ベトナム中部のクアンチ省で、総投資額約1兆5,000億ドン(約15,000 tỷ đồng)に上る大規模港湾プロジェクト「ミートゥイ港区(Khu bến cảng Mỹ Thủy)」の建設が急ピッチで進められている。しかし、用地収用(giải phóng mặt bằng)の遅れや法的手続きの未整備が「ボトルネック」となり、最初のバース(埠頭)の稼働スケジュールに黄信号が灯っている。クアンチ省のレー・ホン・ヴィン人民委員会主席が投資家との会合を主催し、課題解消に向けた具体策を打ち出した。
プロジェクトの全体像──10バース、総延長3,000mの大規模港湾
ミートゥイ港区は、クアンチ省の海岸部に位置し、総面積約685ヘクタール(陸域335ヘクタール、水域350ヘクタール)という広大な敷地に、全10バース、岸壁総延長約3,000メートルの港湾施設を建設する計画である。完成時にはコンテナ船、一般貨物船、ばら積み船で最大10万トン級の船舶を受け入れる能力を持つことになる。
クアンチ省は南北に細長いベトナムの「くびれ」部分に位置し、東西経済回廊(EWEC:East-West Economic Corridor)の東端にあたる戦略的要衝である。ラオス、タイ、ミャンマーへとつながるこの回廊は、メコン地域の物流ネットワークの大動脈であり、ミートゥイ港はその海上ゲートウェイとしての役割を期待されている。これまでクアンチ省には大型船舶に対応できる深水港がなく、同省の産業発展にとって長年の課題であった。
投資主体と開発スケジュール
プロジェクトの投資主体は、ベトフォングループ(Tập đoàn Việt Phương)傘下のミートゥイ国際港合弁投資会社(MTIP:Công ty Cổ phần Đầu tư Liên doanh cảng quốc tế Mỹ Thủy)およびその関連企業である。会合では、MTIPの代表が開発状況を報告し、いくつかの投資案件を提案した。
現行の計画では、第1バースと第2バースを2026年4月末までに完成・稼働させることを目標としている。さらに2027年第4四半期までに計4バースの運用開始を目指し、全10バースは2036年までに完成する予定だ。
最大の壁──用地収用と法的手続きの遅れ
投資家側が最も強く訴えたのは、用地収用の遅延である。具体的には以下の期限での対応が求められている。
第一に、船舶の回頭水域(vũng quay tàu)にあたる20.02ヘクタールと、第2期の砂置き場15ヘクタールの用地収用を2026年4月10日までに完了すること。第二に、ハイアン国境警備所(Đồn Biên phòng Hải An)の旧施設を2026年3月31日までに引き渡すこと。第三に、港湾運用に必要な防火・消防関連の法的手続きを2026年4月15日までに完了させることである。
ベトナムにおける用地収用は、土地使用権の補償額をめぐる住民との交渉が難航するケースが多く、大型インフラプロジェクトの最大のリスク要因として知られている。特に沿岸部では漁業権や伝統的な生活圏との調整が複雑化しやすい。クアンチ省の案件も例外ではなく、補償方針の策定、土地価格の承認、住民への情報公開と合意形成が急務となっている。
港湾を核とした物流・産業エコシステムの構築
港湾単体の開発にとどまらず、投資家グループはミートゥイ港を核とした物流・産業エコシステムの形成を提案している。具体的に名前が挙がったプロジェクトは以下の通りである。
(1)ミートゥイ港後方物流拠点(Khu hậu cần sau cảng Mỹ Thủy)
(2)ゴーナム・VICO港湾都市区(Khu đô thị – cảng Ngã 5 VICO)
(3)VPGクアンチ・ハイテク工業団地(Khu công nghiệp công nghệ cao VPG Quảng Trị)
(4)東西経済回廊ロジスティクスセンター(Trung tâm logistics Hành lang kinh tế Đông – Tây)
(5)ラオバオ・ロジスティクスセンター(Trung tâm logistics Lao Bảo)
ラオバオはラオスとの国境に位置する経済特区であり、東西経済回廊上の重要な陸路通関拠点である。ここにロジスティクスセンターを設置することで、内陸部からミートゥイ港への貨物集荷を効率化し、港湾の稼働率向上を狙う。投資家はこれらの関連プロジェクトが港湾の商業運営効率を飛躍的に高める「貨物創出源」になると説明した。
さらなる拡張構想──30バース、35万トン級対応へ
注目すべきは、投資家がミートゥイ港区を南方へ約800ヘクタール拡張する構想も提案している点だ。実現すればバース数は30に倍増し、最大35万トン級の超大型船舶の受け入れが可能になる。35万トン級といえば、世界最大級のばら積み船やVLCC(超大型原油タンカー)クラスに相当する規模であり、実現すればベトナム有数の深水港となるポテンシャルを秘めている。
ただし、この拡張エリアは国家鉱物備蓄区域(khu vực dự trữ khoáng sản quốc gia)と重なるため、農業・環境省(Bộ Nông nghiệp và Môi trường)の承認が不可欠であり、2026年3月中の審査開始を求めている。
省のトップが「戦略的投資家」と明言──行政の本気度
会合を主催したレー・ホン・ヴィン主席は、ベトフォングループとMTIPをクアンチ省の港湾・物流・工業分野における「戦略的投資家」と位置づけ、全面的な支援姿勢を明確にした。具体的な対応策として、以下の指示を出している。
まず、関係部局横断の特別作業チーム(tổ công tác liên ngành)を設置し、プロジェクト推進上の障害をリアルタイムで解消する体制を構築する。次に、用地収用に関しては補償方針の早期策定、土地価格の承認、住民への透明な情報公開を徹底し、住民の権利を保障することで社会的合意を得るよう地元自治体に求めた。さらに、省の権限を超える案件については、中央の各省庁と連携して法的手続きの完了を支援するとしている。
日本企業・投資家への示唆
ミートゥイ港プロジェクトは、ベトナムの港湾インフラ整備が南部(ホーチミン市周辺)や北部(ハイフォン)だけでなく、中部地域にも本格的に広がりつつあることを示す象徴的な案件である。東西経済回廊を通じたメコン地域との接続性は、タイやラオスに生産拠点を持つ日本企業にとっても物流ルートの多様化という観点で注目に値する。
一方で、ベトナムの大型インフラプロジェクトに共通する課題──用地収用の長期化、中央・地方間の許認可調整の複雑さ、環境・鉱物資源に関する規制──がここでも顕在化しており、投資判断にあたっては行政リスクを十分に織り込む必要がある。クアンチ省がどの程度迅速にこれらの「ボトルネック」を解消できるかが、プロジェクト全体の成否を左右することになるだろう。
出典: Vn Economy
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