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2025年3月23日(月)、駐EU米国大使アンドリュー・パズダー氏が、欧州議会に対し米EU間の通商協定「ターンベリー協定」を修正なしで批准するよう強く求め、さもなければ米国産LNG(液化天然ガス)の優遇的な供給条件が失われる可能性があると警告した。イラン・米国間の軍事衝突やホルムズ海峡封鎖という地政学リスクが高まるなか、世界のLNG市場は逼迫しており、この問題はベトナムを含むアジアのエネルギー輸入国にも波及し得る重大なテーマである。
ターンベリー協定とは何か
ターンベリー協定とは、ドナルド・トランプ米大統領と欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が、2025年7月にスコットランドのターンベリー(トランプ氏が所有するゴルフリゾートとして知られる)で合意した、米EU間の包括的な通商枠組み協定である。この協定の柱の一つが、EUが2028年までに7,500億ドル相当の米国産エネルギー製品——LNG、原油、民生用原子力技術——を購入するという大型コミットメントだ。
一方、関税面では米国がEUからの大半の輸入品に15%の対抗関税を課す代わりに、EUは米国の工業製品および一部農産物に対する関税をゼロに引き下げることで合意していた。
欧州議会での批准が難航
欧州議会は3月26日(木)に同協定の批准投票を予定しているが、プロセスは順調ではない。トランプ大統領によるグリーンランドに関する発言をめぐる政治的摩擦が批准を遅らせてきた。さらに、欧州議会の議員らは投票予定の法案に複数の「セーフガード条項」を追加。トランプ氏が新たな関税をちらつかせたり、スコットランドで合意した関税免除を復元しない場合、協定を停止できる仕組みを盛り込んだ。
ただし、最終的な文言はEU加盟各国との交渉が必要であり、多くの加盟国がこうした保護条項に反対する可能性が高いとされている。
パズダー大使の警告——LNG供給をテコに圧力
パズダー大使は「ターンベリー協定が履行されなければ、すべてが振り出しに戻り、今後の方向性も予測困難になる」と述べた。米国は引き続き欧州とのビジネスを望んでいるとしつつも、協定が合意通りに実行されなければ「現在のような有利な条件での協力は期待できなくなる」と明言。米国にはEU以外にも多くのLNG顧客が存在する点を強調し、暗にアジア市場への振り向けを示唆した。
さらにパズダー氏は「個人的には、欧州は1兆ドル規模のエネルギー購入を約束すべきだったと考えている。これは欧州側の購入コミットメントであると同時に、米国側の供給コミットメントでもある。欧州は経済成長と安定のためにエネルギーを必要としており、米国はそのニーズに応えられる」と踏み込んだ発言をしている。
メタン排出報告義務への反発
もう一つの争点は、EUが2027年1月1日から域内への輸出者にメタン排出量の申告を義務付ける規制である。パズダー氏は、米国の大多数の生産者がこの要件を満たすのは困難であると指摘し、ブリュッセルに規制の見直しを求めた。欧州委員会は同規制が輸入活動に影響を与えないよう保証しているものの、パズダー氏は「現行規制は燃料コストを押し上げ、欧州がいずれ一部の貿易障壁を緩和せざるを得なくなる」との見方を示した。
ホルムズ海峡封鎖と世界LNG市場の逼迫
EU内の協定修正リスクが浮上したタイミングは、世界のLNG市場が極度の緊張状態にある時期と重なっている。世界のLNG供給の約5分の1を占めるカタールは、イランによるホルムズ海峡封鎖を受けてLNG輸出を停止。さらに先週にはカタールのラス・ラファン(世界最大級のLNG生産拠点)が攻撃を受け、供給不足の長期化懸念が一段と強まった。
英紙フィナンシャル・タイムズによれば、米イラン間の戦闘が始まる前、ホルムズ海峡を通過するLNGのうち欧州向けはわずか約10%に過ぎなかった。しかし輸入ガスへの依存度が高い欧州は、グローバルな供給争奪戦が激化すれば大きな打撃を受ける構造にある。とりわけイタリアなど一部のEU加盟国は、国内LNG消費量の3分の1をカタールから輸入していた実績がある。
米最高裁判決後の関税動向
なお、米最高裁が対抗関税を違憲と判断した後、トランプ大統領は別の法的根拠に基づいて新たなグローバル関税を即座に導入し、2026年7月24日まで有効としている。この結果、米国のEU産品に対する実効平均関税率は約15.8%に上昇した。パズダー氏は、最終合意に何らかの変更が加えられた場合、米国はその修正が自国にとって受け入れ可能かどうかを改めて検討すると述べている。
投資家・ビジネス視点の考察
本件は直接的にはベトナム国内の問題ではないが、ベトナム経済および株式市場への影響を以下の観点から注視すべきである。
1. LNG価格高騰とベトナムのエネルギーコスト:ベトナムは急速な工業化に伴いLNG輸入を拡大中であり、タイビン省やバリア=ブンタウ省でLNG受入基地の整備を進めている。ホルムズ海峡封鎖に加え、米国産LNGが欧州市場に囲い込まれる——あるいは逆に欧州向けが減ってアジア市場に回る——といったシナリオ次第で、ベトナムが調達するスポットLNG価格は大きく変動し得る。ペトロベトナムガス(GAS)など関連銘柄への影響は大きい。
2. ベトナム製造業への間接的影響:EUと米国の貿易摩擦が激化すれば、EU企業がサプライチェーンの多元化を加速させ、ベトナムへの生産移管が進む可能性がある。一方で、トランプ政権のグローバル関税政策はベトナムからの対米輸出にも15%超の関税リスクをもたらしており、楽観はできない。
3. FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月にFTSEによるベトナムの新興市場格上げ判断が見込まれているが、グローバルなエネルギー市場の不安定化は世界的なリスクオフを招き、格上げ効果による資金流入を相殺する恐れがある。投資家は地政学リスクとファンダメンタルズ改善のバランスを冷静に見極める必要がある。
4. 日本企業への示唆:日本もLNG最大級の輸入国である。米国がEU向けLNGを制限すれば、EUがアジア市場でスポット買いに走り、日本やベトナムとの調達競争が激化する。住友商事やJERAなど日本のLNG関連企業、そしてベトナム現地で電力・ガス事業に参画している日系企業にとっても、調達コスト増大リスクは看過できない。
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出典: 元記事












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