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ベトナム政府がこのほど公布した政令により、個人所得税の計算において医療費および教育費を最大4,700万ドン控除できる制度が導入された。扶養家族1人を持つ個人が対象となるこの措置は、物価上昇に苦しむベトナムの中間所得層にとって大きな負担軽減策であり、内需拡大を狙う政府の経済政策の一環として注目される。
制度の概要——誰が、いくら控除できるのか
今回の政令によれば、個人所得税の確定申告において、納税者本人が扶養家族を1人有する場合、その扶養家族にかかる医療費および教育費を合算して最大4,700万ドンまで課税所得から控除(減額)できる。これは従来の基礎控除や扶養控除に加えて適用される追加的な控除枠であり、実質的な税負担の引き下げを意味する。
ベトナムの個人所得税は累進課税方式を採用しており、月収1,100万ドン(基礎控除額)を超える部分に対して5%〜35%の税率が適用される。扶養家族1人あたりの控除額は月440万ドンとされてきたが、近年の物価上昇や教育費・医療費の高騰に対して「控除額が実態に追いついていない」との批判が国内で根強かった。今回の医療・教育費控除の導入は、こうした世論に応える形での制度改正である。
背景——なぜ今、この控除が導入されたのか
ベトナムでは近年、都市部を中心に私立学校やインターナショナルスクールへの進学需要が急増しており、年間の教育費が数千万ドンに達するケースも珍しくない。また、公立病院の慢性的な混雑を避けて民間病院を利用する中間層が増加しており、医療費の自己負担も増大傾向にある。
ベトナム統計総局(GSO)のデータによれば、教育関連の消費者物価指数はここ数年、全体のインフレ率を上回るペースで上昇しており、特にホーチミン市やハノイなどの大都市圏では家計に占める教育費・医療費の割合が拡大している。政府としては、こうした「生活必需的支出」を税制上で配慮することで、中間層の可処分所得を実質的に底上げし、消費の下支えを図る狙いがある。
また、ベトナムは2025年以降、個人所得税法の包括的な改正を段階的に進めてきた。基礎控除額の引き上げ議論は長年にわたり国会で取り上げられてきたが、税収減を懸念する財務省との調整が難航していた。今回の「項目別控除」の導入は、基礎控除額そのものを大幅に引き上げるのではなく、特定の費目に限定して控除を認めるという折衷案的なアプローチといえる。
具体的な適用条件と注意点
政令の詳細によれば、控除を受けるためには医療費・教育費の支出を証明する領収書や請求書の保管が必要とされる。対象となる医療費は、社会保険でカバーされない自己負担分が中心となり、美容医療など一部の支出は除外される見込みである。教育費については、幼稚園から大学までの学費、教材費などが対象に含まれるとされている。
なお、4,700万ドンという上限額は扶養家族1人あたりの年間控除上限であり、扶養家族が複数いる場合には人数に応じた上限額が適用されるかどうかについては、今後の施行細則で明確化される見通しである。
投資家・ビジネス視点の考察
この税制改正は、一見すると「税務」の話にとどまるように見えるが、ベトナム経済と株式市場に対していくつかの重要なインプリケーションを持つ。
1. 内需・消費関連セクターへのプラス材料
中間層の可処分所得が実質的に増加することで、消費財・小売セクターへの追い風となる可能性がある。ベトナム株式市場に上場する小売大手モバイルワールド(MWG)やマサングループ(MSN、ベトナム最大の消費財コングロマリット)などは、国内消費の動向に業績が左右されやすく、こうした税制優遇は中長期的にポジティブ要因として働く。
2. 民間教育・医療セクターの成長を後押し
控除対象に民間の教育費・医療費が含まれることで、家計が私立学校や民間病院への支出をより行いやすくなる。これはベトナム国内で急成長する民間教育・ヘルスケア産業にとって追い風である。
3. 日本企業・在ベトナム邦人への影響
ベトナムに駐在する日本人ビジネスパーソンや、現地採用で働く日本人も、ベトナムの個人所得税の対象となっている。今回の控除制度が外国人納税者にも同様に適用されるのであれば、在越日本人の税負担軽減にもつながる。ただし、外国人の場合は扶養家族の認定基準が異なるケースもあるため、詳細は現地の税務アドバイザーに確認する必要がある。
4. FTSE新興市場指数格上げとの関連
2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げは、市場の透明性や制度整備の進展が評価ポイントとなる。税制の近代化・合理化もその一要素であり、今回のような国際的に見ても標準的な「項目別控除制度」の導入は、ベトナムの制度的成熟度を示すシグナルとして海外投資家にも好意的に受け止められるだろう。
5. 税収への影響と財政バランス
一方で、控除拡大は当然ながら個人所得税の税収減につながる。ベトナム政府は近年、インフラ投資の財源確保のために税収基盤の拡大を進めてきたが、今回の措置がどの程度の税収減をもたらすかは注視が必要である。財政赤字の拡大が進めば、国債市場や為替(ドン相場)に影響が及ぶ可能性もゼロではない。
総じて、今回の税制改正はベトナム政府が「成長と分配の両立」を模索する中での重要な一手である。中間層の拡大と消費の活性化は、ベトナムが「中所得国の罠」を回避するうえで不可欠な要素であり、税制面からの支援策として評価できる。ベトナム株式市場に投資する日本の投資家にとっても、こうした制度変更が消費・サービスセクターの中長期的な成長ストーリーを補強する材料となることを意識しておきたい。
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出典: 元記事












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