ベトナム最大の国有商業銀行であるアグリバンク(Agribank:ベトナム農業農村開発銀行)が、2025年も国内経済の「資金の大黒柱」としての役割を果たしている。総資産は268兆ドン(約1兆6,000億円超)を突破し、農業・農村分野への融資比率は全体の64%に達した。世界経済の不透明感が増す中、同行は中小企業や農家への低金利融資を拡大し、社会保障政策との連携も強化。ベトナム政府が掲げる「包摂的で持続可能な成長」を金融面から下支えする構図が鮮明になっている。
2025年のベトナム経済と銀行セクターの役割
2025年、世界経済は保護主義の台頭や貿易回復の遅れ、潜在的な金融リスクといった不安定要因を抱えている。ベトナム国内ではGDP成長率が8%超と堅調な伸びを示し、インフレ率も4%前後に抑えられているものの、企業は原材料コストの上昇や長期・低利の資金調達難に直面している。
こうした状況下で、公共投資の拡大や外国直接投資(FDI)の誘致だけに頼るのではなく、国内の信用供与が製造業や中小企業、農家を支える「緩衝材」となることが求められている。銀行には単なる融資量の拡大ではなく、「適切な相手に、適切なタイミングで、適切なコストで」資金を届ける質の高い金融仲介機能が期待されているのである。
アグリバンクの財務基盤──安定した預金と低金利融資
アグリバンクは1988年の設立以来、農業・農村開発を主軸とする国有銀行として約40年の歴史を持つ。2025年末時点で総資産は268兆ドン超(前年比20%以上増)、市場からの調達資金は230兆ドン(同13.4%増)に達し、ベトナム国家銀行(中央銀行)が設定した目標を上回った。
特筆すべきは、個人預金が約179兆ドンと総資金源の85%を占める点である。これは国民や企業からの高い信頼の表れであり、安定した流動性の基盤となっている。同行は資金調達コストの管理と柔軟な金利運営により、2025年の平均貸出金利を年初比で約1%引き下げ、市場でも最低水準のグループに位置づけられている。低金利環境は、企業や個人が生産・事業活動を拡大する余地を生み出している。
融資の内訳──農業・農村に64%、個人・中小向けが75%
2025年末の総融資残高は約200兆ドンに迫り、前年比15%近い増加となった。注目すべきはその配分である。農業・農村向け融資は126兆ドン超で全体の64%を占め、「三農(農業・農村・農民)」向け比率はベトナム銀行界で最高水準だ。
また、個人・個人事業主・中小企業向け融資は約148兆ドンと全体の75%に達し、「金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)」の推進役を担っている。これはベトナム政府が目指す「住民層からの持続的成長」を金融面で体現するものといえる。
政策融資と優遇融資──社会保障の柱として
商業融資に加え、アグリバンクは国家の社会政策を担う「政策融資」でも中核的役割を果たしている。現在、同行は新農村建設、持続的貧困削減、少数民族・山岳地域の経済社会発展といった7つの国家目標プログラムに連動した政策融資を実施中だ。
とりわけ新農村建設向け融資は2025年末で約74.6兆ドンに達し、約200万人の顧客を支援している。さらに、社会住宅、貧困県支援、水産業振興、工芸作物の植え替えなど多岐にわたるプログラムを展開。地域間格差の是正と社会保障の強化に貢献している。
優遇融資では、製造・加工・輸出・中小企業向けに総額40兆ドン超の大型パッケージを提供。政府主導の50兆ドン優遇融資プログラムにも積極的に参加し、インフラ投資、デジタル転換、グリーン経済といった新たな成長エンジンへの資金供給を担っている。
災害対応──台風被災地への緊急支援
2025年はベトナム各地で台風12号・13号による甚大な被害が発生した。アグリバンクは被災顧客に対し、返済期限の繰り延べ、復旧資金の新規融資、最大年2%の金利引き下げ、利息・手数料の減免といった緊急措置を迅速に講じた。
社会貢献活動としても、年間約700億ドンの支援総額のうち約100億ドンを災害復旧に充当。金融機関としての「同伴者」姿勢を明確に示した。
日本企業・投資家への示唆
アグリバンクの動向は、日本企業にとって複数の示唆を含む。第一に、ベトナムの農業・農村市場は依然として成長余地が大きく、現地パートナーとしての国有銀行の存在感が増している点だ。農業機械、食品加工、コールドチェーンなどの分野で進出を検討する企業にとって、アグリバンクとの協調融資やサプライヤー金融の活用は有力な選択肢となり得る。
第二に、ベトナム政府の政策金融が中小企業・農家支援に重点を置いている点は、ESG(環境・社会・ガバナンス)やインパクト投資を重視する日本の機関投資家にとって、ベトナム金融セクターへの関心を高める材料となるだろう。
第三に、災害対応力の高さは、サプライチェーンの一部をベトナムに置く日系製造業にとってもリスク管理上のプラス要因である。
まとめ
アグリバンクは2025年、規模・質の両面で「持続可能な資金供給者」としての役割を一段と強化した。農業・農村への重点配分、中小企業・個人への金融包摂、政策融資による社会保障、災害時の迅速対応──これらはベトナムが目指す「包摂的かつ持続可能な成長」を金融面から支える構造を示している。約40年にわたりベトナム経済と歩んできたアグリバンクは、今後も国の長期発展を下支えする「金融の要」であり続けるだろう。
いかがでしたでしょうか。今回のベトナム国有銀行の動向について、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
【noteメンバーシップのご案内】
より詳細なベトナムの経済ニュース解説や企業の投資分析、現地からのリアルタイム情報をお求めの方は、ぜひメンバーシップへのご参加をご検討ください。
https://note.com/gonviet/membership
出典: Vn Economy












コメント