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ベトナムの繊維・アパレル産業が厳しい年明けを迎えている。2025年初頭の受注は「細々」(nhỏ giọt=滴るように少しずつ)という表現がまさに当てはまる状況で、回復の足取りは重い。受注規模は縮小し、企業には市場の多角化が喫緊の課題として突きつけられている。ベトナムの主力輸出産業であるだけに、マクロ経済や株式市場への波及にも注意が必要である。
受注回復は「滴るように」——何が起きているのか
ベトナム繊維・アパレル産業は、同国の輸出を長年支えてきた基幹産業の一つである。2024年の繊維・アパレル輸出額は約440億ドル規模に達し、電子機器に次ぐベトナム第2位の輸出セクターとしての存在感を示してきた。しかし2025年に入り、業界全体で受注の回復ペースが著しく鈍化している。
具体的には、海外バイヤーからの発注が「nhỏ giọt」(点滴のように少量ずつ)しか戻ってきていない。1件あたりの受注規模(ロットサイズ)も縮小傾向にあり、かつてのように大口注文をまとめて受ける形態から、小ロット・多品種・短納期へとシフトが進んでいる。これは世界的な消費減速やインフレの長期化に伴い、欧米の大手アパレルブランドが在庫リスクを抑えるために発注を絞り込んでいることが背景にある。
背景にある構造的な問題
ベトナムの繊維・アパレル産業が直面する課題は、短期的な景気循環にとどまらない。いくつかの構造的な要因が複合的に重なっている。
第一に、主要市場への依存度の高さである。ベトナムの繊維・アパレル輸出先は米国が最大で全体の約4割を占め、次いでEU、日本、韓国が続く。米国市場の消費動向に業績が大きく左右される構造は従来から指摘されてきたが、2025年に入っても米国の個人消費は力強さを欠いており、バイヤーの慎重姿勢が続いている。加えて、トランプ政権の関税政策を巡る不透明感も、発注の先送りにつながっている可能性がある。
第二に、競合国との価格競争の激化である。バングラデシュ、カンボジア、ミャンマーといった周辺国は人件費の面でベトナムよりも優位に立つケースが増えており、特に低付加価値の縫製工程では価格面で厳しい競争にさらされている。ベトナムの最低賃金は過去10年で大幅に上昇しており、コスト競争力の低下が徐々に表面化してきた。
第三に、サプライチェーンの再編である。新型コロナ禍以降、グローバル企業は調達先の分散(チャイナ・プラスワン戦略の進化形)を加速させてきた。ベトナムはその恩恵を受けた代表格だが、現在はさらに「ベトナム・プラスワン」として、インドやアフリカ諸国にも生産拠点が分散する動きが出始めている。
企業に求められる「市場多角化」戦略
こうした環境下で、ベトナムの繊維・アパレル企業には市場の多角化が強く求められている。具体的には、従来の米国・EU偏重から脱却し、中東、アフリカ、中南米、ASEAN域内といった新興市場への販路開拓が急務となっている。
また、単純なCMT(裁断・縫製・仕上げ)受託生産から、ODM(相手先ブランドによる設計・製造)やOBM(自社ブランド製造)への転換を目指す動きも加速している。付加価値の高い工程を取り込むことで、受注単価の低下を補い、利益率を確保する戦略である。ベトナム繊維・アパレル協会(VITAS)も、業界全体としてバリューチェーンの上流への進出を繰り返し提唱している。
さらに、環境対応(サステナブルファッション)への投資も差別化の鍵となる。欧州のグリーンディール政策やファストファッション規制の強化を背景に、環境基準をクリアできる工場は優先的に発注を受けやすい立場にある。逆に、対応が遅れた企業は市場から取り残されるリスクが高まっている。
投資家・ビジネス視点の考察
【ベトナム株式市場への影響】
ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場する繊維・アパレル関連銘柄——例えばビナテックス(VGT、ベトナム繊維公団)、タンデー・ガーメント(TNG)、ギルソン・ガーメント(GIL)などは、受注動向に業績が直結する。2025年第1四半期決算では、売上高の伸び悩みや利益率の圧迫が数字に表れる可能性が高く、短期的にはセクター全体が軟調に推移するリスクがある。一方で、市場多角化やODM転換に成功している企業は中長期的に選好される余地があり、銘柄選別が重要な局面である。
【日本企業への影響】
日本のアパレル企業やSPA(製造小売業)にとって、ベトナムは中国に次ぐ主要調達先である。ユニクロ(ファーストリテイリング)、しまむら、ワールドなど多くの企業がベトナムに生産委託を行っている。ベトナム側の受注減は、裏を返せばバイヤー(日本企業側)の発注抑制でもある。日本の消費市場の低迷がベトナムの工場稼働率に直結するという構図を改めて認識すべきである。また、日本企業のベトナム現地法人にとっては、人件費上昇と受注単価の低下という二重の圧力に対処する必要がある。
【FTSE新興市場指数格上げとの関連】
2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げは、主に金融・不動産・テクノロジーセクターへの海外資金流入を後押しするとみられるが、繊維・アパレルセクターへの直接的な恩恵は限定的と考えられる。ただし、ベトナム経済全体への信認向上は、為替(ドン)の安定やインフラ投資の加速を通じて間接的にプラスに働く可能性がある。
【ベトナム経済全体における位置づけ】
ベトナム政府は2025年のGDP成長率目標を8%以上に設定しているが、繊維・アパレルのような労働集約型産業の回復が鈍いままでは、雇用面での下押し圧力が懸念される。同セクターは全国で約300万人の雇用を抱え、特に地方部の女性労働者の生活基盤を支えている。受注回復の遅れは、内需や個人消費にもじわじわと影響を及ぼしかねない。政府が掲げる経済成長と、現場レベルの回復感のギャップに注視が必要である。
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出典: 元記事(VnExpress)












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