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ベトナム株式市場は週明けの取引で再び大規模な売り浴びせに見舞われた。先週末の強い下押し圧力に続く新たな投げ売りの波が発生し、追証に伴う強制決済(マージンコール)とテクニカル上のロスカットが同時進行したとみられる。200銘柄以上が2%超の下落を記録し、VN指数は2025年11月の安値水準にまで沈む展開となった。国際的な地政学リスクの高まりも重なり、市場心理は急速に冷え込んでいる。
3営業日連続の急落、VNAllshareの22%超が7%以上の下落
今回の売りの深刻さは、具体的な統計が如実に物語っている。VNAllshare(ベトナム市場全体をカバーする包括的な株価指数)を構成する銘柄のうち、直近3営業日の累計で約22.4%が7%以上の下落を記録した。さらに5%以上の下落にまで範囲を広げると、構成銘柄の約36%に達する。これらの数値は、ベトナムの個人投資家が一般的にロスカットラインとして設定する水準(5〜7%)と一致しており、組織的・機械的な損切りが大量に執行されたことを示唆している。
買い手側の資金が大幅に後退しているため、売り手は大きく価格を下げなければ約定できない状況に陥った。200銘柄以上が2%超の下落を記録した事実は、ポートフォリオ全体に深刻なダメージを与えるレベルである。
直近の安値(3月9日)との比較でみる市場の劣化
3月9日の終値は、直近の短期的な底値として市場参加者に意識されていた水準である。しかし本日の終値ベースで、VNAllshare構成銘柄の48.4%がその3月9日の水準を下回った。先週末時点では34%にとどまっていたため、わずか1営業日で状況が大幅に悪化したことになる。仮にもう1日強い下押しが加われば、リスクの高い銘柄はさらに拡大する見通しである。
一方で完全に悲観一色というわけではない。約14%の銘柄は依然として3月9日の終値から5%以上高い水準を維持している。これらの「相対的に強い銘柄」は、ストップ安にでもならない限り、まだ底値を「テスト」する段階であり「底割れ」には至っていない。市場が早期に反転すれば、これらの銘柄は「前回の安値より高い底値」を形成するか、少なくともテクニカル指標上のダイバージェンス(乖離)を示す可能性がある。
VN指数1580〜1600台は有効なサポートラインではない
VN指数は本日、2025年11月の安値水準まで下落した。しかし、現在の1580〜1600ポイント付近は、テクニカル的に有効な支持線とは言い難い。その理由は主に2点ある。
第一に、2025年11月の安値からの反発局面では、VIC(ビングループ/Vingroup、ベトナム最大手のコングロマリット)やVHM(ビンホームズ/Vinhomes、ベトナム最大級の不動産デベロッパー)といった主力大型株が逆行高を演じ、指数全体を押し上げるという特殊要因が存在した。現在はそうした「トップダウン型」の指数押し上げ効果が期待しにくい。
第二に、2025年11月当時と現在の外部環境は根本的に異なる。現在は地政学リスクが極めて大きく、特にホルムズ海峡(ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ世界有数の石油輸送ルート)をめぐる紛争当事者間の強硬な声明が直近48時間以内に相次いでおり、市場は方向感を完全に失っている。紛争がさらにエスカレートする可能性も否定できない状況である。
国際市場も総崩れ、原油は100ドル突破
こうした地政学リスクへの反応は世界的に広がっている。ベトナムと同じ時間帯で取引されるアジア各国の株式市場はほぼすべてが3%以上の下落を記録し、欧州市場も大幅安で推移した。原油市場では、ブレント原油が1バレルあたり約109ドル、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)も100ドルを超える急騰となった。
原油価格の高騰は、製造業を中心に外国直接投資(FDI)を大量に受け入れているベトナム経済にとって、輸送コスト・エネルギーコストの上昇を通じて直接的な打撃となり得る。また、インフレ圧力の再燃はベトナム国家銀行(中央銀行)の金融政策運営にも影響を与える可能性がある。
マージンの罠—ブルトラップで捕まった追証の解消売り
今回のVN指数の「底割れ」は、直前の反発局面がいわゆる「ブルトラップ(強気の罠)」であったことを裏付ける形となった。反発局面で信用取引(マージン取引)を使って買い増した投資家が、急落によって含み損を抱え、追証に対応できずに強制決済される——という悪循環が生じている。
