ベトナム輸出企業の「通行証」――社会的責任とサイバーセキュリティの遵守が市場アクセスの必須条件に

Tuân thủ trách nhiệm xã hội và an ninh mạng: “Giấy thông hành” cho doanh nghiệp xuất khẩu

地政学リスクの高まりと技術的貿易障壁の強化が進むなか、ベトナムの輸出企業にとって、サプライチェーンにおける社会的責任(CSR)とサイバーセキュリティの遵守が、グローバル市場へアクセスするための事実上の「通行証」となりつつある。サプライヤー・コンプライアンス監査ネットワーク(SCAN)の専門家らは、これらはもはや「あれば望ましい」付加的要素ではなく、米国やEUといった主要市場でベトナム企業が地位を維持するための「必要条件」であると指摘している。

目次

記録的な輸出額の裏にある新たなプレッシャー

2025年、ベトナムの貿易総額は930.05億ドルという過去最高を記録し、うち輸出額は475.04億ドルに達した。最大の輸出先である米国向けは153.2億ドルに上る。日本企業にとっても、ベトナムは製造拠点・調達先として不可欠な存在であり、この数字はベトナム経済の底力を改めて示すものである。

しかし、この輸出の流れを維持するために、企業はかつてない規制上の圧力に直面している。大手輸入業者の調達に対する考え方が明確に変化しており、地政学的な不透明感と技術的障壁の強化がその背景にある。

ベトナム国家イノベーションセンター(NIC)のドー・ティエン・ティン副所長は、「ベトナム製品が主要市場に輸出されるためには、品質が良いだけでは不十分で、『誠実かつ透明』でなければならない」と述べた。具体的には、製品の品質だけでなく、その生産プロセスにおいて人権基準が守られ、強制労働や児童労働がなく、労働安全衛生が確保されていることが求められるという。

3月10日には、NICとSCANがベトナムで初めて共催した「サプライチェーンにおけるリスク・コンプライアンス・イノベーション」ワークショップが開催され、多数の関係者が参加した。

社会的責任の遵守――「自主的」から「義務的」へ

注目すべきは、社会的責任の遵守が、多くの国で自主的な取り組みから法的義務へと移行している点である。EUでは企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)が段階的に施行されつつあり、米国でもウイグル強制労働防止法(UFLPA)に基づく輸入差し止めが頻発している。サプライチェーンの透明性を証明できない企業は、国境での貨物差し止めリスクに直面し、財務的損失のみならずブランドの信用失墜という深刻な打撃を受けかねない。

こうした状況下で、SCANのようなネットワークへの参加が、ベトナム企業にとって戦略的な意味を持つ。SCANは、ウォルマート、ザ・ホーム・デポ、アマゾンといった巨大小売企業を含む63の会員企業で構成されるグローバル非営利団体で、会員企業の年間総売上高は2兆ドルに上る。同団体は「社会的コンプライアンス評価プログラム」を展開し、製造工場の監査を支援している。

このプログラムの大きな利点は、会員間で監査データを共有することで、サプライヤーが異なるバイヤーから繰り返し監査を受ける「監査疲れ(audit fatigue)」を軽減できる点にある。SCANの統計によれば、2025年にはこのプログラムにより会員企業が1,560万ドル以上の監査コストを削減し、検査プロセスの最適化を通じて数百トンのCO2排出削減にも貢献した。

サイバーセキュリティ――デジタル時代のサプライチェーン防衛

社会的コンプライアンスの評価・監査を迅速に進めるためには、会員間で共有されるデータのセキュリティが不可欠である。デジタル時代において、物流インフラや商業データを標的としたサイバー攻撃は、かつてない精巧さで増加している。海上輸送分野だけでも、2025年には世界規模で少なくとも32件の大規模サイバー攻撃が確認され、イタリアからナイジェリアに至る主要港湾の業務が混乱に陥った。

