ベトナム最大の経済都市ホーチミン市が、2026年から2030年にかけての成長戦略として「7つの戦略的重点産業」を打ち出した。従来型産業への依存から脱却し、国際金融、デジタル経済、半導体、次世代ロジスティクスなど高付加価値分野への転換を図る。周辺地域との統合により「超巨大都市(メガシティ)」へと変貌を遂げつつある同市が、過密化という課題を抱えながらいかにして飛躍を遂げるのか。専門家らの見解をもとに詳報する。
サービス経済への転換が進むホーチミン市の現状
先日開催されたオンラインセミナー「高成長産業の見極めと企業のビジネスチャンス」において、フルブライト公共政策管理大学院のドー・ティエン・アイン・トゥアン氏は、ホーチミン市の経済構造について興味深い分析を披露した。同氏によれば、周辺地域との統合を経て、同市はサービス業が域内総生産(GRDP)の60〜65%を占める典型的なサービス経済へと変貌している。
特筆すべきは、立地係数(LQ:Location Quotient)で示される競争優位性である。運輸部門のLQは1.66と極めて高く、戦略的な強みを持つことが数字で裏付けられている。商業分野は全国の約4分の1の規模を占め、LQは1.3を記録。また、統合後の工業部門はGRDP比36%超まで回復し、全国平均の34%をやや上回る水準にある。
ホーチミン市発展研究院のチュオン・トゥエット・ハー副部長は、2025年のGRDP成長率が約8.3%に達する見込みであると補足した。中でも宿泊業が12.5%、運輸業が11.44%と二桁成長を遂げ、サービス部門を牽引している状況だ。
2026〜2030年を見据えた「7つの戦略的重点産業」
トゥアン氏は、同市が今後活用すべき5つの国際的な成長ドライバーとして、①デジタルトランスフォーメーション(AI)、②グローバルサプライチェーンの再編、③グリーン成長(ESG)、④人口高齢化、⑤サービス部門の急成長を挙げた。これらを踏まえ、企業が注目すべき7つの重点産業を以下のように整理している。
第1:金融・銀行・フィンテック
2025年に開業したばかりのベトナム国際金融センター(VIFC)を核として、世界トップクラスの金融機関の誘致を目指す。VIFCはホーチミン市1区のトゥーティエム地区に位置し、東南アジアにおける新たな金融ハブとしての役割が期待されている。
第2:デジタル経済
2030年までにGRDPの40%をデジタル経済が占めることを目標に掲げる。AI、ビッグデータ、行政・企業のデジタル化、電子商取引(Eコマース)が主な推進力となる。特にデータセンター、クラウドコンピューティング、サイバーセキュリティ分野の成長が著しい。なお、クチ県(ホーチミン市北西部)で計画中のデータセンターは約2,500MWの電力を必要とするとされ、デジタルインフラとクリーンエネルギーへの大規模投資が不可欠となる。
第3:半導体・次世代エレクトロニクス
ベトナム政府が半導体を国家戦略産業に位置付ける中、ホーチミン市はその先頭に立つ構えだ。2030年までに大卒以上の半導体人材3万9,000人の育成を目標とし、ATP(組立・検査・パッケージング)、チップ設計、スマートエレクトロニクス、IoT分野に注力する。
第4:ハイテク製造・バイオテクノロジー
サイゴンハイテクパーク(SHTP)を拠点に、ハイテク産業への転換と脱炭素化を推進する。オートメーション、ロボティクス、新素材、環境技術、サーキュラーエコノミー(循環型経済)が有望分野として挙げられている。
第5:ロジスティクス・港湾
バリア=ブンタウ省に位置するカイメップ=ティバイ港を「スーパーポート」化し、計画中のカンザー国際トランシップ港、カイメップハ自由貿易区(FTZ)と連携させる構想がある。この物流ネットワークは、2026年開港予定のロンタイン国際空港や周辺工業団地・都市圏との接続が鍵となる。
第6:高付加価値サービス・文化産業・デジタルコンテンツ
エンターテインメント、クリエイティブ産業、デジタルコンテンツ制作など、ソフトパワーを活かした産業育成を目指す。
第7:都市観光・高品質医療
メディカルツーリズム(医療観光)や高度医療サービスの提供を通じて、周辺国からの需要を取り込む狙いがある。
「超巨大都市」ゆえの構造的課題
一方で、成長への道のりには数多くの障壁が立ちはだかっている。グローバルAAA コンサルティングのレ・フン・ハオ会長は、ホーチミン市の経済圏が2025年に全国GDPの23.11%を占める「経済の機関車」である一方、超巨大都市化に伴う新たな課題に直面していると指摘する。
まず挙げられるのが「制度のねじれ」問題だ。周辺省との統合に伴い、新旧の規制が混在し、法的な障壁が生じている。次にインフラの過負荷である。国道51号線やホーチミン市〜ロンタイン高速道路といった主要幹線の慢性的な渋滞により、物流コストは依然として高止まりしている。
人材獲得競争も深刻だ。インテルやサムスンといった「巨大な鷲」(国際大手企業を指すベトナムの表現)が進出する中、中小企業が優秀な人材を確保することは容易ではない。さらに、EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)やESG対応といった「グリーン転換の壁」に適応できなければ、グローバルサプライチェーンから排除されるリスクも高まっている。
ハー副部長も、人口増加と貨物量の急増によるインフラ過負荷への懸念を表明した。カットライ港、ヒエップフック港、フーフー港といった主要港湾へのアクセス道路では頻繁に渋滞が発生しており、カンザー国際トランシップ港やカイメップ=ティバイ自由貿易区が稼働を開始すれば、環境負荷や温室効果ガス排出の問題も深刻化する恐れがある。
日本企業・投資家への示唆
今回の戦略は、ベトナム進出を検討する日本企業にとって重要な指針となる。特に半導体関連の人材育成目標や、ロンタイン国際空港・カンザー港を軸とした物流網の整備計画は、製造業のサプライチェーン再編を進める日系企業にとって大きなビジネスチャンスとなりうる。
ただし、インフラ整備の遅れや制度的な不透明さといったリスク要因も無視できない。専門家らは、2026年は機会と課題が交錯する年になると口をそろえる。ホーチミン市に与えられた特別な政策的権限、VIFCを核とした国際金融センター構想、そして進行中のインフラ整備が、同市の潜在力を最大限に引き出すための「てこ」になると期待されている。
出典:Viện Sáng kiến Việt Nam(ベトナムイニシアチブ研究所)
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