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ベトナムのファム・ミン・チン首相がロシア公式訪問の一環として、モスクワでロシア国営石油企業Zarubezhneft(ザルベジネフチ)を訪問し、両国のエネルギー協力を従来の石油・ガス分野から洋上風力発電や第三国でのプロジェクトへと拡大する方針を確認した。ロシア側からは約1GW規模の洋上風力発電所の建設構想が提案され、ベトナムのエネルギー転換と安全保障の双方に関わる重要な動きとして注目される。
40年超の石油・ガス協力——VietsovpetroとRusvietpetro
Zarubezhneftは、ベトナムにとって最も歴史の長いエネルギーパートナーの一つである。同社はベトナム国営エネルギー企業PetroVietnam(ペトロベトナム、略称PVN)と40年以上にわたり協力関係を維持してきた。その中核を成すのが、ベトナム国内で操業する合弁会社Vietsovpetro(ビエトソブペトロ)と、ロシア国内で操業するRusvietpetro(ルスビエトペトロ)の2社である。
Vietsovpetroはソ連時代の1981年に設立され、ベトナム南部沖のバリア=ブンタウ省沖合の大陸棚で石油・ガスの探査・開発を行ってきた。ベトナムの石油産業の礎を築いた存在であり、同国のエネルギー自給率向上に決定的な役割を果たした。一方、Rusvietpetroはロシア国内のネネツ自治管区で油田を開発しており、ベトナム側にとっては海外での資源確保という戦略的意義を持つ。
今回の訪問は2026年3月24日(現地時間午後)にモスクワで行われ、ロシア側からはアレクサンドル・ノヴァク副首相、ベトナム側からはブイ・タイン・ソン副首相がそれぞれ同席した。
洋上風力1GW構想——石油企業がグリーンエネルギーへ舵を切る
会談でZarubezhneft側は、ベトナムのパートナーとの協力を新分野へ拡大する方針を示し、目玉として約1GW(ギガワット)規模の洋上風力発電プロジェクトを提案した。加えて、第三国における共同プロジェクトの実施可能性についても研究を進める意向を表明した。
ベトナムは南シナ海に面した長大な海岸線を有し、世界銀行の調査でも洋上風力の潜在ポテンシャルが約475GWに達すると推定されている。政府は2023年5月に承認した電力開発計画第8次(PDP8)で、2030年までに洋上風力6GWの導入目標を掲げたが、制度整備の遅れや買取価格(FIT)の未確定などから、実際のプロジェクト進捗は大幅に遅れている。Zarubezhneftの提案は、こうした停滞局面に新たなプレーヤーを呼び込む可能性がある。
石油メジャーやガス企業が洋上風力に参入する動きは世界的なトレンドであり、欧州のEquinor(エクイノール)やShell(シェル)、TotalEnergies(トタルエナジーズ)が先行してきた。ロシア企業がこの流れに参加するのは異例だが、Zarubezhneftはベトナムでの長年の操業経験と現地ネットワークを持っており、Vietsovpetroが保有する海洋エンジニアリング技術や設備を洋上風力に転用できる可能性がある点は注目に値する。
原子力協定にも言及——ロシアとのエネルギー関係は多層化
ノヴァク副首相は、エネルギー協力がベトナム・ロシア二国間関係の「柱」であると強調した上で、今回の訪問で署名された文書を高く評価した。特に注目されるのは、同副首相がベトナム政府とロシア政府の間で原子力発電所建設に関する協力協定が締結されたことに言及した点である。
ベトナムは2016年にニントゥアン省での原子力発電計画を一度凍結した経緯があるが、増大する電力需要とカーボンニュートラル目標の達成に向けて原子力の再検討を進めている。ロシアの国営原子力企業Rosatom(ロスアトム)が当初の計画でも主要パートナーに位置づけられていたことから、今回の協定は事実上の計画再始動と読むことができる。
法的枠組みの整備——議定書改定と活動区域拡大
チン首相は、VietsovpetroおよびRusvietpetroに関する政府間協定の改正議定書が交渉・署名に至ったことを高く評価した。具体的には、ベトナム大陸棚およびロシア領土における地質探査・石油ガス採掘の活動区域拡大と契約期間延長が盛り込まれている。これは、2025年5月のトー・ラム共産党書記長(ベトナム共産党トップ)によるロシア訪問時に署名された文書の具体化にあたる。
さらに、Zarubezhneftがベトナムへの原油・ガス・石油製品の長期安定供給を提案したほか、ベトナム国内での石油備蓄基地建設の構想も示された。チン首相はこれらについて、ベトナムの法令、エネルギー戦略、開発計画に適合する形でPetroVietnamおよびベトナム企業と協力してプロジェクトを策定し、所管当局に報告するよう求めた。
会談の場では、PetroVietnamとZarubezhneftの間で具体的な事業契約の署名式も行われ、チン首相とノヴァク副首相が立ち会った。
第三国での共同事業——協力の地理的拡大
チン首相は、ベトナムとロシアの石油・ガス協力を第三国にも展開することに同意し、両者に対して早急に具体的な活動を開始するよう求めた。PetroVietnamはすでにアルジェリア、ペルー、ミャンマーなど複数の国で探査・採掘事業を展開しており、ロシアとの第三国協力が実現すれば、ベトナムのエネルギー外交の幅がさらに広がることになる。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナム株式市場への影響:今回の動きで最も直接的な恩恵が期待されるのは、PetroVietnam傘下の上場企業群である。PetroVietnam Gas(GAS)、PV Drilling(PVD)、PV Power(POW)、PetroVietnam Technical Services(PVS)などは、探査・採掘区域の拡大や洋上風力への参入による新規受注が見込まれる可能性がある。特にPVSは海洋エンジニアリングサービスを手がけており、洋上風力の建設・保守需要を取り込むポジションにある。
洋上風力関連の制度リスク:一方で、ベトナムの洋上風力は買取価格制度や海域利用の法整備が依然として途上にある。Zarubezhneftの1GW構想が実際にFID(最終投資決定)に至るまでには、ベトナム政府による価格メカニズムの確定、環境影響評価手続きの整備、送電インフラの計画策定といった複数のハードルをクリアする必要がある。中長期的な成長テーマとしてはポジティブだが、短期的な収益貢献を期待するのは時期尚早である。
地政学的文脈:西側諸国の対ロシア制裁が続く中、ベトナムがロシアとの二国間エネルギー協力を深化させることは、外交的なバランス感覚の表れでもある。ベトナムは「四不一不依存」(四つの「しない」と一つの「依存しない」)を外交原則として掲げ、特定の大国に偏らない全方位外交を展開している。今回の訪問もこの文脈で理解すべきであり、西側企業との協力を排除するものではない。
日本企業への示唆:日本企業にとっては、ベトナムの洋上風力市場における競争環境の変化を意味する。JERAや住友商事、丸紅などがベトナムでの再生可能エネルギー事業を検討しているとされるが、ロシア勢の参入によってパートナーシップの組み合わせが複雑化する可能性がある。ただし、ベトナム政府は多様な技術・資金源を歓迎する姿勢を示しており、日本企業にとっての機会が縮小するわけではない。
FTSE新興市場指数との関連:2026年9月にも決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げは、海外からの資金流入を大幅に増加させるとみられている。エネルギーセクターはベトナム株式市場の時価総額の大きな部分を占めており、PetroVietnam関連銘柄の事業拡大は指数構成銘柄の魅力度向上にも寄与する。格上げを見越した先回り投資の対象として、今回のニュースは中長期的な材料となり得る。
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出典: 元記事












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