ベトナムと欧州連合(EU)の関係が、35年の歴史の中で最大の転換点を迎えた。2026年1月29日、欧州理事会のアントニオ・コスタ議長がベトナムを公式訪問した際、両者は共同声明を発表し、二国間関係を「包括的戦略パートナーシップ(Đối tác chiến lược toàn diện)」へと正式に格上げした。1990年の外交関係樹立から数えて36年目の節目に当たるこの決定は、経済・安全保障・科学技術の各分野において協力関係を飛躍的に深化させる意思表示である。
35年で築いた経済的絆──EVFTA発効が加速装置に
ベトナムとEUの経済的な結びつきは、2020年8月1日に発効したEU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA)を契機に急拡大してきた。EVFTAは、EUがASEAN加盟国と締結した初の本格的な自由貿易協定であり、関税の段階的撤廃や知的財産権の保護強化、政府調達市場の開放など包括的な内容を含む。日本企業にとってもTPP(CPTPP)と並ぶ重要な通商枠組みとして注目されてきた。
その効果は数字に如実に表れている。ベトナム・EU間の二国間貿易額は、EVFTA発効年の2020年に554億ドルだったものが、2024年には684億ドル、そして2025年には738億ドルに達した。なかでもベトナム側の輸出額は、2020年の401億ドルから2025年には562億ドルへと約40%増加。ベトナムのEUに対する貿易黒字も、2020年の248億ドルから2025年には約386億ドルへと大幅に拡大している。
投資面でも成果は顕著である。2025年9月末時点で、EUからベトナムへの累計投資プロジェクト数は2,743件に上り、登録資本総額は約320億ドルに達している。EUはベトナムにとって第4位の貿易パートナーであると同時に第6位の投資国であり、一方のベトナムはASEAN域内におけるEU最大の貿易相手国という位置づけだ。グローバルな視点では、EUはベトナムにとって第3位の輸出市場でもある。
ハノイで開催「EU・ベトナム ビジネス・投資フォーラム」の全容
こうした関係深化の流れを受けて、2026年3月24日、ハノイにおいて「EU・ベトナム ビジネス・投資フォーラム──グローバル・ゲートウェイ戦略」が開催された。主催は在ベトナムEU代表部、ベトナム財務省傘下の外国投資局、そして在ベトナム欧州商工会議所(EuroCham)の三者である。
「持続可能な未来に向けた投資協力」をメインテーマに掲げた本フォーラムには、約500名の代表者・専門家が参集した。EU側からは、国際パートナーシップ担当の欧州委員であるヨゼフ・シーケラ氏、欧州投資銀行(EIB)副総裁のニコラ・ベーア氏らが出席。ベトナム政府関係者に加え、官民双方の企業トップも顔をそろえた。
討議の中心となったのは、ベトナムの持続的発展の「てこ」となる戦略的分野である。具体的には、グリーン交通(EV化や公共交通の脱炭素化)、エネルギー転換(再生可能エネルギーへのシフト)、インフラ接続、グリーン・デジタルの「ツイン・トランスフォーメーション(二重転換)」、そしてESG(環境・社会・ガバナンス)基準の導入推進が主要議題として取り上げられた。
「グローバル・ゲートウェイ」構想とベトナムの位置づけ
フォーラムの名称にも冠された「グローバル・ゲートウェイ(Global Gateway)」は、EUが2021年末に打ち出した大型インフラ投資構想である。中国の「一帯一路」に対するEU版の代替策とも位置づけられ、2027年までに世界全体で最大3,000億ユーロの投資を動員する計画だ。デジタル、気候変動・エネルギー、交通、保健、教育・研究の5分野を柱とし、透明性が高く持続可能なインフラ整備を途上国・新興国と連携して進めることを目指している。
ベトナムは、このグローバル・ゲートウェイ構想において東南アジアにおける最重要パートナーの一つと目されている。急速な経済成長を続けながらも、電力インフラの不足、物流網の整備遅れ、デジタル基盤の構築といった課題を抱えるベトナムにとって、EU発の高品質な投資資金と技術は極めて魅力的だ。EUはベトナムに対し、質の高い投資資金の動員と市場機会の拡大を通じて、持続可能なインフラの強化、イノベーションの促進、良好なビジネス環境の構築を支援し、長期的な成長と安定した雇用創出を実現するとのコミットメントを示している。
日本企業への示唆──競争と協調の新局面
ベトナムとEUの関係強化は、日本企業にとっても無関心ではいられない動きである。日本はベトナムにとって最大級の投資国・ODA供与国であり、2023年にはベトナムとの関係を「包括的戦略パートナーシップ」に格上げしたばかりだ。EUが同様の位置づけを獲得したことで、ベトナム市場における日欧間の投資競争が一段と激化する可能性がある。
一方で、EVFTAとCPTPPの二つの大型FTAを活用したサプライチェーンの再構築という観点では、日本企業にも新たな商機が生まれる。ベトナムを生産拠点としてEU市場へ輸出する「ベトナム経由の欧州戦略」は、関税面での優位性からすでに多くの日系メーカーが実践しており、今回の関係格上げによってベトナムの制度・基準がEU標準に一層近づけば、そのメリットはさらに拡大するだろう。
また、グリーン交通やエネルギー転換、ESGといったフォーラムの主要テーマは、日本企業が強みを持つ分野とも重なる。EU企業との協調や第三国協力の枠組みを活用しながら、ベトナムの持続可能な発展に貢献する道筋を模索することが、今後の鍵となりそうだ。
まとめ──新たなステージに入ったベトナム・EU関係
1990年の外交関係樹立、2012年の「包括的パートナーシップ・協力枠組み協定(PCA)」締結、2020年のEVFTA発効、そして2026年の包括的戦略パートナーシップへの格上げ──ベトナムとEUの関係は、着実に階段を上ってきた。貿易額738億ドル、累計投資320億ドルという実績が示す通り、両者の経済的相互依存は後戻りできないレベルに達している。
今回のフォーラムで議論されたグリーン・デジタル転換やESG基準の普及は、ベトナム経済の「質的成長」を左右するテーマでもある。EUの資金・技術・制度ノウハウとベトナムの成長ポテンシャルが噛み合ったとき、東南アジアの経済地図はさらに大きく塗り替えられることになるだろう。
出典: VnEconomy(Tạp chí Kinh tế Việt Nam)
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