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2026年3月23日、国際金市場でアジア時間に4,100ドル/オンスを割り込む急落が発生したが、トランプ米大統領によるイラン攻撃延期の発表を受けて欧米時間に劇的な反転が起こり、金価格は4,400ドル/オンス台を回復した。一方、世界最大の金ETFであるSPDR Gold Trust(スパイダー・ゴールド・トラスト)は3週連続の売り越しを続けており、市場構造の変化を示唆している。ベトナム国内金価格にも直結するこの動きを詳しく解説する。
アジア時間の急落——約400ドルの「蒸発」
3月23日(月)のアジア取引時間帯、金のスポット価格は一時約400ドル/オンスもの急落を見せ、4,099ドル/オンスを下回った。銀のスポット価格も61ドル/オンスを割り込んだ。背景にあったのは、米国とイランの間で急速に高まっていた地政学リスクである。湾岸地域の緊張が原油価格を押し上げ、ブレント原油先物が一時119ドル/バレルを超えたことで、世界的なインフレ再加速懸念が台頭。米連邦準備制度理事会(FRB)が高金利を長期間維持する、あるいは追加利上げに踏み切るとの見方が広がり、金や株式市場に強烈な売り圧力がかかっていた。前週、金価格は週間ベースで10.5%もの下落を記録し、これは2011年9月以来の最大の週間下落幅であった。
トランプ発言で劇的反転——4,400ドル台を回復
流れが変わったのは、トランプ大統領がイランのエネルギーインフラに対する攻撃計画を5日間延期すると発表したことだった。大統領は、ワシントンとテヘランの間で「良好かつ生産的な」協議が行われたと説明した。この発表を受け、市場心理は大きく好転した。
ニューヨーク市場の終値では、金スポット価格は前週末比84.8ドル/オンス安(1.9%安)の4,407.4ドル/オンスとなった(Kitcoデータ)。アジア時間の安値からは約300ドル以上の反発である。COMEX(ニューヨーク商品取引所)の2026年4月限の金先物も0.7%安の4,574ドル/オンスで取引を終えた。
一方、銀スポット価格は1.33ドル/オンス高(2%高)の69.27ドル/オンスと上昇。原油価格の急落に伴いドル指数(Dollar Index)は0.5%低下して99.15ポイント、米10年国債利回りは4ベーシスポイント以上低下して4.348%、2年債利回りも同幅低下して3.848%となった。ドル安・金利低下はいずれも金価格の支援材料であり、このことが欧米時間の反発を後押しした。
ロンドン市場のブレント原油先物は週明け取引で約11%の急落を見せ、100ドル/バレルを下回って引けた。原油安が株式市場にも安心感をもたらし、欧米の株価指数は軒並み上昇に転じた。
SPDR Gold Trustの執拗な売り越し
注目すべきは、金価格が反発する中でも、世界最大の金ETFであるSPDR Gold Trust(ティッカー:GLD)が売り越しを続けている点である。同ファンドの保有金量は4.3トン減少し、1,052.7トンとなった。前週も14.5トンの売り越しで、これで3週連続の純売却である。
コインビューロー(Coin Bureau)の共同創設者ニック・パックリン氏は、トランプ大統領の緊張緩和発言前の段階でロイター通信に対し、「投機的なモメンタム取引は終わった。中央銀行や湾岸諸国が過去2年間で積み上げた金準備を取り崩している。焦点は資本保全に移っており、これが金価格に自然な上限を設けることになる」との見方を示していた。これは、各国が地政学的危機への対応として現金確保を優先し、金を売却して流動性を確保する動きと解釈できる。
史上最高値からなお20%超の下落圏
今回の反発にもかかわらず、金価格は2026年1月末に記録した史上最高値5,600ドル/オンス近辺からは20%以上下落した水準にとどまっている。テクニカル的には「弱気相場入り」の基準(高値から20%下落)に該当する水準であり、市場参加者の間では今後の方向性について見方が分かれている。
翌24日のアジア時間早朝(ベトナム時間6時25分時点)には、金スポット価格は前日のニューヨーク終値から29ドル/オンス高(0.66%高)の4,437.1ドル/オンスへ続伸。銀も1%超の上昇で70ドル/オンス近辺で取引された。
ベトナム国内金価格への影響
国際金価格をベトコムバンク(Vietcombank、ベトナム外商銀行)のドル売りレートで換算すると、上記の金価格は1ルオン(ベトナムの金取引単位、約37.5グラム)あたり約1億4,080万ドンに相当する。同時点のベトコムバンクのドル為替レートは、買い26,074ドン、売り26,344ドンで、前日早朝からそれぞれ5ドンの上昇であった。
ベトナムは世界有数の金消費国の一つであり、国内の金価格は国際相場と為替レートの両方に連動して変動する。今回のような国際市場の激しいボラティリティは、ベトナムの金取引市場にも即座に波及する構造にある。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の金市場の乱高下は、複数の観点からベトナム市場への影響を考える必要がある。
第一に、ベトナム株式市場への影響である。原油価格の急落は、ベトナム経済にとっては基本的にプラスである。ベトナムは石油の純輸入国に転じつつあり、エネルギーコストの低下は製造業やインフレ抑制に寄与する。ペトロベトナムガス(GAS)やペトロベトナム・パワー(POW)など石油関連銘柄にとっては逆風だが、航空(ベトジェット・VJC、ベトナム航空・HVN)や物流セクターにとっては恩恵が大きい。また、FRBの追加利上げリスクが後退すれば、新興国市場からの資金流出圧力が和らぎ、ベトナム株にも資金が戻りやすい環境が生まれる。
第二に、2026年9月に予定されるFTSE新興市場指数への格上げ判断との関連である。ベトナムがFTSEフロンティア市場から新興市場に格上げされれば、数十億ドル規模のパッシブ資金が流入すると見込まれている。国際的な金利環境やリスクセンチメントの安定化は、このイベントの実現と効果を最大化するうえで好材料となる。逆に地政学リスクの再燃は、外国人投資家のリスク回避姿勢を強め、格上げの恩恵を相殺しかねない。
第三に、ベトナム国内の金市場規制への注目である。ベトナム国家銀行(中央銀行)は近年、国内金価格と国際金価格の乖離を縮小するための改革を進めてきた。国際相場のボラティリティが極端に高まる局面では、国内市場での投機的動きも活発化しやすく、当局が追加的な市場安定化措置を講じる可能性にも留意すべきである。
第四に、日本企業やベトナム進出企業への影響として、為替(ドン/ドル)が比較的安定していることは好材料である。今回のドル安は、ドン建てでのコスト上昇圧力を緩和し、日系メーカーのベトナム拠点における収益環境を下支えする。ただし、今後の地政学リスクの行方次第ではサプライチェーンの混乱リスクも排除できず、中東情勢の推移には引き続き注意が必要である。
総じて、今回の金市場の「フラッシュクラッシュ的」な値動きと劇的反発は、地政学リスクとマクロ経済環境が複雑に絡み合う2026年の市場環境を象徴する出来事であった。SPDR Gold Trustの継続的な売り越しが示すように、大口投資家はリスクヘッジの手段としての金の位置づけを再評価しつつある。ベトナム投資家にとっては、国際金価格の動向がベトナムドン建て資産のバリュエーションにも間接的に影響を及ぼすことを踏まえ、マクロ環境の変化に対するポートフォリオの耐性を常に点検しておくことが肝要である。
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