SCANのカルロス・E・オチョア最高経営責任者(CEO)は、「信頼こそがグローバル貿易における『通行証』だ」と強調する。その信頼を構築するためには、データが安全に保護され、関係者間で適切に共有される必要がある。SCANのサイバーセキュリティプログラムは、コンピューター、ネットワーク、データを不正アクセスや破壊から守るため、物理的・技術的・組織的な一連の保護措置を講じている。

具体的には、企業に対して明確な文書化されたセキュリティポリシーの策定、機密データを含む機器の定期的な棚卸しと廃棄(週次)、リモートワーク従業員向けのVPN使用、週次での暗号化バックアップなどが求められる。ライセンスのないソフトウェアの使用も、SCANおよび米国の輸入業者が厳格に管理する重大なリスク要因とされている。

ブロックチェーン技術で監査記録の改ざんを防止

監査記録の不変性を担保するうえで画期的なのが、SCANによるブロックチェーン技術の活用である。SCANのイノベーション・テクノロジー担当ディレクター、ダン・パートレル氏は、ブロックチェーンが分散型台帳を提供することで、データの信頼性と透明性を高め、不正な監査報告書の共有を効果的に防止できると強調した。

工場での評価結果はすべてイーサリアム(Ethereum)などのブロックチェーン上に記録され、輸入業者や規制当局がデータの真正性をほぼリアルタイムで検証できる仕組みとなっている。これは、米国税関・国境警備局(CBP)がSCANとの覚書(MOU)を締結し、CTPAT(税関・貿易パートナーシップ・テロ対策プログラム)のリスク審査にSCANの評価データベースへのアクセスを活用していることからも、その重要性がうかがえる。

ベトナム企業の対応状況と今後の課題

現時点では、SCANネットワークに参加しているベトナム企業はまだ多くない。しかし、SCANによるベトナムでの監査件数の割合は、2024年の10%から2025年には15%へと着実に増加しており、関心の高まりが数字に表れている。

主要輸出市場からの新たな規制が間もなく本格的に適用される見通しのなか、税関の専門家らはベトナム企業に対し、以下の3つのステップを主体的に実行するよう提言している。

第一に、包括的なデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進である。生産性向上だけでなく、ブロックチェーンを活用したデジタル「生産日誌」を構築し、労働力の出所や原材料の由来を改ざん不可能な形で証明できる体制を整えることが重要だ。

第二に、内部統制システムへの本格的な投資である。世界税関機構(WCO)のSAFE基準フレームワークの勧告や、ベトナムの改正税関法(法律第90/2025/QH15号)に準拠した管理体制の構築が求められる。

第三に、SCANのような国際的なコンプライアンスネットワークへの参加である。これにより、監査コストの削減と、ビジネスパートナーや各国税関当局からの信頼獲得という二重のメリットを享受できる。

WCOの認定事業者(AEO)プログラム専門家であるグエン・カイン・ホン氏は、「新たな貿易の時代において、コンプライアンスと透明性はもはやコスト負担ではなく、企業が自信を持って持続的に世界に進出するための最大の資産である」と締めくくった。

日本企業への示唆

この動きは、ベトナムに製造拠点を置く日本企業や、ベトナムからの調達を行うサプライチェーンにも直接的な影響を及ぼす。米国やEU向けに製品を輸出する場合、サプライヤーであるベトナム工場のCSRコンプライアンスやサイバーセキュリティ対策の水準が、日本企業自身の取引リスクに直結するためだ。特にEUのCSDDDは、EU域内で一定規模以上の売上を持つ企業に対し、サプライチェーン全体のデューデリジェンスを義務付けるものであり、ベトナムの下請け工場の状況も調査対象となり得る。日本企業としては、ベトナムの取引先がSCANなどの国際的な監査ネットワークに参加しているかどうかを確認し、必要に応じて参加を促すことが、リスク管理の一環として重要性を増していくだろう。

出典: VnEconomy

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