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2025年6月8日、ベトナム国内の金価格が1日でおよそ700万ドン(1ルオン=約37.5グラムあたり)もの急落を記録した。世界市場における金の調整局面と、ベトナム国内での売り圧力が同時に重なった結果であり、金投資を行う個人投資家にとっては衝撃的な一日となった。ベトナムでは金が伝統的に「最も信頼できる資産」として根強い人気を誇るだけに、今回の急落は市場全体に波紋を広げている。
何が起きたのか──1日700万ドンの下落の詳細
専門家によれば、6月8日のベトナム国内金価格は1ルオンあたり最大で700万ドンの下落を記録した。この下落幅は、直近数カ月間で最も大きなものの一つである。背景には二つの要因が指摘されている。第一に、国際金市場における価格調整の動きである。世界の金相場は2025年に入って歴史的な高値圏で推移してきたが、米国の経済指標や米連邦準備理事会(FRB)の金融政策見通しに対する市場の思惑の変化が、利益確定売りを誘発した。第二に、ベトナム国内市場特有の売り圧力である。国内金価格は長期にわたって国際価格に対してプレミアム(上乗せ分)が付いた状態が続いていたが、そのプレミアムの縮小観測が広がり、保有者による売りが加速した。
ベトナムの金市場の構造的特徴
ベトナムの金市場を理解するには、いくつかの特殊事情を押さえておく必要がある。まず、ベトナムでは金が単なる投資商品ではなく、文化的・社会的に深く根付いた「資産保全手段」である。結婚式の持参金、不動産取引の一部決済、さらには銀行預金に代わる貯蓄手段として、一般家庭が金の現物を保有する習慣が今なお強く残っている。
また、ベトナム政府は金の輸入を厳しく管理しており、ベトナム国家銀行(中央銀行)が金地金の輸入ライセンスを独占的にコントロールしている。この結果、国内の金供給が制限され、国際価格に対して国内価格が大幅なプレミアムを維持するという構造が長年にわたって形成されてきた。ピーク時には国際価格との乖離が1ルオンあたり1,500万〜2,000万ドンに達したこともある。
2024年後半から2025年にかけて、ベトナム国家銀行は国内外の金価格差を縮小するために金の入札販売を複数回実施するなどの対策を講じてきた。こうした政策的な動きもまた、国内プレミアムの縮小期待を通じて、今回の急落の背景要因となっている。
世界の金市場で何が起きているのか
国際的な金相場は、2024年後半から2025年にかけて急騰を続けてきた。地政学リスクの高まり(中東情勢、ロシア・ウクライナ紛争の長期化)、各国中央銀行による金準備の積み増し、そして世界的なインフレ懸念が金の買い材料となっていた。しかし、2025年半ばに入ると、米国経済の底堅さを示すデータが相次ぎ、FRBの利下げペースが市場の期待ほど速くないとの見方が強まった。金利が高止まりすれば、利息のつかない金の保有コストは相対的に上昇するため、短期的な調整圧力が高まったのである。
さらに、米ドルの堅調な推移も金価格にとっては逆風となった。金はドル建てで取引されるため、ドル高は新興国の投資家にとって金の割高感を増幅させる。ベトナムドンは米ドルに対して緩やかな減価傾向にあり、為替要因も国内金価格の変動を複雑にしている。
ベトナム国内投資家の心理と行動
ベトナムでは、金価格が急騰する局面では「乗り遅れまい」とする個人投資家の買いが殺到し、逆に急落する局面ではパニック的な売りが出やすいという特徴がある。今回も、700万ドンという急落幅が報道されるや否や、ホーチミン市やハノイ市の主要な金販売店には売却希望者が詰めかけた。SJC(サイゴン・ジュエリー・カンパニー、ベトナム最大の金ブランド)の店舗前に長蛇の列ができる光景は、ベトナムの金市場ではしばしば見られる風物詩でもある。
一方で、下落局面を「押し目買い」のチャンスと捉える投資家も存在する。ベトナムの富裕層や法人投資家の中には、中長期的な資産保全の観点から、国際価格との乖離が縮小したタイミングで金を買い増す動きもある。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の金価格急落は、ベトナム株式市場にも間接的な影響を及ぼす可能性がある。ベトナムでは個人投資家の多くが株式と金の両方に資金を配分しており、金市場からの資金流出が株式市場への資金流入につながるケースがある。逆に、金価格急落で含み損を抱えた投資家が、損失補填のために株式ポジションを縮小するリスクも否定できない。
ベトナム株式市場のVN指数にとって、2026年9月に予定されるFTSE新興市場指数への格上げ判定は最大の注目イベントである。格上げが実現すれば、海外機関投資家からの大規模な資金流入が見込まれるが、国内投資家の投資マインドが金市場の乱高下によって冷え込む場合、短期的には株式市場のボラティリティを高める要因にもなり得る。
日本企業やベトナム進出企業にとっては、金価格の急変動はベトナムドンの為替レートや消費者心理に影響するため、間接的なリスク要因として注視すべきである。特に、ベトナムの不動産市場では金建て取引が一部で残っているため、金価格の急変は不動産セクターの価格形成にも波及する可能性がある。
中長期的に見れば、ベトナム政府が金市場の透明性向上と国内外価格差の縮小に取り組んでいることは、金融市場の近代化という観点からポジティブに評価できる。金市場が安定すれば、個人投資家の資金がより生産的な投資先(株式・債券・投資信託など)へ流れやすくなり、ベトナム資本市場全体の成熟につながるだろう。
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