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ベトナム化学業界の最大手企業の一つであるドゥックザン化学グループ(Tập đoàn Hóa chất Đức Giang、ホーチミン証券取引所上場・ティッカー:DGC)の会長ダオ・フー・フエン(Đào Hữu Huyền)氏が、環境汚染、違法な鉱物資源採掘、会計不正の3つの罪で起訴された。合わせて13人の幹部・従業員も起訴され、うち7人が逮捕・拘留されるという衝撃的な事態となった。ベトナム公安省が長期にわたる捜査の末に踏み切った大型摘発であり、ベトナム株式市場のみならず、化学・鉱業セクター全体に大きな影響を及ぼすことは必至である。
事件の概要──公安省が明らかにした3つの重大違法行為
ベトナム公安省の電子ポータルサイトが発表した情報によると、同省の汚職・経済犯罪・密輸捜査局(Cục Cảnh sát điều tra tội phạm về tham nhũng, kinh tế, buôn lậu)が鉱物資源採掘および化学品の製造・販売分野に関する情報収集を進める中で、ドゥックザン化学グループ株式会社(以下、ドゥックザン・グループ)において重大な法令違反の兆候を発見した。捜査の結果、明らかになった主な違法行為は以下の3つである。
①数百万トン規模の廃棄物の違法投棄:ラオカイ省(ベトナム北西部、中国との国境に位置する省)タンロン工業団地(Khu công nghiệp Tằng Loỏng)内およびその周辺の数十ヘクタールにわたる土地に、数百万トンもの廃棄物を違法に投棄していた。これにより深刻な環境汚染が発生し、地域住民の生活に重大な悪影響を及ぼしてきたとされる。タンロン工業団地はラオカイ省バオタン県タンロン社に位置し、ベトナム有数の化学工業集積地として知られている。
②数十万トンのアパタイト鉱石の違法採掘:数十万トン規模のアパタイト(リン鉱石)を許可なく違法に採掘し、その総額は数千億ドンに上るとされる。ラオカイ省はベトナム最大のアパタイト鉱床を抱えており、ドゥックザン・グループはこの鉱石を主原料としてリン酸や各種リン化学製品を製造している。アパタイトは化学肥料やリン酸の原料となる戦略的鉱物資源であり、ベトナム政府が厳格に管理している資源である。
③帳簿外取引と売上隠蔽による脱税:会計帳簿に記載しない取引を行い、売上を隠蔽することで、国家に対して数百億ドン規模の税収損害を与えていた。これは会計規定違反として刑事罰の対象となる重大な行為である。
公安省は、これらの違法行為がドゥックザン・グループにおいて長期間にわたって組織的に行われてきたものであり、地域住民をはじめとする世論の強い憤りを招いてきたと指摘している。
起訴の経緯と14人の被疑者
捜査結果に基づき、汚職・経済犯罪・密輸捜査局は2025年12月25日および2026年3月14日の2回にわたって、「環境汚染」「鉱物資源の調査・探査・採掘規定違反」「会計規定違反による重大な結果の発生」の各罪名で刑事事件として立件した。これらはベトナム刑法第235条、第227条、第221条にそれぞれ該当する。
起訴された14人の被疑者の内訳は以下の通りである。
3つの罪すべてで起訴(1名):
- ダオ・フー・フエン(Đào Hữu Huyền)──ドゥックザン・グループ取締役会会長(HĐQT Chủ tịch)兼ドゥックザン化学ラオカイ一人有限責任会社(Công ty TNHH MTV Hóa chất Đức Giang – Lào Cai)社員総会会長。グループの創業者であり最高実力者として知られ、ベトナム有数の富豪の一人でもある。
2つの罪で起訴(1名):会計規定違反および環境汚染の罪
- ファム・バン・フン(Phạm Văn Hùng)──ドゥックザン化学ラオカイ一人有限責任会社の社長(Giám đốc)
鉱物資源採掘規定違反の罪で起訴(3名):
- チン・クオック・カイン(Trịnh Quốc Khánh)──ドゥックザン・グループ ラオカイ支店の社長
- アン・バン・バン(An Văn Bắng)──カイチュオン25号鉱区(Khai trường 25)の鉱区長
- グエン・ティ・フオン(Nguyễn Thị Hương)──同支店の経理部長
会計規定違反の罪で起訴(9名):
- ダオ・フー・ズイ・アイン(Đào Hữu Duy Anh)──ドゥックザン・グループ取締役会副会長、元総社長。ダオ・フー・フエン会長の息子とされる人物
- ダオ・ティ・マイ(Đào Thị Mai)──ドゥックザン・グループ経理部長
- ホアン・トゥイ・ハー(Hoàng Thúy Hà)──同グループ経理担当
- グエン・ティ・フオン・アイン(Nguyễn Thị Phương Anh)──同グループ出納担当
- ファム・ティ・ビック(Phạm Thị Bích)──ドゥックザン化学ラオカイ社の経理部長
