富裕層ビジネスマンが「移住権」をリスク管理戦略に活用——グローバルな不確実性時代のベトナム新潮流

Quyền di trú trong chiến lược quản trị rủi ro của doanh nhân

世界的な地政学的リスクや経済の不確実性が高まる中、ベトナムの富裕層ビジネスマンたちが「移住権(居住権・市民権)」を単なるライフスタイルの選択肢としてではなく、経営上の「リスクヘッジ手段」として積極的に活用し始めている。国際的な移動の自由を確保し、ビジネスの拡大と個人資産の保全を同時に図るこの戦略は、ベトナムの新興富裕層の間で急速に広まりつつある。

目次

移住権をビジネスツールとして捉える新しい視点

かつて「移住権」といえば、海外移住や永住を希望する個人が取得するものというイメージが強かった。しかし今日のベトナムのビジネス界では、その概念が大きく変わりつつある。多くの経営者が移住権を「国際的な移動能力の向上」「ビジネス活動の地理的拡張」「グローバルな変動に対するリスク低減」という三つの戦略的機能を持つツールとして位置づけるようになっている。

ベトナムは近年、経済成長が著しく、ドイモイ(刷新)政策以降、民間企業の台頭とともに富裕層ビジネスマンが急増した。ビングループ(ベトナム最大手のコングロマリット)やマサングループ(食品・小売・金融の複合企業)を筆頭に、ベトナム発のグローバル企業が次々と誕生している。こうした企業を経営するオーナーたちが、経営リスクの多角化という観点から移住権取得に着目するのは自然な流れとも言える。

なぜ今「移住権」なのか——グローバルリスクの高まりが背景に

2020年代に入り、世界は複数の構造的変化に直面している。新型コロナウイルスのパンデミックによる国境封鎖は、パスポートの「移動力(モビリティ)」の差が実際のビジネス継続性に直結することを多くの経営者に痛感させた。ベトナムのパスポートは、ヘンリー・パスポート・インデックスなどの国際ランキングでアジアの中では中位程度に位置しており、先進国のパスポートと比較してビザなし渡航可能国数に差がある。

さらに、米中貿易摩擦の激化、ロシア・ウクライナ紛争、中東情勢の不安定化など、地政学的リスクが連鎖的に発生している。これらのリスクは特定の地域や国に資産・拠点を集中させることの危険性を改めて浮き彫りにした。ベトナム国内では、反汚職キャンペーン(いわゆる「炎の炉」作戦)の影響で、不動産業界や金融業界の大物経営者が相次いで摘発・逮捕されたことも、富裕層の間に「国内一極集中」へのリスク意識を高める一因となっている。

こうした複合的な要因が重なり、海外移住権を保有することで「いざとなれば移動できる」という選択肢を手元に置いておく戦略が、ベトナムの経営者層に急速に浸透しているのだ。

主要な移住権取得先——投資移民プログラムが人気

ベトナムの富裕層ビジネスマンが注目する移住権取得先として、いくつかの国・地域が特に人気を集めている。

ポルトガル・ゴールデンビザ(欧州):EU圏内の移動の自由を手に入れられるため、欧州でのビジネス展開を考える経営者に人気が高かった。ただし、ポルトガルは2023年以降、不動産投資によるゴールデンビザの新規申請を廃止しており、現在は代替投資手段(ファンド投資など)に移行している。

マルタ・キプロス(地中海諸国):EU市民権または永住権を取得できるプログラムが整備されており、税制上の優遇措置も魅力の一つとなっている。

シンガポール・グローバル・インベスター・プログラム(GIP):ベトナムとの地理的・文化的近接性、そしてアジアのビジネスハブとしての地位から、特に人気が高い。シンガポールは東南アジア全域へのアクセスの良さでも知られており、ベトナム人ビジネスマンにとって「第二の拠点」として最も現実的な選択肢の一つだ。

米国EB-5投資家ビザ:米国での事業展開や子どもの教育を視野に入れる富裕層に根強い人気がある。最低投資額は地域によって異なるが、高額な投資が必要となる。

カリブ海諸国(セントキッツ・ネービス、グレナダなど):比較的低コストで市民権を取得でき、かつ多くの国にビザなし渡航が可能な「コスパの高い」選択肢として注目されている。グレナダの市民権はとりわけ米国のEビザ申請資格を得られる点でベトナム人投資家に人気がある。

