中東の地政学リスクと燃料コストの高騰が世界の海上輸送市場を揺るがすなか、ベトナムのコンテナ輸送運賃にもその影響が及び始めた。国際航路での迂回コスト増大が引き金となり、ベトナム国内の主要航路でも3月から運賃の引き上げが相次いでいる。一部路線では25%もの大幅な値上げが確認されており、輸出入に依存するベトナム経済、そして同国に生産拠点を持つ日系企業にとっても看過できない動きである。
中東緊張でホルムズ海峡が事実上の「通行不能」に
国際コンテナ輸送が直面している最大の問題は、中東情勢の緊迫化である。ペルシャ湾の出入り口にあたるホルムズ海峡は、アジアと欧州を結ぶ海上輸送の大動脈の一つだが、現在この海峡を通過できない状況が生じている。これにより、アジア─欧州間(亜欧航路)をはじめとする主要航路が大きな影響を受けている。
航行の安全を確保するため、多くの船会社はアフリカ大陸最南端の喜望峰(Cape of Good Hope)を迂回するルートへの変更を余儀なくされている。この迂回により、輸送日数は大幅に延び、燃料消費量も増大するため、船隊の運航コストが跳ね上がる構造となっている。結果として、国際市場全体に運賃上昇圧力が広がっている状況だ。
世界コンテナ指数は8%上昇、大手船社も一斉値上げ
世界的な海運分析機関であるドリューリー(Drewry)のデータによると、直近1週間の世界コンテナ指数(World Container Index=WCI)は前週比8%上昇し、40フィートコンテナ1本あたり2,123ドルに達した。上昇の主な要因は、亜欧航路と太平洋横断航路における運賃の急騰である。
世界最大級のコンテナ船社であるMSC(本社:スイス・ジュネーブ)やCMA CGM(本社:フランス・マルセイユ)といった大手も、3月22日付でFAK運賃(Freight All Kinds=品目を問わない一括運賃)の引き上げを通知している。ドリューリーは、各船社が引き続き輸送能力の調整(=供給量の抑制)を行う見通しであることから、国際スポット運賃は今後数週間にわたりさらなる上昇が見込まれると予測している。
燃料価格の急騰がコスト構造を圧迫
地政学リスクに加え、船舶燃料(バンカー燃料)の価格上昇も海運各社の収益を直撃している。英国の燃料分析企業サールストン・シッピング(Thurlestone Shipping)のデータによれば、国際海事機関(IMO)の規制に対応した低硫黄燃料油の価格は、一時1トンあたり521ドルから822ドルへと約58%も急騰した。さらに、低硫黄の船舶用ディーゼル油は1トンあたり1,383ドルに達する場面もあったという。
2020年に発効したIMOの硫黄酸化物排出規制(SOx規制)により、世界の船舶は低硫黄燃料の使用を義務付けられている。このため、規制対応燃料の価格変動は運航コストに直結し、最終的に荷主への転嫁圧力となって表れる。
ベトナム発の国際航路──中東向けは事実上「停止」
ベトナム海事・内水路局(Cục Hàng hải và Đường thủy Việt Nam)によると、現時点ではベトナムから主要国際市場向けの運賃には大幅な変動は見られていない。しかし、喜望峰迂回を余儀なくされている一部の船社は、すでに「戦争付加料金(War Risk Surcharge)」の適用を通知しているという。
より深刻なのは、大手船社の大半がベトナム発の中東向け貨物航路の運航を一時停止しており、新規の予約(ブッキング)を受け付けていないという事実である。ベトナムと中東諸国の間では、水産物や農産物、電子部品などの貿易が活発に行われてきただけに、この航路停止は関連する輸出企業に直接的な打撃を与える可能性がある。
国内航路にも波及──ハイアン社は平均100万〜150万ドンの値上げ
国際海運市場の混乱は、ベトナム国内のコンテナ輸送市場にも連鎖的に波及し始めた。ベトナムの国内コンテナ輸送大手であるハイアン・コンテナ運輸有限会社(Hải An Container Transport)は、3月19日付で国内航路の運賃改定を実施した。
新運賃の具体的な水準は以下のとおりである。
【20フィートコンテナ(実入り)】
・ハイフォン─ホーチミン市:650万ドン/本
・ハイフォン─カイメップ(バリア=ブンタウ省の深水港):750万ドン/本
・ギソン(タインホア省)─カイメップ:850万ドン/本
【40フィートコンテナ(実入り)】
・ハイフォン─ホーチミン市:900万ドン/本
・ハイフォン─カイメップ:1,050万ドン/本
・ギソン─カイメップ:1,100万ドン/本
・カイメップ─ダナン:1,150万ドン/本
・カイメップ─ギソン:1,150万ドン/本
2025年3月初旬に適用されていた旧運賃と比較すると、ハイアン社の新運賃は1本あたり平均100万〜150万ドンの上昇となっている。
Vsico社は平均17%超の値上げ、一部路線で25%増
同様に、ベトナムの海運企業であるVsico海運株式会社(Vsico Maritime Joint Stock Company)も3月25日付で運賃改定を発表した。
Vsico社の新運賃は以下のとおりである。
・ハイフォン─ホーチミン市:20フィート=700万ドン、40フィート=1,000万ドン
・ホーチミン市─ハイフォン(逆方向):20フィート=600万ドン、40フィート=850万ドン
前回の届出価格と比較すると、Vsico社の運賃は平均で17%以上の引き上げとなっており、特にハイフォン─ホーチミン市間の40フィートコンテナについては25%もの大幅な値上げが実施された。
さらにVsico社は、運賃改定に加え、3月15日付で燃料サーチャージ(燃料付加料金)の適用も開始している。同社は値上げの理由として、中東の地政学リスクに起因する燃料費の急騰を挙げており、この状況は当面継続する見通しであると説明している。
「ドミノ効果」への警戒──管理当局の見解
ベトナムの海事管理当局は、海上輸送がグローバルなネットワークとして運営されている以上、特定の航路での迂回やコスト上昇が「ドミノ効果」を引き起こす可能性があると指摘している。一部航路での船隊運用効率の低下やスケジュールの遅延は、他の航路にも波及し、より広範な運賃上昇につながりうるという認識だ。
ベトナムは南北に細長い国土を持ち、北部のハイフォン港と南部のホーチミン市・カイメップ港の間の国内海上輸送は、陸上トラック輸送の代替手段として産業界に広く利用されている。国内コンテナ運賃の上昇は、製造業のサプライチェーンコストに直結するため、輸出競争力にも影響を及ぼしかねない。
日系企業への影響と今後の見通し
ベトナムには多くの日系製造業が進出しており、完成品の輸出や部品の輸入において海上コンテナ輸送に大きく依存している。特に、電子部品・自動車部品・繊維製品などを扱う企業にとって、運賃の上昇は製品原価の押し上げ要因となる。
また、ベトナム国内での南北間の部品・製品移動にも国内コンテナ航路が活用されるケースが多く、今回の国内運賃の値上げは、北部と南部に分散して工場を持つ日系企業のロジスティクスコストにも影響を与える可能性がある。
中東情勢が短期間で沈静化する見通しは立っておらず、燃料価格も高止まりが予想される。ドリューリーの予測どおり国際スポット運賃がさらに上昇すれば、ベトナム発着の国際航路にも本格的な運賃調整が及ぶことは避けられないだろう。ベトナムに拠点を持つ企業は、物流コストの変動を織り込んだサプライチェーン戦略の見直しを迫られる局面に入りつつある。
出典: Vn Economy
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