- ダン・ティエン・ドゥック(Đặng Tiến Đức)──ベトナム・フォスフォ・アパタイト株式会社(Công ty Cổ phần Phốt pho Apatit Việt Nam)社長
- ファム・ティ・ビック・フオン(Phạm Thị Bích Phương)──同社の経理部長
- チャン・ミン・トゥアン(Trần Minh Tuấn)──ドゥックザン化学ダクノン一人有限責任会社(ダクノン省に所在する子会社)社長
- グエン・ティ・フオン・タオ(Nguyễn Thị Phương Thảo)──同社の経理部長
身柄拘束の状況──7人逮捕、7人は居住地制限
14人の被疑者のうち、7人に対しては逮捕・拘留の措置がとられた。残りの7人(ファム・ティ・ビック・フオン、ダン・ティエン・ドゥック、ダオ・ティ・マイ、ホアン・トゥイ・ハー、グエン・ティ・フオン・アイン、グエン・ティ・フオン・タオ、ファム・ティ・ビック)に対しては居住地からの外出禁止の措置が適用された。これらの決定はすべて最高人民検察院(第3局)の承認を得た上で執行されている。
公安省は現在も引き続き、起訴済みの被疑者の犯罪行為を立証する証拠・資料の補強を進めるとともに、捜査を拡大し、関連する組織・個人の違法行為を全面的かつ徹底的に処理する方針を示している。また、国家資産の完全な回収に向け、資産の確認・差押え・凍結を進めていることも明らかにした。
ドゥックザン・グループとは何か
ドゥックザン化学グループ(DGC)は、ベトナムを代表する化学企業の一つであり、ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場している。主力製品はリン酸(半導体洗浄用の高純度リン酸を含む)、黄リン、各種リン化学製品で、近年は半導体サプライチェーンの文脈で国際的にも注目を集めていた。ラオカイ省のアパタイト鉱床を原料基盤とし、タンロン工業団地に主要生産拠点を構えている。
創業者のダオ・フー・フエン氏はベトナムのビジネス界で広く知られた人物で、フォーブス・ベトナムの富豪リストにも名前が挙がる存在であった。DGCの時価総額は起訴前の時点で数兆ドン規模に達しており、VN-Indexの構成銘柄としても一定のウェイトを占めていた。
投資家・ビジネス視点の考察
DGC株への直接的影響:会長の逮捕・起訴という事態は、DGC株にとって極めて深刻なネガティブ材料である。ベトナム株式市場では過去にも、FLCグループのチン・バン・クエット会長逮捕(2022年)、ヴァン・ティン・ファット・グループのチュオン・ミー・ラン氏の大型詐欺事件など、経営トップの刑事事件が株価の大幅下落を引き起こしてきた前例がある。DGCの場合、会長の息子であるダオ・フー・ズイ・アイン副会長も起訴されていることから、経営の継続性に対する不安は一層深刻である。ストップ安が連続する可能性も十分にあり、既存株主にとっては極めて厳しい局面となる。
化学・鉱業セクターへの波及:今回の事件は単なる一企業の不祥事にとどまらず、ベトナムの鉱物資源管理・環境規制の運用実態に対する問題提起でもある。ラオカイ省のアパタイト採掘に関連する他企業にも捜査が波及する可能性があり、セクター全体にリスクオフの動きが広がる恐れがある。
環境・ガバナンス(ESG)リスクの顕在化:数百万トンの廃棄物違法投棄という容疑は、ベトナム企業の環境管理体制の脆弱さを改めて浮き彫りにした。近年、ベトナムは外国投資誘致や国際金融市場での評価向上を目指して環境規制の強化を進めてきたが、その実効性に疑問を投げかける事例となった。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:ベトナムは2026年9月にもFTSE新興市場指数への格上げが決定される見込みであり、市場のガバナンス水準が国際的に注目されている。今回の大型摘発は、ベトナム政府が企業の違法行為に対して厳格に対処する姿勢を示したものとも解釈できる一方、上場企業の経営者が組織的な不正を長期間にわたって行っていたという事実は、市場の信頼性に疑問を呈するものでもある。FTSEの評価プロセスにおいて直接的な障害にはならないとみられるが、海外機関投資家のベトナム市場に対するリスク認識には影響を与えうる。
日本企業・投資家への示唆:DGCは半導体向け高純度リン酸の供給元として、日本の電子部品・半導体関連企業のサプライチェーンとも間接的に関わりがある可能性がある。調達先としてDGCを利用している場合、代替調達の検討が必要になるかもしれない。また、ベトナムに進出している日本企業にとっては、現地パートナーや取引先のコンプライアンスリスクを改めて点検する契機となるだろう。
公安省は「捜査を拡大し、関連する組織・個人を全面的に処理する」と明言しており、今後さらに関係者の起訴や関連企業への捜査拡大が進む可能性がある。DGCの経営がどのように継続されるのか、資産凍結・差押えの範囲がどこまで及ぶのか、今後の展開を注視する必要がある。
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