ベトナムの首都ハノイ市が、2035年を見据えた重点経済産業の技術革新ロードマップを正式に策定した。AI(人工知能)、半導体、ブロックチェーンなどの先端技術を軸に、文化産業・観光・デジタル技術産業の3分野を集中的に育成し、首都のGRDP(域内総生産)への貢献度を大幅に引き上げる狙いだ。ベトナムが国家を挙げてデジタル経済への転換を加速するなか、その最前線に立つハノイの戦略は、日本企業にとっても大きなビジネスチャンスを示唆するものである。
計画の概要──2026年3月に正式署名
ハノイ市人民委員会のチュオン・ヴィエット・ズン副委員長は、2026年3月16日付で「計画第109号(109/KH-UBND)」に署名し、「ハノイ市の重点経済産業における2035年までの技術革新計画」を正式に公布した。同計画では、科学技術・イノベーション・デジタルトランスフォーメーション(DX)を経済社会発展の「戦略的ブレークスルー」と位置づけ、デジタル経済と連動した技術革新を成長の主要エンジンとする方針が明確に打ち出されている。
ハノイ市は人口約850万人を擁するベトナム北部最大の都市であり、政治の中枢であると同時に、近年は経済・産業面でも急速な発展を遂げている。南部のホーチミン市と並ぶ二大経済拠点として、IT産業やスタートアップ・エコシステムの成長が著しく、今回の計画はその勢いをさらに加速させるための包括的な青写真といえる。
技術革新の3本柱──文化産業・観光・デジタル技術産業
今回の計画で特に注目すべきは、ハノイ市が技術革新の重点対象として選定した3つの産業分野である。
第1の柱:文化産業
ハノイ市は、文化産業を高い競争力を持つ重要な経済セクターへと発展させることを目指している。約1000年の歴史を持つ古都ハノイは、ベトナム全土の文化的価値が集約・発信される中心地としての役割を強化する方針だ。ユネスコの「デザイン都市」にも認定されている同市は、伝統工芸、音楽、映画、デザイン、出版といった多様な文化コンテンツをデジタル技術と融合させ、新たな産業価値を生み出そうとしている。
第2の柱:観光(特に文化観光)
観光分野では、ハノイをアジア太平洋地域で最も魅力的な観光地の一つへと押し上げることを目標に掲げた。国内外の観光ルートのハブ(結節点)としての機能を強化し、スマートツーリズムの導入によって観光客の利便性向上とブランド力の強化を図る。ハノイには旧市街(ホアンキエム地区)、ホーチミン廟、タンロン遺跡(世界遺産)など多数の観光資源があり、これらをデジタル技術で再編成・発信する戦略は理にかなっている。
第3の柱:デジタル技術産業
3つの柱のなかでも最も重要な位置づけを与えられているのがデジタル技術産業である。同分野は他の2分野の技術革新を「牽引する基盤」と定義されており、AI、半導体産業、デジタル資産などのコア技術の開発を優先的に推進する。2035年までに文化産業と観光の両セクターに対してもブレークスルーを生み出す技術的原動力となることが期待されている。
重点技術分野──AIから量子コンピューティングまで
計画では、重点的に取り組むべき技術群も具体的に列挙されている。主なものは以下の通りだ。
- 人工知能(AI)
- デジタルツイン(仮想空間上の複製技術)
- VR/AR(仮想現実/拡張現実)
- クラウドコンピューティング
- 量子コンピューティング
- ビッグデータ
- ブロックチェーン
これらの技術について、国内外の技術トレンドの分析・予測を行い、市場ニーズと各産業での応用可能性を評価する方針も示されている。さらに、企業・製造拠点・研究機関・教育機関の技術活用能力を包括的に評価し、DXへの準備度、技術インフラの質、資金力、科学技術人材の水準を把握することも計画に盛り込まれた。
2段階のロードマップ
技術革新ロードマップは、明確に2つのフェーズに区分されている。
第1フェーズ(2026~2030年):DX推進とコア技術の応用・発展
この期間では、AI、デジタルツイン、VR/AR、ブロックチェーンなどの技術を購入・移転・統合し、文化産業製品の生産に積極的に取り入れる。同時に、文化遺産のデジタル化を推進し、文化産業のデータベースやデジタルマップを構築して国家データシステムとの連携を図る。
観光分野では、スマートツーリズムの方向でDXを加速させ、管理効率の向上、プロモーション強化、ブランド構築に注力する。
デジタル技術産業では、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、IoT(モノのインターネット)、サイバーセキュリティなどの基盤技術の習得を段階的に進め、ソフトウェア、デジタルプラットフォーム、デジタルサービス、半導体チップ設計といったベトナムが優位性を持つ分野でグローバルバリューチェーンへの参入を深める計画だ。
特筆すべきは、新たなデジタル技術集積エリアの開発構想である。最新のデジタルインフラを備えた拠点を整備し、国家レベル・地域レベル・国際レベルの大規模データセンターやイノベーションセンターを形成する方針が示されている。
第2フェーズ(2030~2035年):技術の自立化とイノベーション主導の持続的発展
後半のフェーズでは、文化産業のバリューチェーン全体──創造、生産、流通、消費──にわたって技術を深く浸透させることを目指す。デジタル文化産業、デジタルエンターテインメント産業を本格的に発展させ、デジタルプラットフォームやエコシステム、文化産業製品の取引プラットフォームを構築する。
企業に対しては、インフラ投資、研究開発(R&D)、新技術の応用、デジタル資産の活用を支援する方針が打ち出された。また、ハイテク人材の育成、投資誘致のための特別な制度・政策の整備、そしてアジア・国際市場での競争力強化が、この段階の「中核的な柱」として位置づけられている。
日本企業・投資家への示唆
今回のハノイ市の計画は、日本企業にとって複数の観点から注目に値する。
第一に、半導体・AI分野での協力機会である。日本政府もTSMCの熊本進出などを通じて半導体サプライチェーンの再構築を進めているが、設計工程やテスト工程をベトナムに委託・移管する動きは今後一層加速する可能性がある。ハノイが半導体チップ設計を明示的に重点分野として掲げたことは、日系半導体関連企業にとって新たな拠点候補となり得る。
第二に、デジタルコンテンツ・文化産業での連携である。日本はアニメ、ゲーム、マンガなどデジタルコンテンツの輸出大国であり、ハノイが文化産業のデジタル化を国策として推進するならば、共同制作や技術提供、プラットフォーム構築といった形での協業が期待できる。
第三に、スマートシティ・スマートツーリズム関連のインフラ需要である。データセンター、クラウドサービス、IoTソリューション、サイバーセキュリティなどの分野で、日本企業が持つ技術・ノウハウへのニーズは高まるだろう。
ベトナムは2045年までに「高所得国入り」を国家目標として掲げており、その実現に向けてハノイとホーチミンの二大都市が牽引役を担う構図が鮮明になっている。今回のロードマップは、単なるスローガンにとどまらず、具体的な技術分野と時間軸を伴った実行計画であり、今後の政策展開と投資環境の変化を注視する価値がある。
出典: Vn Economy
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