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ベトナムの複数の大手証券会社の株価が、PBR(株価純資産倍率)ベースで過去5年間の平均を下回る水準にまで低下していることが、各調査機関の分析で明らかになった。FPTS、SSI(ベトナム最大手級の証券会社)、BSC(BIDV傘下の証券会社)、Vietcap(ベトキャップ証券)、VPBankS(VPバンク証券)など、業界を代表する「大手」が軒並み割安圏にあるという異例の状況だ。証券セクターはベトナム株式市場全体の方向性を映す鏡とも言える存在であり、この動向は日本の投資家にとっても重要なシグナルとなり得る。
P/B(PBR)が軒並み5年平均割れ—何が起きているのか
P/B(Price to Book ratio)とは、株価が1株当たり純資産の何倍で取引されているかを示す指標であり、1倍を下回れば「解散価値以下」で取引されていることを意味する。ベトナムの証券セクターにおいて、このP/Bが過去5年間の平均値を下回る銘柄が複数出現している。
具体的に名前が挙がっているのは、以下の主要証券会社である。
- FPTS(FPT証券)——IT大手FPTグループ傘下の証券会社。堅実な経営で知られる。
- SSI(SSI証券)——ベトナム証券業界の最大手の一角で、外国人投資家の利用も多い。ホーチミン証券取引所(HOSE)上場。
- BSC(BIDV証券)——ベトナム四大国有商業銀行の一つであるBIDV(ベトナム投資開発銀行)を親会社に持つ。
- Vietcap(ベトキャップ証券)——近年急成長を遂げ、リテール・機関投資家双方で存在感を高めている中堅大手。
- VPBankS(VPバンク証券)——民間大手銀行VPBank傘下の証券部門で、銀行系証券の中でも積極的な事業展開を行っている。
これらの企業のP/Bが過去5年平均を下回っているということは、市場が証券セクターに対してやや慎重な見方をしていることを示唆する。ただし、裏を返せば「ファンダメンタルズに対して株価が割安に放置されている」とも解釈できる局面である。
証券セクターが低迷する背景
ベトナム証券セクターのバリュエーション低下にはいくつかの構造的・循環的要因が考えられる。
第一に、市場全体の出来高低迷が挙げられる。証券会社の収益はブローカレッジ手数料(売買仲介手数料)に大きく依存しており、売買代金の減少は直接的な業績圧迫要因となる。VN-Index(ベトナム株価指数)は2024年後半から2025年にかけて調整局面が続き、個人投資家の売買意欲が低下した時期があった。
第二に、マージンローン(信用取引)の金利負担と規制強化がある。ベトナム国家証券委員会(SSC)は近年、信用取引に対する監視を強めており、証券各社のマージンローン残高の伸びが鈍化している。マージンローンは証券会社にとって高収益事業であるため、その鈍化はP/Bの低下圧力となる。
第三に、競争激化と手数料引き下げの流れがある。新規参入や既存各社のデジタル化投資に伴い、取引手数料の引き下げ競争が進行しており、ブローカレッジ部門の利益率が縮小傾向にある。
「割安」は買いのチャンスか—分析機関の見解
一方で、複数の分析機関は今回のP/B低下を「投資機会」として前向きに捉えている。過去5年平均を下回るP/Bは、VN-Indexが大底圏にあった2020年のコロナショック時や2022年後半の社債危機・不動産危機時と同程度の水準であり、その後いずれも大幅なリバウンドを見せた経緯がある。
証券セクターは典型的な「景気敏感・市場敏感」セクターであり、市場全体の回復局面では真っ先に恩恵を受ける傾向が強い。特にSSIやVietcapのように自己勘定取引(プロップトレーディング)でも収益を上げられる大手は、相場反転時の業績回復スピードが速い。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のニュースは、ベトナム株式市場に関心を持つ日本の投資家にとって、いくつかの重要な示唆を含んでいる。
1. FTSE新興市場指数への格上げとの関連性
2026年9月に正式決定が見込まれるFTSE(フッツィー)新興市場指数へのベトナム格上げは、証券セクターにとって最大のカタリスト(株価上昇のきっかけ)となり得る。格上げが実現すれば、グローバルなパッシブファンドからの大量の資金流入が予想され、出来高の急増が証券各社の手数料収入を大幅に押し上げるシナリオが描ける。現在の「割安なP/B」は、この格上げイベントを先取りするポジション構築の好機と見る向きも多い。
2. 関連銘柄への影響
証券セクターのP/Bが低い状態は、VN-Index全体のセンチメントを反映している側面がある。しかし逆に、証券株が先行して底打ちし反発する動きが出れば、市場全体の反転シグナルとして注目される。SSI、VCI(Vietcap)、HCM(ホーチミンシティ証券)、VND(VNダイレクト証券)といった主要銘柄の動向は、日本の個人投資家がベトナム市場のタイミングを計る上でのバロメーターとなるだろう。
3. 日本企業・日系証券との関連
大和証券グループがBSCの株主であるなど、日系金融機関とベトナム証券セクターの資本関係は深い。また、SBI証券や野村證券もベトナム市場関連のサービスを強化しており、ベトナム証券セクターの回復は日系金融にとってもプラス材料となる。
4. ベトナム経済全体のトレンドにおける位置づけ
ベトナムは2025年に入ってからGDP成長率の回復基調が続いており、政府は2025年通年で8%以上の成長を目標に掲げている。公共投資の加速、FDI(海外直接投資)の継続的な流入、製造業の回復といったマクロのポジティブ要因がある中で、証券セクターだけが割安に取り残されている状況は、中長期的には修正される可能性が高いと見るアナリストが多い。
ただし、短期的にはVN-Indexの方向感が定まらない限り、証券株のP/Bがさらに低下するリスクも排除できない。投資を検討する際には、個別企業の財務体質(自己資本比率、マージンローン残高の質、収益の多角化度合い)を慎重に精査することが求められる。
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