」として、政府関係機関を中心とした「作業部会」の設置を急ぐ方針を明らかにした。また、国家証券委員会は各証券取引所と連携し、VNCG Codeの適用状況を主要株価指数の採用銘柄選定基準に組み込むことも検討中だ。これにより、企業が自発的に統治体制を強化するインセンティブが生まれ、地域・国際基準に近い「質の高い資産クラス」が形成されることが期待される。
日本企業への示唆
ベトナムは日本企業にとって生産拠点としてのみならず、消費市場・投資先としても重要性を増している。新興国市場への格上げが実現すれば、日本の機関投資家によるベトナム株への組み入れも加速する可能性が高い。現地でJV(合弁)や資本提携を検討する日本企業にとっては、パートナー候補企業の統治レベルを見極める新たな判断基準が整備されることを意味する。ESGを軸とした統治改革の進展は、サプライチェーン全体のリスク管理という観点からも注視すべき動向である。
出典: VnEconomy












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