ベトナム経済は今、歴史的な転換点に立っている。2021年から2025年までの5カ年発展計画の最終年を迎え、同国は新たな成長サイクルへと「飛躍」する準備を整えつつある。ベトナム経済誌「VnEconomy」は、グローバルベトナム科学者・専門家組織(AVSE Global)のグエン・ドゥック・クオン会長(教授)にインタビューを実施し、2025年の経済総括と2026年以降への提言を聞いた。
2025年を象徴する3つのキーワード
クオン教授は、2025年のベトナム経済を表現するキーワードとして3つを挙げた。
第一は「コロナ後の経済復興」である。2021年から2025年にかけて、ベトナムは新型コロナウイルスのパンデミックがもたらした経済構造への深刻な影響に対処してきた。2025年は、この復興努力が深化し、科学技術、デジタルトランスフォーメーション(DX)、イノベーションの推進によって、経済の新たな基盤が構築された年となった。
第二のキーワードは「レジリエンス(強靭性)」だ。サプライチェーンの断絶や世界的なインフレといった外部ショックに対する耐性は、困難な時期を通じてベトナム経済が鍛え上げた「資質」であり、今や同国の競争優位となっている。
そして最も重要な第三のキーワードが「変動の中での飛躍」である。ベトナムは、労働集約型・資源依存型で付加価値の低い経済から、科学技術とイノベーションがあらゆるビジネス活動と質の高い成長の核となる新たなフェーズへと、力強く移行しつつある。
国際舞台でのプレゼンス強化
クオン教授によれば、ベトナムは良好な国際的地位を獲得し、経済発展と外交の両面で引き続き「輝点」となっている。米国の新たな関税政策という課題に直面した際も、ベトナムは積極的に米国との交渉に臨み、同時に市場多角化戦略を推進。関税圧力を「飛躍のきっかけ」に変え、国際貿易地図上での存在感を拡大した。
この多角化戦略により、ベトナムは多くの有望市場を開拓している。特に注目すべきはEU市場で、2025年1月から11月の輸出額は約511億6,000万ドルに達し、前年同期比7.9%増を記録した。ベトナムは、主要な原材料輸入先である中国と、最大の輸出市場である米国という二大国の「狭い回廊」に位置しながらも、この課題を機会に転換。輸出入総額は史上初めて9,300億ドルの大台を突破した。これは、年初に懸念された米国の不利な関税政策を考えれば、驚異的な数字といえる。
この成功の背景には2つの核心的要因がある。第一に、ベトナム経済の柔軟な適応能力。第二に、高い水準で維持されてきたマクロ経済の安定基盤である。政府は企業支援策を同時並行で展開し、インフレを適切にコントロールしつつ、ビジネスモデル革新のためのR&D活動を奨励してきた。規制緩和の方向での制度改革は、民間企業、特に「先導企業群」が戦略的シフトを実行する条件を整えた。
インフラ投資が成長の新たな原動力に
公共投資とインフラ整備は、2025年の成長を牽引する新たな活力源として注目を集めている。ロンタイン国際空港(ホーチミン市郊外に建設中の大型国際空港)、南北高速鉄道、中国の経済中心地と結ぶ鉄道路線といった巨大プロジェクトの同時着工は、ベトナムの政治的意志と決意を示すものだ。
クオン教授は、今後数十年でベトナムが真に「飛躍」するためには、持続可能であると同時に資源の「流れ」を生み出すインフラ基盤が不可欠だと指摘する。それは物流の流れだけでなく、特に人的資源の最適な移動を意味する。地域間、そしてベトナムと世界を円滑に結ぶ接続性こそが、深い統合の前提条件であり、現在の経済の大きなボトルネックである物流コスト問題の解決にもつながる。
インフラ接続が改善されれば、国際投資家はベトナムの経済ハブを、ハノイ、ホーチミン市、ハイフォン、ダナンといった従来の拠点だけに限定して見ることはなくなる。代わりに、資本と機会は全国各地に波及し、インフラ接続を通じてバリューチェーンの新たな結節点が形成される。
二桁成長に向けた新たな原動力
現時点で7〜8%の成長率は、世界で最も高い成長率を誇る経済グループに属する。さらに高い成長を達成するには、新たな原動力を発揮する必要があるとクオン教授は述べる。
まず挙げられるのが、デジタル時代、AI、自動化である。国レベルだけでなく、多くの企業がすでにこれらの新分野に積極的に参入している。統計総局によると、デジタル経済セクターは2025年に14.6%成長し、720億ドル超に達し、GDPの14%以上を占めるに至った。ベトナムはデジタル経済への投資と応用で飛躍的な進歩を遂げている。
新たな発展空間の再編と戦略的インフラ接続、そして制度・ビジネス環境のボトルネック解消も、経済にブレークスルーをもたらす重要な原動力となる。科学技術が企業の持続可能な競争力向上の柱となり、輸出や公共投資といった従来の原動力を発揮しつつ、新たな原動力を開拓する基盤となることが求められる。
