ベトナム政府が中小企業の育成を国家戦略の中核に据え、2030年までに国内企業数を200万社へ倍増させる野心的な目標に向けて動き出した。財務省は2026年から大規模な制度改革に着手し、中小企業を「二桁成長の原動力」へと押し上げる方針だ。ベトナム経済誌「VnEconomy」がグエン・ドゥック・タム財務副大臣に行ったインタビューから、その全容が明らかになった。
2025年、ベトナム中小企業が直面した「複合的な逆風」
タム副大臣によると、2025年のベトナム中小企業は内外からの複合的な圧力に直面した。世界的な消費需要の減退により輸出受注が減少する一方、原材料費、物流コスト、金融コストの上昇が利益率を圧迫。国際金融市場の不安定化、為替変動、金利上昇がキャッシュフローと資金調達能力にさらなる負担をかけた。この結果、少なからぬ企業が生産縮小や規模縮小、あるいは一時的な事業停止を余儀なくされた。
しかし、こうした厳しい状況下でも明るい兆しがある。大多数の企業は市場に踏みとどまり、事業継続と雇用維持に努めた。デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進や、国内外のサプライチェーンへの参入深化が進み、競争力と外部ショックへの耐性が着実に向上している。
党中央の決議が「起業ブーム」を後押し
特筆すべきは、2025年5月4日に共産党政治局が発出した「民間経済発展に関する第68号決議」の波及効果である。この決議は民間企業の地位向上と経営環境改善を明確に打ち出したもので、発出後、起業・創業への機運が急速に高まった。
具体的には、決議発出後、月平均で1万8,000社以上の新規企業が設立され、1万2,000社以上が事業を再開するという顕著な増加が見られた。民間セクターの登録資本金総額も大幅に改善し、2025年の追加登録資本金は6兆ドン(約6,000兆ドン)を超え、前年比71.6%増を記録。これにより、稼働中の企業数は100万社の大台を突破した。
タム副大臣は「これらの数字は、企業セクターの明確な回復だけでなく、ベトナム企業コミュニティの粘り強さと革新精神を示している」と評価した。
520万の「個人事業主」が鍵を握る──しかし転換は遅々として進まず
ベトナム政府は、520万以上存在する個人事業主(ホーキンドアン)を企業へ転換させることを、200万社体制達成の切り札と位置づけている。しかし実態として、この転換プロセスは極めて遅い。タム副大臣はその主な障壁を以下のように分析した。
第一に、税負担とコンプライアンス費用への懸念。企業化すれば透明性や専門性は高まるが、直接的な税負担増に加え、会計士の雇用、管理ソフトウェア、法務コンサルティングなどの間接費用も発生する。利益率の薄い個人事業主にとって「大きくなれば負担も増える」という心理的抵抗は根強い。
第二に、経営管理能力と法的知識の不足。多くの個人事業主は家族経営で、経験に頼った運営をしている。企業法、会計法、労働法といった複雑な法規制への対応は「手に余る」と感じられ、法的リスクへの恐怖が転換を躊躇させている。
第三に、転換後のメリットが不明確。企業化しても銀行融資や事業用地の確保は依然として困難で、市場拡大や新規パートナー獲得、バリューチェーン参入といった恩恵も即座には実感できない。短期的な利益が見えないことが、転換の動機を弱めている。
第四に、行政手続きの煩雑さ。時間と資源を割いて行政手続きや法令遵守に対応することは、多くの個人事業主にとって大きな機会費用であり、転換への魅力を減じている。
2026年、財務省が打ち出す「三本柱」の改革
こうした課題を踏まえ、財務省は2026年に以下の施策を重点的に推進する。
第一の柱:法的枠組みの整備。個人事業主の組織・管理、財務・会計制度、法令遵守に関する規定を全面的に見直し、個人事業主と企業の間のギャップを段階的に縮小する。2026年中に「中小企業支援法」の包括的な改正を完了させ、政治局の方針を法制度に落とし込む。
第二の柱:定額課税(トゥエコアン)の廃止とデジタル税務管理の高度化。2026年1月1日から個人事業主に対する定額課税を廃止し、IT基盤の整備・高度化を通じて税務管理の近代化を図る。これにより、事業規模の可視化と公平な課税を実現する。
第三の柱:転換インセンティブの拡充。2025年5月17日に国会が可決した「民間経済発展のための特別メカニズム・政策に関する決議第198号」に基づき、個人事業主が企業化した際の優遇措置を拡充する。具体的には、設立後初年度の法人所得税免除、営業許可手数料の廃止、信用アクセス支援、コンプライアンス費用の軽減などが含まれる。
さらに、各省庁、地方自治体、企業団体と連携し、広報活動、直接コンサルティング、個人事業主向けスキル研修を強化する。
「管理強化ではなく、発展空間の拡大」──財務省の基本姿勢
タム副大臣は、財務省の一貫した方針として「個人事業主の企業化は『より厳しく管理する』ためではなく、『より広い発展空間を開く』ためである」と強調した。企業になれば、資金、市場、技術、そして国の支援政策へのアクセスが格段に改善され、透明性、効率性、長期的な競争力が向上するとの見解を示した。
2025年の支援実績──約244.5兆ドンの大規模パッケージ
財務省は、企業の困難期を支えるため、財政緩和、税・手数料の減免・延長、信用拡大、投資・経営環境の改善といった各種政策を「セーフティネット」として機能させてきた。具体的には、税・手数料・土地賃借料の免除・減額・延長措置を相次いで提言・実施し、その支援総額は約244兆5,000億ドンに上る。これらの施策により、企業のコスト圧力は段階的に緩和され、流動性が改善、市場への信頼が徐々に回復してきている。
日本企業・投資家への示唆
ベトナムの中小企業セクターは、同国経済の「成長エンジン」としての役割を期待されている。2030年に向けた200万社体制の実現は、サプライチェーンの厚みを増し、日本企業にとっても調達先・協業先の選択肢が広がることを意味する。一方、個人事業主の企業化が進めば、取引相手の信用力やコンプライアンス水準が向上し、ビジネス上のリスク軽減にもつながる。財務省が掲げる制度改革と優遇措置の行方は、ベトナム進出を検討する日本企業にとって注視すべきテーマといえる。
出典:VnEconomy
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