本日はホーチミン証券取引所(HSX)で38銘柄がストップ安(最大下落幅制限)に張り付いた。パニックの度合いとしては3月9日の暴落時ほどではないものの、注目すべきは買い手側の「貪欲さ(積極的な押し目買い)」も3月9日に比べて明らかに弱まっている点である。防衛的な資金が極端に市場から引き揚げてしまうと、株価はその自重によって沈み続けるしかない。
先物市場のベーシスは意外に安定
興味深いのは先物(デリバティブ)市場の動きである。取引開始直後こそ先物の第1限月(F1)はVN30指数に対して約20ポイントのディスカウント(現物より安い状態)となったが、VN30の参照値が確定した後はわずか約マイナス2ポイント程度にまでベーシスが縮小した。これはロング(買い)またはショート(売り)のいずれのポジションにとっても、VN30を基準としたロスカット管理がしやすい環境であることを意味し、デリバティブを活用したヘッジやアクティブトレードには比較的良好な条件であったと言える。
指数自体は大きく変動したが、まだ想定される最大振幅には達していない。ショートもロングもセットアップしやすい局面であり、途中でポジションを振り落とされる場面はあったものの、各波動の値幅は十分に確保されていた。
今後の見通しと戦略
買い手側の防衛的な心理が継続する以上、市場はさらなる下落余地を残している。ただし、下落の値幅は徐々に縮小する可能性がある。今回の投げ売りのパターンは過去の急落局面と類似しており、数日かけて売り圧力が減衰していく展開が想定される。
現時点でVN指数のテクニカル的な支持線はほとんど機能していない。大型の指数構成銘柄がいずれの支持線をも突き破る力を持っているためである。しかし個別銘柄レベルでは観察すべきポイントがある。下落幅が小さく、かつ出来高が少ない銘柄ほど「含み損に耐えている投資家の忍耐力が強い」ことを示しており、反転時の回復力も期待できる。
VN30指数は本日1741.05で引けた。翌日のレジスタンスは1745、1759、1768、1779、1787、1802。サポートは1738、1725、1713、1697、1689、1681、1667が意識される水準である。
筆者(原文著者iTrader)は戦略として「現金ポジションを維持しつつ待機し、指数よりも調整が緩やかな個別銘柄を物色する。先物ではロング・ショート双方を機動的に活用する」という方針を示している。今回の「残酷な急落」は投機的なレイヤーを一掃し、キャッシュリッチな投資家に新たな買い場を提供する局面となる可能性がある。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の急落は、ベトナム株式市場が抱える構造的な脆弱性を改めて浮き彫りにしている。信用取引比率の高さ、個人投資家比率の圧倒的な大きさ(取引高の8割以上)、そして地政学的ショックに対するバッファーの薄さが、急激なボラティリティの温床となっている。
関連銘柄への影響:VIC(ビングループ)やVHM(ビンホームズ)といったブルーチップの動向が、指数の方向性を決定づける最大の要因である。これらの銘柄が底入れの兆候を見せるかどうかが、市場全体の反転シグナルとなり得る。また、原油高騰の恩恵を受ける石油・ガス関連銘柄(PVD、PVS、GASなど)は逆行高の可能性がある一方、航空(VJC、HVNなど)やコスト転嫁が困難な製造業銘柄にはさらなる下押し圧力がかかる。
日系企業・ベトナム進出企業への影響:原油100ドル超えは、ベトナムに生産拠点を持つ日系製造業にとって物流コスト増大を意味する。また、ベトナムドンの為替動向にも注意が必要である。地政学リスクの高まりは新興国通貨からの資金流出を加速させる傾向があり、輸入コストの上昇を通じてベトナム国内のサプライチェーンに波及し得る。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連性:2026年9月にFTSEラッセルがベトナムの新興市場指数への格上げを最終決定する見込みであるが、こうした急激な市場のボラティリティや流動性の急低下は、格上げに向けた市場の「質」の評価にマイナスに働く可能性がある。一方で、格上げ期待による海外機関投資家の資金流入が底値を支えるという見方もあり、中長期的な視点では現在の急落が「割安な参入機会」となる可能性は否定できない。ただし、短期的にはホルムズ海峡問題の行方と国際原油市場の動向を注視する必要がある。
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出典: 元記事(VnEconomy)












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