成長と社会の進歩の両立
クオン教授は、ベトナムの最高目標は単に高所得国になることではなく、国民の幸福と繁栄を創造することだと強調する。中上位所得国から高所得国への移行過程において、成長は包摂性を伴い、すべての国民が発展の成果に貢献し、享受できる機会を保証しなければならない。成長指標はあくまでツールであり、重要なのは成長の質と社会の進歩のバランスがとれた経済モデルを構築することだ。
繁栄への渇望は、システム全体の同期的な変革を要求する。持続可能な成長は特定のセクターだけに依存することはできず、「国家の手」と「民間の活力」の組み合わせは、制度的ボトルネックが解消されて初めて効果を発揮する。円滑で規律のある運営メカニズムを継続的に創出し、経済主体の権利を保護しつつ、創造性と公正な競争を促進することが求められる。
限られた資源こそがイノベーションの源泉
資源の制約がある中でいかに科学技術とイノベーションによるブレークスルーを生み出すかという問いに対し、クオン教授は興味深い見解を示した。資源は重要だが、資源の制約こそが最も強力な変革の原動力になるというのだ。
歴史が証明しているように、創造性は制約の中でこそ最高潮に達する。ベトナム軍が設立初期に「戦いながら学ぶ」精神で臨んだ経験や、中国が「粗末な工場」から AI、通信、宇宙分野でリーダーとなったことは、無限の資源がない時こそ、よりスマートで効率的な独自の道を見つけざるを得ないことを示している。
ベトナムは、莫大な投資資本を必要とする世界の既存路線を追うべきではない。代わりに、資源がまだ豊富でない段階では、戦略的技術への公共投資に集中しつつ、内在する創造力を最大限に引き出す方法を見つける必要がある。
民間セクターのグローバル展開に向けて
民間セクターが国際的に飛躍(Go Global)し、バリューチェーンにより深く貢献するためには、税制優遇やR&D支援、市場拡大支援に加え、「三者連携」モデル(国家・大学・企業)が鍵となる。国家は開かれた制度と柔軟なサンドボックス制度で創造的役割を果たし、大学は知識と技術移転の中心となり、企業は生産性と付加価値向上のための応用とイノベーションを担う。
完全な企業エコシステムの構築も不可欠だ。先導企業が中小企業と協力し、共にバリューチェーンを発展させる空間を創出する。そうすることで、グローバルサプライチェーンに深く参入できる純ベトナム民間経済の「セーフティネット」が形成され、外部ショックに耐え、持続的な成長モメンタムを維持できるようになる。
2026年の安定と成長の両立
変動する世界経済の中で、二桁成長の野望を実現しつつ安定性も確保するために、ベトナムはこれまで築いてきた基盤を活用し続ける必要がある。
まず、財政余力が安全な水準にあり、公的債務が低い水準にあることで、政府は不利なショックに対して企業と国民を柔軟に支援できる。次に、効果的なインフレ抑制が労働者の購買力を保護し、生産性と成長の質を維持している。また、ベトナムは主要経済国の政策変動に巻き込まれることなく、マクロ経済運営における自律性を保ち、他の多くの地域より安定した環境を創出している。
さらに、戦略的な地政学的位置により、ベトナムは地域の安定における重要な結節点となり、この利点を活用して互恵的な多国間協力を拡大し、国際舞台での役割を強化している。
これらの基盤こそが「戦略的吸引力」を生み出している。多国籍企業が世界に展開する中、ベトナムは地域でのトップ投資先となる機会をますます得ている。典型例が半導体分野だ。大国やテクノロジー大手がベトナムをグローバルサプライチェーンの安全な結節点として選ぶことで、多くの衛星企業の移転も引き起こされている。
日本企業への示唆
ベトナム経済のこうした動向は、日本企業にとっても重要な意味を持つ。第一に、サプライチェーンの多角化先としてのベトナムの魅力がさらに高まっている。第二に、インフラ整備の進展により、従来の主要都市以外の地域への投資機会も広がりつつある。第三に、デジタル経済やAI分野での成長は、日本の技術・ノウハウを活かした協業の可能性を示唆している。
一方で、ベトナム国内企業の競争力向上も進んでおり、単なる低コスト生産拠点としてではなく、バリューチェーン全体を見据えた戦略的パートナーシップの構築が、今後の日越経済関係の鍵となるだろう。
出典: VnEconomy
いかがでしたでしょうか。今回のベトナム経済の転換点と成長戦略について、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
【noteメンバーシップのご案内】
より詳細なベトナムの経済ニュース解説や企業の投資分析、現地からのリアルタイム情報をお求めの方は、ぜひメンバーシップへのご参加をご検討ください。
https://note.com/gonviet/membership












コメント