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ベトナムの老舗貴金属企業「バオティン・マインハイ(Bảo Tín Mạnh Hải、以下BTMH)」が、2026〜2030年の中期経営戦略を正式に発表した。2025年の売上高は約2兆7,891億ドンを達成し、計画を19.2%上回る好業績。わずか12店舗でROE(自己資本利益率)110%超という驚異的な資本効率を叩き出した同社は、2030年までに全国約450店舗を展開し「国民的ゴールドブランド」の座を狙う。ベトナムの金市場はいまなお約70%が個人経営の伝統的店舗で占められており、チェーン展開による市場再編の余地は極めて大きい。
2025年度業績:売上2兆7,891億ドン、純利益774億ドンの快進撃
グラントソントン・ベトナム(Grant Thornton Vietnam)による監査済み財務報告書によると、BTMHの2025年度の純売上高は2兆7,891億ドンに達し、当初計画を19.2%上回った。税引後純利益は774億ドンで、計画比でほぼ88%の超過達成である。特筆すべきはROE(自己資本利益率)が110%を超えたことだ。これはベトナム国内のあらゆる業種を見渡しても極めて高い水準であり、金・貴金属業界においては際立った数字と言える。
さらに注目すべきは、この業績がわずか12店舗の運営で達成されたという点である。2025年末時点の店舗網は、ハノイ市内に9店舗、バクニン省(Bắc Ninh、ハノイの北東約30kmに位置する工業都市)に1店舗、ハイズオン省(Hải Dương、ハノイの東約60km)に1店舗で、2025年末にハノイ・ゴークエン通り18番地に12号店を新規開業した。1店舗あたりの売上高は単純計算で約2,324億ドンとなり、金小売業としては異次元の販売効率である。
資本増強と株主還元:資本金を300億ドンから500億ドンへ
財務面では、BTMHは第三者割当増資により資本金(điều lệ)を300億ドンから500億ドンへ引き上げた。5名の投資家に対して2,000万株を割り当て、この資本変更は2026年2月26日付でハノイ市財務局により承認されている。また、2024年度の配当として額面に対し7%の現金配当を実施済みである。
第三者割当の実施は、今後の急速な店舗展開に向けた運転資金および設備投資資金の確保を目的としたものと見られる。金小売業は在庫として大量の現物金を保有する必要があり、店舗数の拡大は直接的に運転資金需要の増大につながる。500億ドンへの増資は、450店舗体制という壮大な目標に向けた第一歩と位置づけられる。
34年の家族経営から近代的コーポレートガバナンスへ
BTMHは1992年、職人(ギェーニャン=nghệ nhân)のヴー・マイン・ハイ氏とグエン・ティ・タイン・ヴァン氏によって創業された。「バオティン(Bảo Tín=信頼を守る)」ブランドは、ハノイの金市場において30年以上にわたり庶民から厚い信頼を集めてきた老舗である。ベトナムでは金が伝統的に資産保全の手段として重視されており、結婚式や旧正月(テト)の贈答品として金を購入する文化が根強い。こうした文化的背景の中で、バオティンは「信頼できる金の店」として世代を超えて支持を獲得してきた。
2025年は同社のガバナンス改革にとって転換点となった。創業者の息子にあたる第2世代のヴー・フン・ソン氏が取締役会(HĐQT)議長に就任し、従来の「監視型ガバナンス」から「価値創造型ガバナンス」への転換を推進している。取締役会は5名で構成され、全員が業務執行に直接関与しない非執行取締役である。2025年8月29日の臨時株主総会で独立取締役としてホアン・クオック・アイン氏が選任された。取締役会議長がCEO(総支配人)を兼務しないという国際的なコーポレートガバナンスの原則も遵守されている。
これは、ベトナムの同族経営企業においては極めて先進的な取り組みである。ベトナムでは多くの上場企業でさえ創業家が経営と監督の双方を兼ねるケースが依然として多く、BTMHの統治改革は将来的な株式公開(IPO)や外国資本の受け入れを視野に入れた布石とも読み取れる。
2026年に68店舗を一気に新規出店、2030年に450店舗体制へ
