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米国とイランの軍事衝突が引き起こしたエネルギー危機を背景に、中国の輸出企業が世界市場でシェアを拡大しつつある。その影響はベトナムをはじめとする東南アジアの製造業に直撃しており、欧米企業が進めてきた「China+1(チャイナ・プラスワン)」戦略が逆転する兆候も出始めている。英フィナンシャル・タイムズ紙が報じた。
エネルギー危機が生んだ中国の構造的優位
米イラン戦争の勃発により、中東からの原油・天然ガス供給が大幅に混乱し、世界的にエネルギー価格が高騰している。しかし中国は、豊富な国内エネルギー資源と大規模な戦略石油備蓄を持つため、他国と比べて影響が限定的である。HSBC(香港上海銀行)のアジア地域チーフエコノミスト、フレッド・ノイマン氏は「エネルギーショックにより、中国の輸出品が世界市場でさらにシェアを獲得する可能性がある」と指摘する。
シティバンクの分析によると、中国のエネルギー消費のうち湾岸地域からの輸入に依存する割合はわずか約6%にとどまる。戦争開始から約1カ月が経過した時点で、中国の製造業は危機に対して比較的良好に持ちこたえているという。同行エコノミストのシャンロン・ユー氏は「全面的な長期石油危機にならない限り、中国の供給面での安定性は輸出シェアの拡大を可能にする。2020年のコロナショック時に見られたのと同様のダイナミクスだ」と述べた。
注文急増と「China+1」戦略の逆転
注目すべきは、中国沿海部の工業地帯の輸出企業が、海外顧客からの受注増加を報告している点である。背景にあるのは、ベトナム、タイ、インドネシアなど東南アジア諸国が中東産原油への依存度が高く、サプライチェーンの回復力に懸念が生じていることだ。
浙江省杭州市に拠点を置くプロトタイプ製品輸出企業の管理者は、フィナンシャル・タイムズに対し、3月末から米国・欧州の顧客が「China+1」戦略を逆転させる兆候が見えていると明かした。「ある顧客は、ベトナムとカンボジアからの一部注文を中国に戻すことを検討していると話していた」という。
浙江省寧波市の電子部品メーカー幹部のホアン氏も、米国の顧客からの問い合わせが最近急増していると語り、「需要が大幅に増加した。今は詳細な価格交渉に入る段階だ」と述べた。
数字が示す中国輸出の勢い
中国は近年、不動産危機に伴う内需低迷を輸出で補う構造が続いている。昨年の貿易黒字は過去最高の1兆2,000億ドルに達し、2026年1〜2月の輸出額も前年同期比で約22%増と高い伸びを記録した。
英調査会社キャピタル・エコノミクスは、戦争の影響を織り込み、2026年の中国輸出成長率予測を従来の5%から6%に引き上げた。同社の中国経済部門責任者ジュリアン・エバンス=プリチャード氏は、中国のエネルギーコスト上昇が他国より限定的であることから、世界の輸出シェア獲得に有利な立場にあると分析する。
3月の中国製造業PMI(購買担当者景気指数)は50.4ポイントとなり、2カ月間の縮小から拡大に転じたことも、製造業の底堅さを裏付けている。
中国にもリスクは存在する
一方で、中国の製造業が無傷というわけではない。温州市のプラスチックメーカー幹部リー氏によれば、臭素化ポリスチレンなどの難燃剤は価格が2〜3倍に高騰しており、「3月は過去最大の赤字になるかもしれない。顧客とコストを分担しながら嵐を乗り越えるしかない」と語った。
中国政府は燃料価格を統制しているものの、先週にはガソリン・軽油の小売価格が過去最大の引き上げとなった。エネルギー価格上昇によるコストプッシュ型インフレが、3年以上続くデフレ圧力をある程度相殺する見通しだが、それは需要の改善ではなくコスト増に起因するものだ。
PBOC(中国人民銀行)金融政策委員のホアン・イーピン北京大学教授は、輸入インフレが中国経済に圧力をかけると指摘しつつも、現在のインフレ水準が低いため外部ショックを吸収する余地はあると述べた。ただし、その余地は中東紛争の長期化の程度に左右されるとも付け加えた。
ゴールドマン・サックスの中国担当チーフエコノミスト、ホイ・シャン氏は「中国の輸出は引き続き増加しシェアも拡大する。しかしイラン戦争によって、その成長ペースは当初の予想より鈍化する可能性がある」と慎重な見方を示している。
エネルギー転換で中国がさらに有利に
中長期的には、中東のエネルギー危機が各国の再生可能エネルギー・EV(電気自動車)導入を加速させる要因となる。この分野において中国はEV、太陽光パネルなどで世界トップの供給国であり、北京政府も新エネルギー分野への投資を積極的に推進してきた。エネルギー危機の長期化は、中国のグリーンテクノロジー産業にとって追い風となる構造的な力学が働く。
投資家・ビジネス視点の考察——ベトナムへの影響
本ニュースは、ベトナムの製造業・輸出セクターにとって極めて深刻な警鐘である。以下の点に注目したい。
①ベトナム製造業への直接的打撃:ベトナムは中東産原油への依存度が高く、エネルギーコスト上昇が製造コストを押し上げる。記事中でも、ベトナム・タイ・インドネシアのサプライチェーン回復力への懸念が、欧米バイヤーの中国回帰を促していると明示されている。これはベトナムがこの数年間で築いてきた「China+1」の受け皿としての地位を揺るがしかねない。
②ベトナム株式市場への影響:輸出関連銘柄、特に繊維・アパレル、電子部品組立、家具製造などのセクターは受注減少リスクに直面する。一方、PVガス(GAS)やペトロベトナム関連銘柄はエネルギー価格上昇の恩恵を受ける可能性がある。ただし、製造業全体のコスト増は企業利益を圧迫し、VN-Index全体にはネガティブな要素となりうる。
③FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げにとって、製造業の競争力低下は外国人投資家のセンチメントに影響を与える可能性がある。格上げ自体は制度改革が主要評価基準だが、マクロ経済の安定性も重要な判断材料であり、エネルギーショックによる経済減速は懸念材料となる。
④日本企業への示唆:ベトナムに生産拠点を移転してきた日本の製造業にとっても、エネルギーコスト上昇と受注競争の激化は無視できない。短期的にはベトナム拠点の採算悪化、中長期的にはサプライチェーン戦略の再検討を迫られる局面が訪れる可能性がある。
ベトナム政府としては、エネルギー安全保障の強化と再生可能エネルギーへの転換加速が急務である。中国との製造コスト競争において、エネルギー脆弱性が構造的な弱点として露呈した今回の事態は、ベトナムの産業政策に中長期的な転換を促す契機となるだろう。
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