ベトナム財務省が、電子商取引(EC)プラットフォーム上で商品を販売する個人事業主や世帯事業者に対し、プラットフォーム側が取引ごとに税金の源泉徴収・納付を代行している場合には、電子インボイス(ホアドン・ディエントゥー)の発行義務を免除するという新たな提案を打ち出した。急成長するベトナムのEC市場において、零細事業者の事務負担を大幅に軽減しつつ、税収の確保を両立させる狙いがある。
提案の具体的な内容
今回の提案は、ベトナム財務省が現在進めている税制・インボイス制度の改正作業の一環として示されたものである。骨子は明快で、EC プラットフォーム(いわゆる「サン・トゥオンマイ・ディエントゥー」)を通じて商品やサービスを販売する個人事業主(ホー・キンドアン)や個人が、以下の条件を満たす場合に電子インボイスの作成義務を負わないとするものだ。
その条件とは、プラットフォーム運営事業者が各取引ごとに売り手に代わって税額を源泉徴収(カウチュー)し、国庫に納付(ノップトゥエータイ)する仕組みが整備されていることである。つまり、Shopee(ショッピー)、Lazada(ラザダ)、TikTok Shop(ティックトックショップ)、Tiki(ティキ)といった大手ECプラットフォームが「税の徴収・納付代行」という役割を担うことで、個々の出店者がインボイスを発行する手間を省くという構図になる。
背景にあるベトナムEC市場の爆発的成長
ベトナムのEC市場は近年、東南アジア地域の中でも際立った成長率を示している。人口約1億人の若い消費者層、急速に普及するスマートフォン、そしてデジタル決済インフラの拡充が追い風となり、市場規模は年々拡大の一途をたどっている。
その一方で、ECプラットフォーム上で活動する売り手の大半は、個人事業主や小規模な世帯事業者である。こうした零細セラーにとって、取引ごとに電子インボイスを発行する義務は大きな事務的負担であり、デジタルリテラシーの面でもハードルが高かった。結果として、適正な納税が行われないケースや、制度そのものが形骸化するリスクが指摘されてきた。
ベトナム政府は2020年代に入って電子インボイスの全面導入を推進してきたが、EC分野における個人セラーへの対応は制度設計上の「穴」として残されていた。今回の財務省提案は、この課題に対する現実的な解決策といえる。
プラットフォーム課税という国際的潮流
プラットフォーム事業者に対して、出店者に代わる税の徴収・納付義務を課す動きは、ベトナムに限った話ではない。OECD(経済協力開発機構)が推進するデジタル経済への課税強化の流れの中で、欧州連合(EU)やオーストラリア、タイなどでも同様の制度が導入あるいは検討されている。
ベトナムにおいても、2022年に施行された改正税務管理法や関連する政令により、ECプラットフォームに対して出店者の取引情報を税務当局に報告する義務が段階的に強化されてきた。今回の提案は、その延長線上にあるものであり、プラットフォームを「事実上の徴税機関」として位置づけるという、より踏み込んだ一歩と評価できる。
日本企業・投資家への影響
日本企業にとって、この制度変更はいくつかの観点から注目に値する。まず、ベトナムのECプラットフォームに出店している日系企業や、越境EC(クロスボーダーEC)を展開する事業者にとっては、税務手続きの簡素化という恩恵を受ける可能性がある。特に、小規模な現地法人や個人ベースでベトナム市場に参入しているケースでは、インボイス発行の負担軽減は実務上のメリットが大きい。
一方で、プラットフォーム側に源泉徴収義務が課されることは、手数料体系の変更や新たなシステム対応コストにつながる可能性もある。Shopeeを運営するシンガポールのSea Group(シーグループ)や、Lazadaの親会社であるアリババグループなど、プラットフォーム運営企業の動向にも注意が必要だ。
また、ベトナム政府がデジタル経済の課税インフラを着実に整備しているという事実は、同国の制度的成熟度を示すものであり、長期的な投資環境の安定性を測る上でもプラスの材料と捉えることができるだろう。
今後の見通し
今回はあくまで財務省による「提案」の段階であり、今後、政府内での調整や関係省庁との協議、パブリックコメントの募集などを経て、正式な法令として公布されるまでにはなお一定の時間を要する見通しである。制度の詳細──たとえば、どの規模の取引から適用されるのか、プラットフォーム側の源泉徴収の具体的な税率や手続きはどうなるのか──については、今後の議論の行方を注視する必要がある。
ベトナムは「デジタル経済の課税」という世界共通の難題に対し、実務的かつ柔軟なアプローチで対応しようとしている。EC市場のさらなる成長と、公正な税負担の実現を両立できるかどうか、引き続き注目していきたい。
出典: VN Express
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