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ベトナムの商業銀行各行が一斉に預金金利を引き上げている。信用(貸出)の伸びが預金の伸びを上回り、銀行システム全体の流動性(資金余力)が以前ほど潤沢ではなくなっていることが背景にある。銀行セクターはまさに「金利競争(cuộc đua lãi suất)」の局面に入っており、今後のベトナム経済と株式市場に広範な影響を及ぼす可能性が高い。
何が起きているのか——預金金利の一斉引き上げ
2026年3月に入り、ベトナムの主要商業銀行が相次いで預金金利(lãi suất tiết kiệm)の引き上げに踏み切った。これは単一の銀行による個別の動きではなく、業界全体に及ぶ「同時多発的」な金利引き上げである点が重要である。
ベトナムの銀行業界では、2024年後半から2025年前半にかけて歴史的な低金利環境が続いていた。ベトナム国家銀行(SBV、中央銀行に相当)が景気刺激のために政策金利を引き下げ、各行も預金金利を大幅に下げていたためである。しかし足元では状況が一変しつつある。
背景①——信用拡大ペースが預金を上回る
最大の要因は、銀行の貸出(信用=tín dụng)が急速に伸びている一方で、預金(huy động=資金調達)の伸びがそれに追いついていないことである。ベトナム政府は2025年以降もGDP成長率目標を高く掲げ続けており、企業の設備投資需要や不動産関連の融資が拡大している。製造業を中心とした外国直接投資(FDI)関連企業の運転資金需要も旺盛だ。
通常、銀行は預金で集めた資金を原資に貸出を行う。貸出が預金を上回るペースで増えると、銀行は資金不足に陥るリスクがある。この「信用と預金の伸び率の乖離」こそが、今回の金利引き上げ競争の根本的な原因である。
背景②——システム全体の流動性がタイト化
もう一つの要因は、銀行間市場(インターバンク市場)の流動性が「以前ほど潤沢ではない」状態になっていることである。2024年から2025年前半にかけて、SBVの緩和的な金融政策によりシステム全体に資金が溢れていたが、信用需要の増加や季節的な資金需要(旧正月明けのビジネス再開、年度初めの投資計画実行など)により、余剰資金が吸収されつつある。
流動性がタイトになると、銀行間で短期資金を融通し合うコストも上昇する。結果として、各行は「より高い金利を提示してでも個人・法人の預金を確保したい」というインセンティブが強まり、金利の引き上げ合戦が始まるわけである。
ベトナムの金融システムの構造的特徴
日本の読者にとって理解しておくべき背景がある。ベトナムの銀行セクターは、国有商業銀行(ベトコムバンク=VCB、ビエティンバンク=CTG、BIDV、アグリバンクなど)と民間商業銀行(テクコムバンク=TCB、VPバンク=VPB、MBバンク=MBBなど)が混在する構造である。国有行は預金基盤が大きく比較的安定しているが、民間行は預金獲得のために金利競争に積極的に参加せざるを得ない傾向がある。
また、ベトナムでは個人の資産運用手段として「定期預金」が依然として主流であり、金利水準の変動は家計の資金配分(預金 vs 株式 vs 不動産 vs 金)に直接的な影響を与える。預金金利が上昇すれば、株式市場や不動産市場から資金が流出するリスクも生まれる。
投資家・ビジネス視点の考察
銀行株への影響:預金金利の上昇は銀行にとって「調達コストの上昇」を意味する。もし貸出金利の引き上げが預金金利の上昇に追いつかなければ、NIM(純金利マージン=Net Interest Margin)が圧縮され、銀行の収益性が低下する。VN-Index(ベトナムの代表的な株価指数)において銀行セクターは時価総額の約3割を占める最大セクターであり、NIM縮小の懸念は指数全体の重しとなりうる。
不動産セクターへの波及:貸出金利が上昇すれば、住宅ローンや不動産開発融資のコストも増加する。ベトナムの不動産市場は2025年後半から回復基調にあったが、金利上昇が回復の勢いを削ぐ可能性がある。ビンホームズ(VHM)やノバランド(NVL)など不動産大手の株価にも注意が必要である。
日系企業・ベトナム進出企業への影響:ベトナムドン建ての借入コストが上昇する可能性がある。製造拠点の運転資金をベトナム国内で調達している日系企業にとっては、財務コスト増加の要因となりうる。一方で、ベトナムドンの預金金利上昇は、ドン建て資産の魅力を相対的に高め、通貨安圧力の緩和にも寄与しうる。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月にFTSEラッセルによるベトナムの「フロンティア」から「新興市場(セカンダリー・エマージング)」への格上げ判断が見込まれている。格上げが実現すれば大量の海外資金流入が期待されるが、金利上昇による景気減速懸念が市場のセンチメントを悪化させれば、格上げ前の「期待先行ラリー」に水を差す展開もありうる。ただし、逆に言えば、金利上昇はベトナムドンの安定に寄与し、海外投資家の為替リスク懸念を和らげるプラス面もある。
マクロ経済の文脈:今回の金利上昇圧力は、ベトナム経済が「低金利による景気刺激フェーズ」から「信用拡大に伴う正常化フェーズ」に移行しつつあることを示唆している。SBVが今後どのようなスタンスで金融政策を運営するか——追加的な流動性供給に動くのか、それとも信用拡大の過熱を警戒して現状を容認するのか——が、市場の方向性を大きく左右するだろう。
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出典: 元記事(VnExpress)












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