移住権取得がもたらす具体的なメリット

ベトナムの経営者たちが移住権取得に求める具体的なメリットは多岐にわたる。

第一に、国際的な移動の自由だ。ビジネスにおいて、取引先との迅速な対面交渉や現地視察は依然として重要であり、ビザ取得の手間や待ち時間を省けることは大きな競争優位となる。特にコロナ禍での経験は、移動の自由がいかに経営に直結するかを経営者たちに強烈に印象づけた。

第二に、資産の国際分散だ。海外に合法的な拠点を持つことで、資産をドル建て・ユーロ建てなど複数通貨で保有・運用することが容易になる。ベトナムドンの対外価値は歴史的に緩やかな下落傾向にあり、外貨建て資産の保有は長期的なインフレ・通貨リスクへの備えともなる。

第三に、子どもの教育機会の確保だ。欧米や先進国の永住権・市民権を持つことで、子息・子女が現地の公立大学に国内生として(留学生より低い学費で)進学できる機会が開ける。教育への投資はベトナムの富裕層にとって最優先事項の一つであり、これが移住権取得の強力な動機となっている。

第四に、ビジネス環境の多様化だ。シンガポールやEU圏に法人を設立することで、国際的な与信力の向上や、より幅広い顧客・パートナーへのアクセスが可能となる。

ベトナム国内の法的・制度的背景

ベトナムは現在、二重国籍を原則として認めていない。ベトナム国籍法(2008年)に基づき、ベトナム人が外国籍を取得する場合は原則としてベトナム国籍を喪失することになる。ただし、例外的に二重国籍が認められるケースも存在し、海外在住のベトナム人(ベトキエウ)向けの特別規定もある。

こうした法的制約の中でも、多くのビジネスマンは「市民権取得」ではなく「永住権(グリーンカードなど)」の取得という形でこの問題を回避している。永住権はあくまで居住権であり、国籍変更を伴わないため、ベトナム国籍を保持したまま海外での居住・移動の自由を享受できる点が重宝されている。

移住権ビジネス——コンサルティング産業の台頭

こうした需要の高まりを背景に、ベトナム国内では移住権取得を専門に支援するコンサルティング企業が急増している。ホーチミン市やハノイを中心に、海外不動産投資と移住権取得をパッケージで提供するサービスが盛況だ。欧米系の移民コンサルタント企業もベトナム市場への参入を加速させており、富裕層向けの説明会やセミナーが定期的に開催されている。

この産業の成長は、ベトナムの富裕層人口の拡大と軌を一にしている。ナイト・フランクの「ウェルス・レポート」によれば、ベトナムの超富裕層(純資産3,000万ドル以上)の数は過去10年で顕著な増加を示しており、今後もその傾向は続くと予測されている。

考察——ベトナム社会と日本企業への示唆

この現象は、ベトナム社会の成熟と複雑化を象徴している。かつてのベトナムにおける「移住」は、戦争や貧困からの脱出という文脈で語られることが多かった。しかし現在の移住権取得ブームは、まったく逆の文脈——成功した経営者が、さらなる発展と安全のために戦略的に移動の選択肢を広げる——という現象だ。これはベトナムが「移民を送り出す国」から「グローバルに展開する富裕層を生み出す国」へと変貌を遂げつつあることを示している。

日本企業にとっても、この潮流は示唆に富む。ベトナムの有力な取引先・投資パートナーが複数の国に拠点を持つようになることで、ビジネスの交渉窓口や資金の流れが多様化・複雑化する可能性がある。また、シンガポールや欧米に拠点を移したベトナム人経営者が、日本企業にとって新たな投資・協業の仲介役となるケースも今後増えるだろう。

一方で、ベトナム政府にとっては、優秀な人材や資本の国外流出(キャピタルフライト)という側面もあり、今後の政策対応が注目される。反汚職キャンペーンで生まれたビジネス環境への不確実性を緩和し、国内投資の魅力を高める取り組みが一層重要になってくるだろう。

出典: VnExpress


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