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ベトナム科学技術省は2026年4月、戦略技術および戦略技術製品のリストを見直し、首相に提出する方針を明らかにした。GDP2桁成長という野心的な目標に向け、国家として優先すべき技術と製品を再定義する動きであり、ベトナム経済の構造転換を占う重要な政策展開である。
科学技術省が定例記者会見で方針を発表
2025年4月1日、科学技術省はブイ・ホアン・フオン(Bùi Hoàng Phương)副大臣の主宰により3月の定例記者会見を開催した。同省によれば、2026年3月の業界全体の売上高は516兆8,170億ドンに達し、前年同期比17%増となった。GDP成長への貢献額は133兆4,860億ドンで、前年同期比28%増と大幅に拡大している。
会見では、科学技術省科学技術工学局のホアン・アイン・トゥー(Hoàng Anh Tú)副局長が、戦略技術リストの調整・補充計画について説明した。同氏は、今回の見直しが中央の発展要求、とりわけ経済成長率2桁という目標に応えるためのものであると強調した。
「我々は各省庁・部門と連携し、経済に実質的なインパクトを与える技術製品を特定するための新たなアプローチを構築してきた」とトゥー副局長は述べている。
既存の決定を超える「深い精緻化」が必要に
2025年6月に公布された決定1131/QĐ-TTg(首相決定第1131号)により、戦略技術グループと戦略製品のリストはすでに策定されていた。しかし、現在の国際情勢や国内の急速な産業変化を踏まえ、さらなる精緻化が求められている。科学技術省が示した新たなアプローチは、以下の5つの原則に基づく。
第一に、「大きな課題」からの出発。国家・産業・分野にとって重要かつ緊急な課題を起点とする。これらの課題が解決されれば、経済・社会の成長に対して明確かつ測定可能なインパクトを生むものでなければならない。
第二に、具体的なインパクト指標の設定。課題が解決された際の改善度合いを数値化し、技術の実質的な効果を可視化する。
第三に、「バリューチェーンの要所」への集中。価値連鎖の中で最も大きなインパクトを生み出せる環節を特定し、そこからコア技術と戦略的技術製品を抽出する。
第四に、戦略技術製品の厳格な定義。製品はバリューチェーンの要所に直接影響を与えるものであり、かつハイテク法(Luật Công nghệ cao)第133/2025/QH15号の基準を満たす必要がある。
第五に、製品から技術への逆引き。特定された戦略製品から遡って、それを生み出すコア技術(戦略技術)を同定し、関連する法的基準との整合性を確保する。
皮革・履物産業を例にした具体的アプローチ
科学技術省は、GDPに占める比率が大きい農林水産業や皮革・履物産業などを具体例として挙げた。皮革・履物産業の場合、バリューチェーンは原材料、裁断、縫製、仕上げ、型入れ、接着など複数の工程から成る。ベトナム企業がどの工程に参画し、どの工程を自ら掌握でき、どの工程が依然として海外企業に握られているのかを明確にしたうえで、段階的に技術を習得していくロードマップを策定するという考え方である。
この例が示すように、今回の見直しは抽象的な「先端技術推進」ではなく、各産業の現場レベルでの技術課題を具体的に分解し、国として優先投資すべき領域を見極めるという極めて実践的なアプローチを取っている。
短期・長期の2グループに分類
科学技術省は、技術を大きく2つのグループに分類する方針も示した。一つは短期的に習得可能で経済・社会に直接的なインパクトを与える技術群、もう一つは長期的な投資が必要な基盤的・戦略的技術群である。技術開発は一朝一夕には実現できないため、明確なロードマップが不可欠であるとの認識が背景にある。
2026年4月以降の具体的アクションプラン
科学技術省は2026年4月、以下の重点施策に取り組むとしている。
- 各省庁と連携し、戦略技術・戦略技術製品リストを見直し・完成させ、首相に提出する
- 戦略技術に関する省庁横断の調整ワーキンググループの設立を提言する
- 戦略技術開発のための財政メカニズムを整備する。具体的には、成果連動型の特別メカニズム、管理されたリスク許容、税・信用・利子補給の優遇措置、官民共同出資、国家予算による調達発注の仕組みなどを2026年5月までに完成させる
- 2025年に国会で可決された各法律の施行細則・ガイドラインを100%完成させる。政府議定(Nghị định)2件、首相決定1件、省令(Thông tư)3件の提出を予定している
これらはいずれも、共産党政治局の決議第57号(Nghị quyết số 57-NQ/TW)が掲げる戦略技術に関する方針を具体化するものである。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の戦略技術リスト見直しは、ベトナムが「世界の工場」から「技術を自ら掌握する製造拠点」へと脱皮しようとする国家意思の表れである。投資家にとって注目すべきポイントは以下の通りである。
ベトナム株式市場への影響:戦略技術分野に指定された領域に関連する企業は、今後、税制優遇や補助金、国家調達といった恩恵を受ける可能性が高い。特にハイテク製造業、農業技術、素材産業関連の上場企業は中長期的な追い風となり得る。FPT(ベトナム最大手IT企業)やVingroup傘下のVinFast(EV製造)など、技術開発投資を積極的に行っている企業群にとってはポジティブな政策環境が整いつつある。
日本企業への示唆:ベトナムが「バリューチェーンの中で自国が弱い環節」を明確にし、段階的に技術習得を目指す方針は、日本企業にとって技術移転パートナーとしてのビジネス機会を意味する。特に皮革・履物、農業、製造装置分野で技術ライセンスや合弁事業の提案が有効となる可能性がある。一方で、中長期的にはベトナム企業が技術を内製化していくため、単なる生産委託モデルからの転換を意識する必要がある。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに向け、ベトナム政府は制度整備を加速させている。今回の戦略技術政策も、産業の高度化と透明性向上を通じて、海外機関投資家にとってのベトナム市場の魅力を高める要素の一つとなる。格上げが実現すれば、戦略技術分野の成長企業への海外資金流入が加速する展開が期待できる。
ベトナム経済全体における位置づけ:科学技術省の業界売上高が前年同期比17%増、GDP貢献が28%増という数字は、技術関連産業がベトナム経済の成長エンジンとして存在感を増していることを裏付ける。GDP2桁成長という目標は極めて野心的であるが、こうした産業政策の精緻化が着実に進めば、その実現可能性は徐々に高まっていくと見るべきである。
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出典: 元記事












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