BTMHの中期経営戦略(2026〜2030年)のビジョンは明快である。「ベトナム最大規模の国民的ゴールドブランドとなり、24K金ジュエリー市場をリードする」ことだ。具体的な数値目標として、2030年までに全国約450店舗のネットワークを構築し、数百万のベトナム家庭にサービスを提供することを掲げている。
2026年単年では68店舗以上の新規出店を計画しており、年末までに累計80店舗体制を目指す。12店舗から一気に80店舗への拡大は、年間で6倍以上のペースであり、金小売業界では前例のないスピード感である。
この急拡大を支えるのが、同社が2021〜2025年の準備期間に構築した「標準化モデル」である。店舗設計、オペレーション、人材教育、在庫管理に至るまでをパッケージ化し、フランチャイズに近い形で迅速に展開できる仕組みを整備した。BTMHはこの標準化こそが、伝統的な金販売店との最大の差別化要因だと位置づけている。
人材面では、2030年までに従業員数を約1万人規模に拡大する計画である。販売スタッフは専門的な「コンサルタント型」の接客教育を受け、給与水準は業界平均を20〜30%上回る待遇を提供するとしている。
「キム・ザー・バオ」ブランドと24K金ジュエリー市場の可能性
BTMHが戦略の柱に据えるのが「キム・ザー・バオ(Kim Gia Bảo)」という24K金の貯蓄用ゴールドラインである。ベトナムでは伝統的に「金を買って蓄える」文化が根強く、銀行預金や株式投資よりも現物の金を信頼する層が依然として厚い。世界金評議会(World Gold Council)のデータに基づく推計では、ベトナムの金市場規模は最低でも42兆7,000億ドン以上とされ、そのうち約70%が個人経営の伝統的店舗によって取り扱われている。
この市場構造は、組織化されたチェーン展開を行う企業にとって巨大な成長機会を意味する。品質保証、価格透明性、アフターサービスといった面で、伝統的な個人店にはない付加価値を提供できるチェーン型の金小売は、消費者のニーズの高度化とともにシェアを拡大する余地が大きい。
投資家・ビジネス視点の考察
1. ベトナム金市場の構造変革と投資機会:BTMHの戦略は、ベトナムの金小売市場における「近代化」と「チェーン化」の流れを象徴するものである。ROE110%超という数字は、金価格上昇局面における在庫評価益の寄与も考慮する必要があるが、それを差し引いても12店舗で売上2兆7,891億ドンという実績は圧倒的だ。同社が将来的にIPOや上場を目指す場合、ベトナム株式市場における注目銘柄となる可能性が高い。
2. 急拡大に伴うリスク:12店舗から450店舗への急拡大は野心的であると同時に、大きなリスクも伴う。金小売業は巨額の在庫(現物金)を抱える必要があり、金価格の急落時には評価損リスクが発生する。また、人材の急速な採用と教育の質の維持、地方市場における需要の見極めなど、オペレーション面の課題も多い。500億ドンの資本金が450店舗体制を支えるのに十分かどうかも注視すべきポイントである。
3. 日本企業への示唆:ベトナムの金市場の近代化は、POSシステム、セキュリティ設備、店舗内装、デジタルマーケティングなどの分野で日系企業にもビジネスチャンスをもたらす可能性がある。また、BTMHのような急成長企業への出資や業務提携も検討に値する。
4. FTSE新興市場指数の格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げが実現すれば、ベトナム株式市場全体への海外資金流入が加速する。BTMHが今後上場を果たした場合、消費関連の内需銘柄として海外投資家の関心を集める可能性がある。金小売業という独自性のあるセクターは、ベトナム市場のユニークな投資対象として注目されるだろう。
5. ベトナム経済トレンドにおける位置づけ:ベトナムの中間層拡大と個人消費の成長は、金ジュエリー需要の底上げ要因となる。一方で、ベトナム政府は金市場の透明化・規制強化を段階的に進めており、正規の企業による組織的な販売チャネルが有利になる政策環境が整いつつある。BTMHの戦略は、こうしたマクロトレンドと政策方向性の双方に合致していると言える。
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