ベトナム銀行セクターに構造的リスク——預金と貸出の期間ミスマッチが年33%拡大、システム安定性に警鐘

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ベトナムの上場銀行27行の2019年〜2025年のデータが示す構造的な問題が、改めて専門家の間で警鐘を鳴らしている。預金の大半が12カ月未満の短期資金である一方、貸出は中長期に集中するという「期間ミスマッチ(レッチファー=lệch pha kỳ hạn)」が年々深刻化しており、2025年にはその不足額が前年比33.3%も拡大した。ベトナム経済専門誌『ベトナム経済タイムズ(Tạp chí Kinh tế Việt Nam)』2026年3月23日発行号が詳報した。

目次

信用成長が預金吸収を恒常的に上回る構図

同誌が分析した上場銀行27行のデータによると、特に2021年〜2024年にかけて、信用(貸出)の伸び率が預金(資金吸収)の伸び率を毎年4〜5.5ポイント上回る状況が続いてきた。銀行システムは、経済全体の資金需要に応えるために流動性の維持に腐心してきたのが実態である。2026年に入っても、この状態は大きく改善しておらず、とりわけ2桁成長を掲げる政府の経済目標のもとでは、システムの安全性を見通すことが一段と困難になっていると記事は指摘する。

ベトナム政府は2025年・2026年ともにGDP成長率8%以上、さらには2桁成長を視野に入れた積極的な経済運営を推進しており、インフラ投資や製造業誘致を加速させている。その結果、企業や個人の中長期資金需要が急速に高まっているが、銀行の資金調達構造はそれに追いついていないのが現状である。

短期預金85〜88.5%に対し、中長期貸出が急膨張

問題の核心は、資金調達と資金運用の「期間のズレ」にある。ベトナムの銀行セクターでは、預金全体に占める12カ月未満の短期預金の割合が常時85%〜88.5%を占めている。ベトナムの個人預金者は金利動向に敏感で、短期の定期預金を繰り返し更新する傾向が強い。これは文化的・制度的な特性であり、長期預金商品の普及が進みにくい背景がある。

一方、貸出サイドでは中期(1年超〜5年)および長期(5年超)の融資が年々拡大している。具体的には以下の通りである。

  • 中期信用の伸び率:2023年に29.11%増、2025年に26.13%増
  • 長期信用の伸び率:2023年は5.62%増にとどまったが、2024年に18.31%増、2025年には26.85%増と急回復

これらの数字は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック後の経済回復局面において、設備投資や不動産開発、インフラ整備などを中心に中長期の投資資金需要が顕著に増大していることを如実に示している。

中長期資金の不足額が年33.3%拡大——構造的問題の深刻化

ベトナムの銀行は、規制の範囲内で「期間変換(chuyển hóa kỳ hạn)」を行っている。すなわち、短期預金の一部を中長期貸出に充当し、不足分は債券(giấy tờ có giá)の発行や自己資本で補填する仕組みである。ベトナム国家銀行(中央銀行)は、短期資金で中長期貸出に充てられる比率の上限を段階的に引き下げてきたが、それでも実質的な依存度は高い。

問題は、中長期の貸出が急拡大する一方で、長期預金の増加ペースが鈍く、規模も限定的である点にある。その結果、中長期資金の構造的な不足額は毎年拡大を続けており、2025年にはその不足幅が前年比33.3%も増加するという深刻な事態に至っている。

記事はこの状況を「構造的な問題(vấn đề mang tính cấu trúc)」と断じている。つまり、一時的な景気循環の問題ではなく、ベトナム経済が銀行信用、とりわけ中長期の銀行融資に過度に依存している構造そのものがリスクの根源であるということだ。

ショック時の「増幅リスク」に警告

記事が最も強い警告を発しているのは、今後の展望についてである。資金源と資金使途の期間ミスマッチがこのまま長期化し、さらに今後数年間で長期投資プロジェクト向けの資金需要が一段と高まった場合、リスクは単に蓄積するだけでなく、金利変動や流動性逼迫の局面で「増幅(khuếch đại)」される可能性があるという。

具体的に想定されるシナリオとしては、以下のようなケースが考えられる。

  • 金利急騰局面:短期預金の金利が急上昇すると、銀行は資金調達コストが一気に跳ね上がる一方、中長期の固定金利貸出からの収益は変わらず、利ざやが圧縮される。
  • 預金流出(取り付け)リスク:何らかの外的ショック(地政学的リスク、為替急落、大手企業の債務不履行など)が発生した場合、短期預金は容易に引き出されるが、貸出資産は中長期で固定されているため、流動性危機に直結しうる。
  • 規制強化の影響:国家銀行が短期→中長期の期間変換比率をさらに引き下げた場合、銀行は貸出を絞らざるを得ず、経済全体の資金供給が急減速するリスクがある。

記事は「たった一つのショックでも、システムの安定性に重大な圧力をかけうる」と結んでおり、楽観的な経済成長シナリオの裏に潜む脆弱性を強く印象づけている。

投資家・ビジネス視点の考察

■ ベトナム銀行株への影響

ベトナム株式市場(VN-Index)において銀行セクターは時価総額の約3割を占める最大セクターである。ヴィエトコムバンク(VCB)、ビッドブイ銀行(BID)、ヴィエティンバンク(CTG)、テクコムバンク(TCB)、MBバンク(MBB)、VPバンク(VPB)といった主要銘柄は、国内外の機関投資家のポートフォリオの中核を成している。今回の分析が示す期間ミスマッチの拡大は、中長期的な銀行セクターの信用リスクプレミアムを押し上げる要因となりうる。特に、中長期貸出比率が高い銀行ほどリスクが大きいと見るべきであり、個別銘柄の貸出ポートフォリオ構成を精査する必要がある。

■ FTSE新興市場指数への格上げとの関連

ベトナムは2026年9月にもFTSE新興市場指数への格上げが決定される見込みであり、実現すれば海外からの大規模な資金流入が期待される。しかし、銀行セクターの構造的リスクが顕在化すれば、格上げ後の資金流入効果を打ち消しかねない。グローバル投資家は金融システムの健全性を重視するため、期間ミスマッチの改善に向けた制度的対応(長期債券市場の育成、証券化市場の整備、預金保険制度の強化など)の進展が注視される。

■ 日本企業・ベトナム進出企業への示唆

ベトナムに製造拠点や事業を展開する日本企業にとって、現地での中長期の設備投資資金をベトナム国内銀行から調達する際のリスクを再認識すべきである。金利の急変動や銀行の貸出姿勢の変化(貸し渋り)が起きた場合、事業計画に影響が出る可能性がある。邦銀のベトナム現地法人や国際金融機関からの調達、あるいは本社からの親子ローンなど、資金調達先の分散を検討する意義は大きい。

■ ベトナム経済全体のトレンドにおける位置づけ

今回の問題は、ベトナム経済が「銀行主導型」の金融構造から脱却しきれていないことの象徴でもある。株式市場や社債市場など直接金融の比率を高め、銀行への過度な依存を軽減することが中長期的な課題として改めて浮き彫りになった。2022年のヴァンティンファット・グループ(Vạn Thịnh Phát)社債不正事件以降、社債市場の信頼回復は道半ばであり、資本市場の多層化は依然として重要な政策課題である。


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出典: Tạp chí Kinh tế Việt Nam(ベトナム経済タイムズ)

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