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ベトナム南部の製薬大手ズオック・ハウザン(DHG Pharma、ホーチミン証券取引所上場・銘柄コード:DHG)が、証券法に基づく「公開会社(コンティダイチュン)」の要件を満たしていないことを公表した。筆頭株主である日本の大正製薬が51.01%、国有資本投資経営総公社(SCIC)が43.31%と、2大株主で合計94.32%を占めるため、少数株主の持分比率が法定基準を下回っている。同社は現在、2大株主との協議を通じて是正方針の策定に着手しており、上場維持に向けた動向が注目される。
公開会社要件の未達成—何が問題なのか
DHG Pharmaが2026年3月23日を基準日として取りまとめた株主名簿によると、同社の株主総数は4,185名である。しかし、その持ち分構成は極端に偏っている。
- 大正製薬(Taisho Pharmaceutical):51.01%
- SCIC(ベトナム国有資本投資経営総公社):43.31%
- その他4,183名の少数株主:5.68%
2019年制定の証券法(第54/2019/QH14号)第32条第1項a号に基づき、公開会社として認められるためには「大株主以外の少なくとも100名の投資家が、議決権付き株式の10%以上を保有していること」が必要である。この規定は2024年の改正証券法(第56/2024/QH15号)第1条第11項で改めて確認されている。DHG Pharmaの場合、少数株主の保有比率はわずか5.68%にすぎず、10%の最低基準を大幅に下回っている。公開会社の要件を満たさなければ、最終的にホーチミン証券取引所(HOSE)からの上場廃止につながる可能性があるため、事態は深刻である。
大正製薬とSCIC—2大株主の存在感
DHG Pharmaの株主構成がここまで偏っている背景には、日本の大正製薬による段階的な資本参加の歴史がある。大正製薬は2010年代にDHGへの出資を開始し、ベトナム政府が外資規制を緩和するたびに持ち分を積み増してきた。2019年には出資比率が51%を超え、経営権を事実上掌握した。大正製薬にとってDHGは東南アジア事業の中核拠点であり、OTC(一般用)医薬品やジェネリック薬の製造・販売ネットワークを活用する戦略的投資先である。
一方のSCICは、ベトナム政府が保有する国有企業株式を一元的に管理・運用する機関であり、ベトナム版「政府系ファンド」とも言える存在だ。SCICは長年にわたりDHG株を保有してきたが、政府の国有資本売却(ダイベストメント)方針の対象銘柄に含まれている。ただし、売却のタイミングや方法は度々先送りされてきた。この2社だけで94%超を保有しているため、一般投資家が購入できるフリーフロートが極めて限られ、流動性の低さがかねてより問題視されていた。
是正に向けた選択肢
DHG Pharmaは現在、2大株主との間で「公開会社要件への適合方案」を協議中であると発表している。考えられる選択肢は主に以下の通りである。
- SCICによる持ち分売却:SCICが保有する43.31%の一部を市場で売り出すことで、少数株主の比率を10%以上に引き上げる方法。政府のダイベストメント方針とも整合する。
- 大正製薬による一部売却:大正製薬が51%を超える部分を売却する案だが、経営権維持の観点から大幅な売却は想定しにくい。
- 新株発行による希薄化:第三者割当増資や公募増資を通じて、少数株主比率を引き上げる手法。ただし、既存株主の持ち分希薄化を伴うため合意が必要となる。
市場関係者の間では、最も現実的なシナリオとしてSCICの持ち分売却が有力視されている。SCICは政府方針としてDHG株の売却を予定しており、今回の規制上の要請がダイベストメントを加速させる契機になり得る。
好調な業績と手厚い配当—2025年実績と2026年計画
公開会社要件の問題がクローズアップされる一方で、DHG Pharmaの業績自体は堅調である。直近公表された2025年度の監査後純利益は8,520億ドンとなった。監査前の数値から約450億ドン減少したが、これは環境復元費用の追加計上およびグローバル・ミニマム税(国際的な最低税率ルール)への対応による追加課税が主因である。
監査後ベースでも、売上高は計画比101%、利益は計画比105%を達成。前年同期比では売上高が8%増、利益が9%増と着実な成長を記録している。
2026年度の事業計画としては、2026年4月21日にカントー市(ベトナム南部メコンデルタの中心都市、DHG本社所在地)で開催予定の年次株主総会で以下の目標が提案される。
- 売上高:5兆5,300億ドン(前年比5%増)
- 税引前利益:1兆70億ドン(前年比2%増)
配当方針も注目に値する。2025年度の配当は額面の100%を現金配当する方針で、総額約1兆3,070億ドンを2026年5月と9月の2回に分けて支払う予定だ。2024年度も同率100%の現金配当を実施しており、高配当銘柄としての安定感を示している。さらに2026年度については1株あたり7,000ドンの配当を予定しており、福利厚生基金として税引後利益の3%を積み立てる計画も明らかにされている。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のニュースは、複数の観点から重要な意味を持つ。
1. 上場維持リスクと流動性の問題
DHGは長年HOSEに上場してきた優良銘柄であるが、公開会社要件を満たさなければ上場廃止の可能性が現実味を帯びる。フリーフロートがわずか5.68%という状況は、機関投資家にとっても売買が困難であり、株価が実態の企業価値を適切に反映しにくい構造を生んでいる。是正策の内容と時期が、今後の株価を大きく左右するだろう。
2. SCICのダイベストメントとの連動
SCICによるDHG株売却が実現すれば、これはベトナム政府の国有資本民営化プロセスの進展を象徴するイベントとなる。DHGのような優良銘柄の放出は、外国人投資家を含む市場全体の流動性改善に寄与する。特に2026年9月に予定されるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げ判断を控え、フリーフロート比率の改善はベトナム市場全体の「格上げ対応力」を高める文脈でも重要である。FTSE格上げの際には一定のフリーフロートが組み入れ条件となるため、DHGのケースはその試金石と言える。
3. 日本企業のベトナム投資戦略への示唆
大正製薬のDHGへの過半数出資は、日本企業によるベトナム企業買収の成功例として語られることが多い。しかし今回の事態は、ベトナムの証券規制が外資の過度な集中保有に対して一定の制約を課すことを改めて示している。ベトナムで上場企業の経営権を取得しようとする日本企業にとって、証券法上の公開会社要件を常に意識する必要があるという教訓となる。
4. 高配当銘柄としての魅力
額面100%の現金配当を継続している点は、インカム重視の投資家にとって非常に魅力的である。ただし、上場廃止リスクが現実化すれば証券取引所を通じた売買ができなくなるため、流動性リスクとの天秤で判断する必要がある。2026年4月21日の株主総会での議論内容、特に是正方針の具体策が明らかになるまでは慎重な姿勢が求められるだろう。
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